インド ベンガル語の詩 臼田雅之訳 ジボナノンド・ダーシュ


『時、ときならぬ時、不吉な時』



   

おお炎よ、おまえは 果てしない 星の列なり、暗闇に

おまえの 聖なる火が 燃える

ぬばたまの闇夜が もし 創造の最後の言葉であるなら

そして、その写しが 人間の心であるなら、

それでも ふたたび 光りは 創造の 濃密な心意の力で

燃えあがる、時間の 空の 大地の 胸に、

わかったのである 夜明けごろの 日の光りに 空の青さに

暗い ひそまりかえった夜に 無数の 星辰の炎先に、

大いなる世界が ある日 真っ暗な闇夜になってしまうなら

口では言わないにしても、女よ、心で思った そのことに

狙いを定めて、暗闇の力である光りは 黄金のように

体となり 心となろう、そして おまえはなる そのすべての光りに


                      真冬の月隠りの夜に




   











わたしに一つの言葉をおくれ


わたしに一つの言葉をおくれ 大空のように

       単純で 偉大で 広大で

深遠な言葉を、――すべての 疲れ、傷つき、死んだ、犠牲の鳩の血で

くすんだ歴史の内面を洗って、見知った手のような  

わたしが 久しいこと愛してきた あの女の

あの夜の 星に照らされた 濃密な風のような、

あの昼の――光りの 果てしない エンジンで震える翼のような、

あの輝かしい 雌鳥の――鳥のすべての渇きを

火のように目映いと見る人は 燃え尽きなんとする蝋燭のようだ
























   

   

   おまえに


野原の繁みに 木の間に ほら、昼の光りが、

家の妻女が 餌を恵むものたちのように 多くは飛び立ち

ヒジョルの樹に ジャームの森に 黄色い鳥のように

〈美の海〉の岸辺から つばさをひろげて

現実の日の光りなのか いまは? ほんとうの鳥なのか?

だれが どこで、いつ だれの心を 傷つけるのか。

日の光を迎え入れるのを見たのだ 過酷な時に――旅の道すがら――

女がそうするのを、――だが 考えてしまったのだ 外の自然のものだと

今日は、かのすべての〈愛の美神〉の応答のようだ、けれども

暗闇の 大いなる永遠の神から見て 

秋のアッシン月の 時分に適った この寒さの 夜明けのころならば

「わたしは日の光か、それとも塵、鳥か、それともあの女?」と言って

葉、石、死、仕事の 大地の洞窟から わたしは聞く

河や、露や、鳥や、風が、ものを言いおわったあとに

穏やかな清々しさがひとつ この大地のいのちに

実を結ぼうとしたとしても、 気落ちした悲しみのように

たとえ道があるとしても――そうであっても 騒々しさに 虚しい抱擁に

指導者、修行者、国家、社会は 疲れ果ててしまう

どのいのちも 暗闇に みずからの自意識の島のようだ――

なにかひとつ 巨大な頽廃の 人間の海に。

それでも おまえを知ったのだ 女よ、歴史の終わりに来て、人間の才能の

粗暴さと 稔りなさの 下劣極まる暗闇に

人間ではなく、女よ、ただおまえを愛して

わかったのだ あらゆる毒が どのようにして 甘美となるかを。

 










   

時間の橋への道すがら


夜明けの 野原 荒野 青い頸をした鳥

真昼間の 虚空に 青い丘の 碧さ

日もすがら 魚と日の光り さざめく 水の音――

だれも住まない 外の間 家の主婦の この境界。


それでも 日の光りは 海に消えてしまった

言ったのである「多くの人間が死んでしまった」、「多くの女たちも

一緒に いなくなってしまったのだろうか?」――と言いかけた私


高い樹の 灰色の骨に 月だろうか その鳥は

風や 空や 星や 巣を さがして

とまっている この自然の瞬きに もの深くなり

男と女は いなくなってしまった 若草川の 気のゆるみに

はかりしれない よい時のように こころに 安座している






















   句読点のない


夕暮れが募りゆくと たくさんの雲がひしめき

幾筋かの もっとも長く尾をひいた 太陽の光りが 胸に

目覚めさせ 黄色と 青と 橙色の光りのうちに

燃えあがって 零れ落ちてしまった 暗闇のあぎとに。

若者たちはみな、それぞれの波に――

娘たちはみな、それぞれの愛する者とともに

どこにあるなんて 知らないね

どこだ 社会、経済は? 天国行きの階段は

壊れてしまい、足の下で 血の川のようだ―

人間は 漸次終末へ向かう旅路の 微細身をもつ女

となって きょう 四方の数えきれない灰色の壁に

散らばっているのか みずからの多島海を占拠して!

最高神、大衆、男女、人間性無数の革命は、

意味を失ってしまった――それでも もう一つの新しい夜明けに

意味あることが得られるだろうと考え 人間は集まって

道々 万人の吉祥の住居である社会をつくり  

それでも みずからの浸食する水で 島を造るだけだった。

古いことがらを新しくして この地球の無数の兄弟姉妹は

考えている ひとり ひとり坐り

戦争、血、情欲、恐怖の叫喚の隙間で

わたしたちの この空、海は きょう、光に、闇に

厳重な扉は、ないようだが――その扉を押し開け

また光のうちに行かねばならぬ 偽りの光の罪を振り捨て









たくさんの川の水  

  

たくさんの川の水が 蒸発してしまった――

小屋も 家も 竹の橋も 壊れてしまった

そのすべての時を 通り抜けて きょう

それでも そばにやってきた者たちがいる。

いつの日も 動いたためしのない 太陽を

――もし 心のうちで 見ることができるなら――

だれも見たことがない女――六つか七つの星の闇に

その川の女は 心のうちにやって来たのだ。

言葉を言ってごらん――わたしは生と死の音を聞く

あさ 草に宿る 露の玉は 

ほどなく 霧消してしまう だが 太陽はまた

死を咥えて つぎの日 戻って来る 

誕生星の呼び声で わたしは 幾度も幾度も 地上に戻ってきて

おまえの目に 同じ影が差すのを見た

それは愛なのか? 闇なのか?――草、眠り、死は 自然の

盲目の ふるまいのうちに

心は じっとしている、それでも 思われるのだ 

それは 決まった動きの速さで 進む

たくさんの大いなる夜の 梵天宇宙をつかみ

創造の たくさんの深々とした 雌の白鳥の愛が

降りてきた――きょう 血のなかに やって来たのだ。

「ここに 地球は もうない――」

と 言って それらは 地球の人間の 安寧を願い

殺戮と疲労に対して 別れを告げた

安寧、安寧だ、この夜の もっとも深い意味だ。

平安が きょう ほらここに

ここにこそ 記憶が

それでも ここには 忘却が、愛は

つぎつぎと押し寄せる 暗闇を照らす 真実。




   


世紀


あたりは 青い海が 暗闇で叫ぶ、それを聞く

あそこには 光りの柱が立っている むやみと

ひとつ、ふたつの星と一緒にーーそれからは夥しい星だ

飯粒で 飢えが満たされたとしても 胸のうちの

痛みには なんら解決もないと 告げてやり

空を満たして輝く

晩秋の夜は しだいに もっとぼんやりとして 疲れ 下向きになり

行こうかどうか 思案しているーー季節の欲望の車輪で それは進むのだ

だが さらなる希望、光りが進みゆく空は 人間の心にあるのだろうか。

あるいは この人間の命の論争好き、晩秋はとても静かだ

光り輝き 広がる 黄金の深さの時間が 言う

歴史の 優しく、過酷な 影の落ちる日

進歩と愛が 望ましいと 思うなら

心を さながら 冷たく大胆な 晩秋の世界だと思う

あたりは 血で 日の光りで 多くの 交換と取引で

それでも なんの結果もなかった 

         さあ 人間よ、もう一度 見てみよう

時、国、そして子どもたちには 

なにも得になるものなど ありっこないのだ。

歴史の あらゆる夜が 合わさってしまい、ひとつの夜が

きょう 地上の 岸辺に、

言葉を考えさせ、誤りを砕き、しだいに 人間の思いを

嘆きから 救い出すことが あるいは できるかもしれない

盲い 屈服した者のように たとえ 今日 人びとが

進んでゆく、それでも それは 人間を知るようにと言う

どこだ 蜜は――どこだ 時間の蝿たちは――どこだ 呼びかけは

巣をつくる 協働の 安らぎと辛抱の 呼びかけは――

人間にも知恵はある、だが 蝿たちの知恵は幸いなるかな。

遠く近く この世紀の いのちの河の 響きを

静まりかえらせてしまい、地球儀の実質のなさのあとで

そこには 青頸鳥、収穫、太陽がない、

灰色の空、一本の えび茶色一色の 樹木の葉擦れに

きょうは 地上のガランとした道と 人生哲学の絶望、熱気、恐れが

立ち上がる――この調べは しだいに柔らかく――しだいに、ひょっとすれば

                 もっと固くなることだってありえる、 知っていた

ソフォクレスと マハーバーラタは 人類の              

この無益さを 知っていたと わたしは知っている

きょう さらに いっそう 深くなるだろうか 暗闇は。


                                                                                                                                                                                                                                                                             



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