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中国経済学史

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記事一覧

ウルムチ1124火災 白紙運動 そして白髪運動 へ 

ウルムチ市の1124火災から白紙運動へ  2022年11月24日夜 新疆ウルムチ市の高層アパートで起きた火災で10人が亡くなった。その原因として、コロナによる街区封鎖によって、消防車が入れなかったとの指摘がある。長期間の封鎖により住民の自動車が放置されていたことも消火活動を妨げた。消防車の能力が低く水が届かなかったとの指摘もあるが、封鎖によって、逃げようにも脱出が阻まれていたとの指摘があり、ウルムチの火災で死者が多数でたことは、コロナ患者が発生した時に居住区全体の封鎖を優先す

中国医療保険制度の歴史的変遷 に関する論文3篇について

 中国の医療保険制度を考えるうえで、重要だ思われるのは、中国が社会主義市場経済を始めるまえの、計画経済の時代に、医療保険の体制が一旦整備されたことである。今日中国の医療保険制度を見ると、いろいろ我々の制度との違いにとまどうが、この計画経済の時代の、医療保険制度がそれなりに国民全体をカバーするものとして、成立していたことを記憶する必要がある。その制度を市場経済に合った形に作り変える過程に中国はある。しかし結果として、計画経済時代の名残が、現行制度に残されていると考えると違いにつ

片山ゆき 中国の公的医療保険制度について 基礎研レポート 2018/01 

片山ゆき さんはニッセイ基礎研の研究員。今回2023年2月に中国で生じた「白髪運動」を調べる中で片山さんの仕事も追うことになった。注目したのは次の3本。 ① 中国の公的医療保険制度について 基礎研レポート 2018/01/15 1-12 ② 中国における少子高齢化と社会保障制度 財務省 中国研究会での報告資料 2021/10/07 ③ 中国の高齢者デモ、その背景は何か ニッセイ基礎研 2023/02/22 先ず①は発表当時注目された論文だが、私自身は白髪運動に絡んで、今回初

馬欣欣 中国公的医療保険制度改革とその評価 社会保障研究Vo.6 No.4 2022/03

馬欣欣 中国公的医療保険制度改革とその評価 社会保障研究Vol.6 No.4 2022/03 421-438 馬欣欣は法政大学経済学部教授 馬先生は中国医学大学医学部卒であるので中国の医療現場のことを良く知っておられるのではないか。日本では東京国際大学大学院さらに慶応の大学院商学研究科で学ばれ慶応で博士号取得。現在は一橋大学経済研究所にも席を置かれつつ、法政大学経済学部教授である。 主著に『中国の公的医療保険制度の改革』京都大学学術出版会2015年11月がある。中国で202

中国の党国家資本主義 Pearson, Current History, Sept.2021

Pearson, Rithmire, and Tsai, Party-State Capitalism in China, Current History , Vol.120, Issue 827, Sept.2021, 207-213 (解題) Pearsonら3人の女性学者による連名論文。冒頭部分だけ訳出。国家資本主義に換えて党国家資本主義という概念を提起している。以下の本文では、党国家資本主義とは、党の存続がすべてに優先する体制であること。この体制の成立が輸出依存体

ミンシン・ペイ 中国を覆う全体主義の長い影 April 2021

Minxin Pei, China: Totalitarianism's Long Shadow, Journal of Democracy, 32-2, April 2021, 5-21 冒頭部分抄訳 用語 経済発展 民主主義 リプセット ミンシン・ペイ 中国共産党    中国経済 中国政治 全体主義 習近平 資源の呪い 民主化 (要約)過去40年間以上の中国の急速な経済成長は、(中国に)民主化をもたらさなかった。漸次的に自由化を進める代わりに、レーニン主義者の党国家

ミラノビッチ 二つの資本主義の競争 B. Milanovic, ProMarket, Sept.2019

Branko Milanovic, With the US and China , Two Types Capitalism Are Competing With Each Other, ProMarket, Sept. 25, 2019 抄訳 (解題)ミラノビッチの中国を資本主義の一つタイプとして位置付けるこの論稿は、そしてそれが欧米型の資本主義とまさに競争関係にあるとの指摘は、中国をあくまで社会主義の類型とみたり、あるいは、資本主義とは異なる権威主義国家とみたりす

ミンシン・ペイ 中国は縁故資本主義から脱却できるか? Aug.2018

Minxin Pei, Can China Save Itself from Crony Capitalism?, Asia Global Online, Aug.23, 2018 抄訳 (解題)すでに紹介してきたように、アメリカではアメリカの資本主義を縁故資本主義Crony Capitalismだと批判する言い方がある。その具体的な内容は、ロビー活動などをつうじて、レントシーキング(自身に有利な規制や補助金を求めること)活動が行われている点にあった。そのアメリカで、中国

ブレマー 国家資本主義の成長 Foreign Affairs, May/June 2009

Ian Bremmer, State Capitalism Comes of Age, Foreign Affairs, May/June 2009, Vol.88 Issue 3 抄訳 用語 国家資本主義 state capitalism: 国家主導型資本主義 政府系ファンド sovereign wealth funds   デカプリング decoupling: 途上国経済が欧米に対し自立性を高めること   自由市場の終焉  合衆国、ヨーロッパ、そしてそ

文明の衝突 Huntington, Foreign Affairs, Summer 1993

Samuel Huntington, The Clash of Civilization?, Foreign Affairs, Summer 1993 (解題) 発表当時、この論文は大変話題になったし、その後も繰り返し議論されてきた。まず西欧中心史観が限界にきたことの認識、が伺える。しかしなぜそのことが、冷戦後に意識されたのだろうか?また西欧に対置されるものが、イスラム教―儒教の国家という考え方は、今日から振り返って果たして正しかっただろうか?幾つかの疑問が残るが、時代を画

中国=資本主義論 矢吹晋『鄧小平』1993/2003

矢吹晋『鄧小平』講談社学術文庫版2003年(底本は講談社現代新書1993年)より、その結論部を見る。まず「中国的特色をもつ資本主義」論。中国は端的に資本主義だと指摘している。この中国=資本主義論は鋭い。  他方で民主化については矢吹さんは、台湾や香港にならっていずれ民主化するとしたが、この30年に実際に中国がしたことは、台湾の選挙に干渉し、香港の民主主義を破壊したことだった。矢吹さんはこの民主化の議論ではいかに記述するかの判断を間違えたのではないか?矢吹さん自身指摘しているよ

囲剿(いそう) 中国経済用語

近代中国史で避けて通れないのは、中国共産党と国民党との間の戦争についての考察である。とくに強大な国民党軍が何度も包囲作戦(囲剿 圍剿ウェイチアオ)を行いながら、ついに共産党軍を駆逐できなかったのはなぜか。(写真は成城大学1号館中庭)  手元にある『戦略の本質』(原著は2005年 手元にあるのは2008年出版の日経ビジネス文庫版)第2章はこの点を論じた手頃な読み物になっている。これを読んでいくつか気付いた点がある。チアン/ハリデイ『真説毛沢東』(原著2005 手元は20

一家両制 中国経済用語

 中国を考えていて、たどりつくのが、この言葉だ。家族の主人が共産党の高官であるとき、その妻や子供、果ては親類縁者が、主人の権勢を利用して、資本主義的商業活動を営むことをいう(何清漣/程曉農《中國潰爾不崩》八旗文化2017年p.51)。一家の中に社会主義と資本主義が併存する。この言葉は、一国二制度(一國兩制)という言葉を連想させる(なお写真は澤蔵司稲荷慈眼院の石仏。右側に天和三年1683年 奉供養庚申× 像の左側は二世安楽之所 の銘が読み取れる。)。  中国からの留学生と話すと

過渡期総路線 (2.2)

(『杜潤生自述』人民出版社2005から)写真は毛沢東 1954年1月。 革命転換(転変)の政策決定 p.33 1953年における中国の大変化は2つの革命の(間の?)転換であった。すなわち新民主主義革命が社会主義革命に向かう転変であった。当時、鄧小平は言った。今年(1953年)3月以来、毛主席が中心になり一つのことをした。すなわち過渡期の総路線を提起(提出)した。これは確実に中国の歴史の発展進路にかかわる最重大事件であった。 その過程は。中共七届二中全会の後の数年間、毛