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独立系スタートアップ - 同質化との闘い

本業-山屋&へたれクライマー(岩・氷・沢等),岩石・地質なジオ成分多め。
副業-あいぎ特許事務所副所長(弁理士)。『カタチ・意味・しくみのイノベーションを知財でサポートし地域を盛り上げたいソーシャルなグローカル派』です(@hirota_ip

「カタチ・意味・仕組み・価値のデザイン」 シリーズ
ここでいう「デザイン」は、カタチ等のデザイン(知財でいうところの「意匠」)、意味のデザイン(意味のイノベーション)、ビジネスモデル等の仕組みのデザイン、顧客提供価値のデザイン…等、いろんな「デザイン」を意味します。
このシリーズでは、こういった「デザイン」がどのような知財で守られているか?を ごく興味本位で検索し、その知財がいかに活用されているか?を あくまで独断で考察してみたいと思います。

今回取り上げるのは、ご存知の方も多い「Go Pro」です。

この商品、ビデオカメラとしては特に驚くような機能はないし、デザインもそこまで個性的ではないように思いますが(←なんと失礼な汗)、いまではアウトドアラーの間のみならず世界中で周知著名となっています。

しかし、低価格の後発品の登場やドローン事業の失敗等で業績が悪化し、一時は身売りも囁かれたようです。2019年は新製品の販売が好調で業績が上向いたものの、このコロナ禍が影響しているのか、2020年に入って人員カットも決定しています。
 
「Go Pro」の登場から現在までを概観して、ハード系スタートアップの継続と知財の関係について触れてみたいと思います。


華々しい登場

●気づいたら「意味のイノベーション」

登場した当初は『「アクションカメラ」という新ジャンルを”創った”』ともいわれました。
「ビデオは手にもって静止した状態で撮影するもの」という常識を覆し、手を放して撮影できるというウェラブルを全面に押し出したという点で、「意味のイノベーション」の最たるものといえると思います。


●SNSを「勝手に広告」として最大活用したマーケティング戦略?

そして、話題性を培ったのは、なんといってもSNS。インスタグラムやYoutube・TikTok等の画像映像系SNSとの相性がよかった…
というか、SNSが普及していたからこそ、それを狙ったマーケティング戦略が当たったということでしょうか…?

画像映像は、盛ってなんぼ。「Go Pro」では、動き系ライブ感が強いめちゃ盛れた映像が撮影できます。実際、一緒に山に行った人が撮影した「Go Pro」の映像を見ると、岩場のアングルによっては「こんなスゴイとこ登ってたっけ!?」みたいな感じになります。とはいえ、あくまで実像であって、フォトショップみたいに加工してるわけじゃないしね!

つまり、

「プチ エクストリーム系映像 がアナタにも撮れる!」

シロウトでもそこそこかっこいい映像が撮れる、というわけです。
 

これは正直アウトドアラーの心を揺さぶりますね。

「へたれクライマーのひろたも、(そんなアングルで撮れば)リン・ヒルや花谷泰広になれる!」
みたいな。(←いや、なれない)

ユーザーがSNSに大量投稿して、勝手に宣伝してくれる…というわけです。


●ブランドの醸成

で、こういう画像映像をSNSで見させられ続けると、
「なんかしらんけど、ちょっとエクストリーム的な感じのかっこいいことをしとるヒトは、「Go Pro」を使っとるみたい
といった洗脳がなされますよね。

イメージの醸成、つまり、ブランディングが上手くいったわけです。
こちらの記事の中の『「カメラ買った」とは言わず「Go Pro買った」と語る』というフレーズが、それを如実に表しています。


同質化 との戦い

上記のように華々しく登場した「Go Pro」ですが、冒頭で述べたように、近年の業績は芳しくないようです。今年は特にコロナ禍の影響もあり、従業員解雇にも踏み切っています。


過去には、ハードウェアの独立系スタートアップの根源的問題とも指摘されています。

これはつまり「差別化(ブランディング) vs. 同質化(コモディティ化)」という永遠の課題ともいえ、「中小企業がブランディングで成功したら、差別化をいかに維持し続けれるか?」というとても難しい問題を提起していると思います。

とはいえ、一度培ったブランド力はまだ強いようで、コロナ禍でビデオカメラ全体の売上が減少する中でも、日本での「Go Pro」の売上シェアは1/4程度占めているようです。新製品販売の影響もありそうです。


知財が果たす役割り?

最後に、「Go Pro」の知的財産権を見てみます。

◆特許

Espacenetで「GOPRO INC.」で検索すると、本国USでの出願を含めて550件以上ヒットします(出願の公開公報と特許取得後の公報が混じっているので、実数としてはもっと少ないと思います)。
創業年の2004年は出願が1件のみでしたが、CineFormを買収して販売台数が急激に伸びた2011年にはEPを含めて8件になり、そこからぐんぐん伸びて2016年にピークとなり、近年は件数を減らしているようです。


日本での特許はどうでしょうか。

ゴープロ社で検索すると、「3D深度情報に基づいたイメージぼかし」という特許が1件ヒットしました。一眼レフの写真によくあるような、メイン被写体の周りのサブ被写体を距離に応じてぼかすような機能だと思います。

特許第5871862号
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-5871862/EB50D89A28BF299AC5C132D9E0B3A3C0D1862E66512D48F2DDD48304DCB19B6A/15/ja

◆意匠

GDBで「GOPRO INC.」で検索すると、ほとんどUSでの登録で、390件以上ヒットしました。こちらも相当に力を入れていることがわかります。

日本については、ゴープロ社の検索で6件ヒットしました。ドローンの意匠も登録されてますが、ドローン事業は上手くいきませんでしたね…。

・カメラ本体2件
意匠登録1595299「カメラ」

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意匠登録1595273(部分意匠)「カメラ」

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・カメラマウント系2件
意匠登録1644700「カメラマウント」

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意匠登録1644702「カメラマウント用アーム」

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・ドローン?系2件
意匠登録1563700「無人航空機本体」

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意匠登録1563699「無人航空機用リモートコントローラー」

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◆商標

GBDで「GOPRO INC.」で検索すると、300件近くヒットします。「GO PRO」だけでなく種々商標を色んな国で出願しているようです。

日本では「GO PRO」系商標が8件ヒットします。

(なお、余談ですが、いろいろ検索してたら、「GO PRO」商標権に基づく輸入差止受理がなされている情報を見つけました。)


特許権・意匠権・商標権等の「知的財産権」は、市場での優位性を確保するためのものと説明されることが多いです。決して少なくない数の知的財産権を色んな国で取得している点が「同質化」の問題にどのように役だってきたのか、知りたいところです。
(ちなみに、日本で権利取得したものの選択基準を知りたいですが…)

「知的財産権」だけでなく、ブランド力・ノウハウ等の権利化されないものを含む「知的財産」に目を向けると、「Go Pro」の資産価値は依然大きいといえるのではないでしょうか。近年の業績は芳しくないものの、15年以上「アクションカメラ」一択で事業を続けられていることの一助を「知的財産」が担っていることがわかると、知財業界に生息している者としてはうれしいですが…。

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