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キャラクター造形について

誰もが名前だけは知っている有名な探偵、フィリップ・マーロウの口癖に“Uh-huh(アーハッ).”がある。
マーロウ・シリーズの記念すべき長編第一作「大いなる眠り」で、双葉十三郎先生は一貫して「うふう」と訳している(1939年)。ちょっと笑ってしまうが、私は強烈に印象に残っている。
一方、村上春樹先生の訳(2012年)は違う。
以下、レイモンド・チャンドラー先生の原文と村上春樹先生の訳を列挙します。

《第三節》
“I suppose you know who Rusty is?”
“Uh-huh.”
“Rusty was earthy and vulgar at times.”
「ラスティーのことは知ってるわね」
「ふむ」
「ラスティーはときとして粗野で下品だけど」

《第九節》
“Seen General Sternwood yet?”
“Uh-huh.”
“Done anything for him?”
“Too much rain,”
「スターンウッド将軍には会ったかい?」
「まあね」
「彼のために何かしたか?」
「雨が強すぎた」

“I guess you thought that was a secret.”
“Uh-huh.”
“Okay,”
「いまさら秘密にすることもなかろう」
「ほほう」
「まあいいさ」

このように村上先生は“Uh-huh.”を会話に応じて「ふむ」、「まあね」、「ほほう」と訳している。わかりやすいが、マーロウの個性は伝わらない。

拙著「下弦の月に消えた女」で登場する私立探偵の竜崎隼は「Uh-huh(アーハッ)」と言う。
私がキャラクター造形で大切にしているところである。少しイヤミであっても。

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