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旧特急ひだと、高山の「雪融け肉」

1. 「旅芸人の列車」に乗る


2023年3月に行われたダイヤ改正

大阪駅では「うめきた」に地下新ホームが新設され、特急「はるか」などの大阪駅停車が遂に実現。

華々しい話題もあれば、今回のダイヤ改正を期に勇退していくベテラン車両たちの姿もありました。

その一つがJR東海の「キハ85系」。

キハ85系

1989年登場。
前面に大きな展望席を設けたこの車両は「ワイドビュー」として親しまれ、特急「ひだ」や「南紀」として長年活躍してきました。

しかし今回のダイヤ改正で、特急「ひだ」の運用はすべて新型ハイブリッド車「HC85系」に置き換わりました。
※キハ85系による特急「南紀」運用は2023年6月まで

左がキハ85系、右が新型HC85系


特急「ひだ」は富山~高山~名古屋間を走る特急ですが、一往復だけ高山~大阪間を走るので、滋賀県内の駅に停車する数少ない特急でもあります。

滋賀育ちだった私。
最寄りの琵琶湖線といえば特急を駆逐した新快速が当たり前で、たまに見かける特急といえば強風で不通になった湖西線を避けて走る白いヤツくらい。

そんな日常にたまに滑り込んできたのが、キハ85系

草津駅停車中のある日の「ひだ」

奇抜なオレンジのラインを引いた車体がブロロロォンとエンジンを唸らせながらいつもの路線を通過していく姿は、まるで異国からやってきた旅芸人のような情緒がありました。

今回の記事は、旅芸人の列車を眺めるだけだった自分が遂にその旅に加わり、異国の地へと向かったお話です。

しばしお付き合いください。その道中の陽気なこと!

2. 襲来、ボージョレ級の大雪



「乗ってみたいけどいつでも走っているし、また今度でいっかー」

そうのんびり構えていた自分の頬を、ある日飛び込んできたキハ85系「ひだ」引退のニュースがしたたかに打ちました。

まったく、ブルートレインといい、その「また今度」でいくつもの「二度とこない今度」を逃してしまったというのに……。

慌てて計画を立て、無事に岐阜県の高山駅までの切符も確保。


旅行日は2023年1月25日


あまり馴染みのない高山の地。
そこにはいったい何が待ち受けているのでしょうか。
わたし、気になります


ちなみにこの1月25日という日付。
多分、覚えている方もおられると思います。


そう


10年に一度の大雪が猛威を振るった日です。

旅行数日前から騒がれていた大雪の予報に、

「10年に一度って……ボージョレ・ヌーヴォーかよ。多分そこまでひどくはならんでしょ。ボージョレも大しておいしくなかったし

そんなナメくさった私の予想をはるかに超える雪が前日から降りはじめ、関西圏の交通機関は前代未聞のマヒ状態

もちろん当日の大阪発特急「ひだ」も運休

出発前日の運行アプリのスクショ。
高山を出た「ひだ」は大阪までたどり着けず、このまま近江八幡駅で翌朝まで停車したそう。

ちなみに私が乗ろうとしていたのは高山・大阪間を往復する車両
その車両がそもそも前日に大阪駅にすら辿り着けていなかったのだからそら大阪発なんて乗れんわな。

「10年に一度」、半端じゃなかった。
ボージョレのなんたるかをスーパーのペットボトルの安いやつ
を一度飲んだだけでわかったつもりでいた私を戒めるような雪でした。
今度ボトルの高いやつ買うから許して

切符は払い戻され、後日あらためて高山に行くことに。

3. 「大阪ひだ」乗車


2月某日、ついに特急「ひだ」で高山に行く時が来ました。

乗るのは「大阪ひだ」とも呼ばれる「ひだ25号」。
もちろん大阪からも乗れますが、乗車駅は滋賀県の草津駅にしました。

草津駅にて

というのも琵琶湖線は自分にとって日常の路線。
その日常の路線の駅から非日常に行く、という感覚を味わってみたかったんですよね。

そして8時51分。

草津駅に「ひだ」がやってきました。

乗車時間がわずかで慌てて撮った写真。
ずれとるやんけ……
「ひだ」車内
予約したのは先頭車・前から4番目。
眺めよかったです。


手早く写真を撮り、乗車。
席に着くなり、早速草津駅を出発です。


ブゥルロロロロロ、ガガガガー!!!


古臭いエンジン音とともにぐんぐんと加速する車体。
SDGs? 横文字はようわからんわ、わて」といわんばかりに高出力のディーゼルエンジンを力強く回し、堂々と近江盆地を走り抜けていきます。

琵琶湖線走行中。霧が出ていました。

程よく古めかしいエンジン音と座席に、ふと思い出すのは子どもの頃に乗った地元の路線バス

お出掛けの帰りにオカンと地元の駅から乗った路線バス。
遠出後の高揚とほどほどの疲労が残る体、縦に揺れる車体、ワクワクして見つめていた降車ボタン、最後部座席でたこ焼きを食ってたおっちゃん

あのおっちゃん、元気かな……

思い出に浸るうちに伊吹山のふもとを通過し、列車は岐阜へ。

伊吹山

ちなみに出発する数日前から周りに「私、この日にひだ乗るんすよww」と話していた私。

それを聞いたこころよい先輩や仲間たちが沿線で手を振ってくれました。

ごめん。

この日「ひだ」に乗って一番楽しい瞬間だったかもしれない。

その後は少し車内を散策し、

列車は岐阜駅到着。
ここで名古屋駅からやってきた「ひだ」と連結し、木曽川に沿って高山へ。

連結のため一旦バックし、
名古屋からやってきた車両と連結
岐阜駅を出て、木曽川に沿って北上中
北上するにつれちらちら雪が見えるようになり
高山の辺りは冬景色

4. 高山で味わう「雪融け肉」


12時24分、高山駅に到着しました。
周囲には雪が残っていましたが、天気は快晴。
街のあちこちで雪融けが始まっていました。

高山駅到着
並ぶ新旧「ひだ」
新旧「ひだ」同時発車シーン
高山駅

今日はこのまま街を散策して一泊……

と、言いたいところですが、今回は急きょ組み込んだ日程のため日帰り
帰りの特急の兼ね合いで滞在時間は3時間ほど

でもまぁ、今回の旅の目的はキハ85系と、そして飛騨牛
ご飯を食べた後、街を散策できればラッキーぐらいに考えつつ駅を出ます。

高山に来たら飛騨牛を食べてみたいと思っていた私。
そして選んだお店がこちら、


駅からすぐの所にある「松喜うし」さん。


松喜うしさん
メニュー

お店に入り、料理を選びます。
飛騨牛モモビーフカツ定食」と「うに牛」を注文。

初めての飛騨牛……

ワクワク

ビーフカツが揚がるまでの間に、「うに牛」が来ました。

うに牛

思い切って一口でいきます。

ばくり

さぁ、お味は




ちょっと待って、

肉がとけたんですけど。


その時の私の脳内を表現すると、

お、ウニうまぁああぃえええ肉とけたぁあああ??

ほんまにこんな感じ。
ウニの旨味を感じたと思ったら、ほろりと肉がとけた」。

後に残るのはさっぱりとした脂の余韻……

呆然とする私の前にビーフカツがやってきます。

飛騨牛モモビーフカツ

おそるおそる一切れ口に運びます。



やっぱりとけた
同時にあふれる肉の旨味、付け合わせの味噌などがあったけど、ぶっちゃけ何もつけなくてもいいくらい

これが飛騨牛……

なにより脂が全然くどくない。

これは霜降り……?
その時、頭に雪融けを迎えた高山の風景がよぎります。


いや、


これはたとえるなら「雪融け肉」だ。

飛騨牛との最高の出会いでした。

ちなみに残った味噌は地酒のアテにしました。
最高の組み合わせでした

純米酒「天領」


飛騨牛を堪能した後、まだ時間があったので、高山を少し散策しました。


駅から古い町並みへ
ストリートファイトをおっ始めそうな像
古い町並み

※おまけ

「松喜うし」さんの定食のごはんがめちゃんこ甘くておいしくて、店員さんに「これどこのお米ですか!?」とつい尋ねたほど。
地元のコシヒカリとのことだったので、直売所によって米を買いました

地元農産物の直売所

5.  帰りはワイドビューを楽しみながら


14時40分頃に高山駅へ。
帰りの列車も「大阪ひだ」こと「ひだ36号」。
ちなみに発車時刻は15時33分

なぜこんなに早く駅に戻ってきたかというと、大阪ひだの自由席はパノラマ車。できるだけ前の方に座って景色を楽しみたいなと思って、早めにきて並ぶことにしたのです。

ちなみに高山駅で「ひだ」に乗る際は、諸事情から全国的に珍しい列車別改札を行っています。

待機場所。本来ならここに並ぶはずが……

「大阪ひだ」の自由席に乗る際は、改札が始まるまで改札外の待機所で並ぶ必要がある……とのことでしたが、来たらもう改札が始まっていたらしく、そのまま改札機を抜けてホームへ。

大阪ひだ先頭車両
脳内で「キメラ編成」と呼んでいる連結の仕方。
このごちゃごちゃ感、好き。

幸いこの日は人が少なく、私は前から2番目の席を確保できました。

時間になり出発です。
旅のお供に土産屋で買った地酒を味わいつつ、夕暮れ時の雪景色を楽しみます。

旅のお供は舩坂酒造店さんの「上撰 深山菊・雪だるま徳利」
帽子がお猪口に!
ちなみに栓を開けられなくて家帰って飲みました。
渡辺酒造店さん「純米吟醸 蓬莱
雪だるまの帽子が役に立った
みぞれのような風味で雪景色にぴったり!

一番前に乗ってみたかった気持ちもあるのですが、おおむね狙い通りの席に座れて満足でした。
というのも私の座席からだと横窓が広く、一歩下がった位置から開放的な景色を楽しめると思っていて、その予想は的中。たっぷり楽しめました!

私の席からの眺め

岐阜駅に近づく頃には日も暮れて、「ひだ」は再び滋賀県に。
ディーゼルエンジンを最後まで力強く唸らせながら、夜闇に沈む近江盆地を突き進み、

そして

草津駅に到着

草津駅

終わりも日常の路線である草津駅にしようと思っていました。

旅芸人に連れられて見知らぬ土地へ行き、おいしい食べ物と出会えた旅でした。

ありがとうございました!


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ここまで読んでいただきありがとうございました。
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