白い朝のできごと
早春の白い朝
月の中にもう一つの月があった
女は寝巻きのまま
裸足で庭にでた
髪を井戸の水で濡らし
黒い霧となって上昇し
霊的な風に乗って
北に流されていった
気流に身を任せていると
たおやかなフーガが地上から聞こえてくる
そこは川の交わる場所
出迎えたのは2つの悲しい魂
女は頼まれて
河原に散らばる音の葉を拾って
数珠繋ぎにして天に運んだ
が 途中でしくじった
光がギリギリ届くあたりで
闇の皮膜に足を滑らせ
底なしの黒い穴へ
吸い込まれていってしまった
気がつくと女は元の寝室にいた
目覚ましの不快なアラーム
液晶モニターからは大津波のニュースが流れている
さっきまで天女のように空を舞っていたはずなのに
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