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新規事業のアイデアを評価するすべての大企業の社長・取締役に読んで欲しいと切に願う新規事業メンターからの超長文ラブレター

拝啓
大企業の社長や取締役の皆さまへ

コロナウイルスが猛威をふるう今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。新年度を控え、来期の構想を膨らませていることと存じます。

ここ数年、各社とも新規事業への取り組みは様々な形で取り組まれてきました。新規事業コンテストやアクセラレータープログラム、オープンイノベーションなどが盛んに行われています。

新規事業コンテストやアクセラレータープログラム、オープンイノベーションの担当者から、事業案を評価したり、ピッチイベントに出席するよう求められていませんか?

その時の新規事業のアイデアの判断基準をぜひお伝えさせていただきたく、この手紙をしたためさせていただきました。長文にはなりますが、ぜひ一度お目通しいただけると光栄です。

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まず最初にご理解していただきたいこと。それはスタートアップは決して特殊なことではないということです。新規事業とスタートアップはイノベーションを目指すという点において同じなのです。

スタートアップはスタートアップのエコシステム(経済圏)全体において事業が創造され、新規事業は大手企業の中で事業が創造されるという違いのみです。

新規事業を作るために必要なプロセスと、スタートアップが起業をするプロセスもほぼ同一で、それらが成長するために必要なアクションもほぼ同一なのです。

しかしながら、事業に対する評価は同一に行われていないのが実情です。

スタートアップはVCが”スタートアップ”として評価しているのに対して、新規事業は大手企業において既存事業と同じように評価されています

既存事業は既に組み上がった方程式(ビジネスモデル)を、解くこととアップデートすることで大きな売り上げを立て続けています。一方、新規事業は社会に問いを立てること(ビジョンとイシュー)から始まり、それを解くこと(実証、フィジビリティスタディ)で、方程式(ビジネスモデル)を作り上げることを目指します。

ビジネスのフェーズが違うのです。その違いを理解していただけると、より評価がしやすくなりませんか?

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新規事業が既存事業と一番異なることは、ロジックの組み上げができるかできないかにあります。

既存事業はこれまで取り組んできた過去からの延長線上に対して、自社の経験や他社の事例を重ね合わせることで未来を予測します。そのため容易に判断できる材料が整います。

一方で新規事業はまだ誰も見たことのない未来を切り拓くために取り組むものです。そのため、はっきりいって評価することは誰にもできないのです。まず取り組むことが大事。

それでももちろん次のステップとしてまず取り組む事を承認するかどうかの判断は必要です。その時に見るべき判断基準をお伝えさせていただきたいと思います。

その判断基準は3つです。
①アイデアに「共感」できるかどうか
②アイデアから「顧客像」が思い浮かぶかどうか(承認者が必要かではなく、その顧客が必要としているか)
③起案者に「次世代リーダー」を任せる資質を感じられるか

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イノベーションはビジョンを掲げることから始まります。ビジョンを掲げると現状とのギャップが見えてきます。そのギャップこそが「問題設定」です。その問題を因数分解して「課題設定」ができます。その課題をどれから解くかが戦略であり、どうやって解くか戦術です。

一方既存事業に取り組んでいる人たちは、なかなか将来のビジョンを思い描く機会が与えられません。大手企業というのは「分業」をより効率的に効果的に行うことで、大きな売り上げをあげることを突き詰めている組織形態のため、一人一人のビジョンよりも一人一人が役割の中で最大の成果を出すことが重要だからです。

しかし、変化が激しい時代。コンピュータの情報処理能力の向上、インターネットの普及、資本主義の成熟による消費行動の変化、スマホによる常時の情報のインプットとアウトプット。そして、コロナショック。未来の不確実性は増し、誰にもその未来を予測することはできなくなりました。

昨日の当たり前が今日当たり前ではなくなる。そんな時代だからこそ、未来に対するビジョンを複数のシナリオとして持ち、それにチャレンジすることが必要不可欠です。そして未来に対するビジョンは、多様な価値観によって多様に描かれるべきです。

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「新規事業」を作ることは「売上」を作ることが目的ではありません。将来のビジョンを描き、そこにいる顧客の本質的で潜在的なニーズに直接向き合い、その顧客をハッピーにし、社会をより良くする。売上はその結果として副次的に得られるものに過ぎません。

新規事業の1歩目は、まずビジョンを真剣に考えること、そして顧客と徹底的に向き合うことにフォーカスを当てることが大切です。新規事業はそう簡単に事業計画として満ち足りるものを仕上げることはできません。だからこそよりビジョンにフォーカスし、問題を浮きぼらせることが重要なのです。

事業が成立するかどうかは実際にフィジビリティを通じて実証実験をする以外に確認する方法はありません。だから、新規事業のアイデアを承認するということは実証実験をして良いかどうかであることにあることだということなのです。

この点をご理解いただけると、両利きの経営でいう「探索」ができているといえる環境が整うでしょう。

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繰り返します。新規事業のアイデアの評価は、事業計画の承認ではないのです。

投資家としてどのビジョンに張りたいかという観点でアイデアを評価して欲しいのです。事業計画としてのロジックが成立しているかどうかではなく、提案者が掲げるビジョンに共感できるかどうか。顧客像が鮮明に思い浮かぶかどうかを見て欲しいのです。

そしてそれによって次のステップとして事業として実証実験することに予算を割いていいかどうかをご判断ください。

費用は一件あたり高くても5-600万程度しか必要ありません。アイデアを次のステップに進めるためにはその程度でできることをやることが大切なのです。

事業として成功するかどうかはアイデアのタイミングでは判断をつけることは誰にもできません。スタートアップの投資家もこの「シード」と呼ばれるフェーズで絶対にうまくいくかどうか判断ができるケースなどほとんどないのです。だからこそ「共感」を重視していただきたいです。

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またこの「ビジョンを設定し、ギャップを問題として設定し、そこから課題を定義する」という経験と「それをストーリーで語って共感を得る」という経験は、最終的にビジネスがうまくいかなかったとしても、必ず現業にも生きてきます。

先の見通しができない現代において、次世代リーダーが必ず持つべき資質だからです。今後のフィジビリティに進めれば、それはより一層身につくことができます。

新規事業を経験させるということは、次世代リーダーを育成することそのものでもあるのです。だからこそ、次のステップでそれをより身につけて、将来会社を担う存在へと成長してほしい人物にはぜひアイデアが全く理解できなかったり、些末だと思われたとしても、ぜひ次のステップへと進めて欲しいのです。

ほんの小さな一歩でも、それを積み重ねていけば、その一歩の数を増やしていけば、未来を切り拓くことも難しいことではありません。

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スタートアップ村より愛を込めて

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