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片山ゆき 中国の公的医療保険制度について 基礎研レポート 2018/01 

片山ゆき さんはニッセイ基礎研の主任研究員。今回2023年2月に中国で生じた「白髪運動」を調べる中で片山さんの仕事も追うことになった(→友人先学に学ぶ)。注目したのは次の3本。
① 中国の公的医療保険制度について 基礎研レポート 2018/01/15 1-12
② 中国における少子高齢化と社会保障制度 財務省 中国研究会での報告資料 2021/10/07
③ 中国の高齢者デモ、その背景は何か ニッセイ基礎研 2023/02/22

先ず①は発表当時注目された論文だが、私自身は白髪運動に絡んで、今回初めて読むことになった。正直に言えばこうした先行研究はありがたかった。ここでは①の内容を簡単に振り返る。
 まず中国の現行の公的医療保険は、都市の就労者を対象とする都市職工基本医療保険A、都市の非就労者を対象とする都市住民基本医療保険B、そして農村居住者を対象とする新型農村合作医療保険Cの3つから構成されている。
 Aは強制加入、B,Cは任意加入だが加入率は高いとする。加入者数はAが2億9632万人(2016)。Bが4億4860万(2016)、Cが6億7000万(2015)でCの加入率98.8%とのこと。BとCは2016年に都市・農村住民基本医療保険に統合されたという。なお医療保険の全体的なモデル設計は、人力資源・社会保障部が行うが、実質的な制度の運用は各地域で分立して行うため、制度の内容には地域差がある。
 日本の医療保険と比較すると、一定額(免責額)を自己負担する保険免責制、制度による負担に限度額が設けられているなどの違いがある。
 なおAとB,Cの間には、Aがおおむね保険料で運営されているのに、B,Cは国からの補助金に多く依存している。さらにAについても、そもそも雇用主の負担割合が大きい(雇用主が賃金総額の6%   被用者が同2%)、退職後も加入者にとどまり、かつ退職後は保険料負担がないという特徴がある。
 このことを反映して、都市職工医療保険と都市・農村基本医療保険の財源 構成は2016年に以下のようであったとしている。
       都市職工医療保険 都市・農村基本医療保険
保険料       95.9%                              23.1%
国                                   0.7%                              75.7%
その他                           3.3%                                 1.3%
    そして公的医療保険の今後については、より給付水準の高い都市職工基本医療保険の水準に、都市・農村住民基本医療保険の給付内容を収斂させる手法をとっているとしている。
 しかし懸念としては、一つは財政負担の急増である。都市の非就労者を対象とする医療保険の導入地域の拡大のほか、経済の減速、少子高齢化、医療コストの上昇、高度医療への給付などの要因から、財政負担が高まる可能性が指摘されている。
 都市職工医療保険については、退職後も日本のように他の制度に移らないで、この保険にとどまることから、すでに給付では過半が定年退職者になっているとのこと(2013年で59.1%  人数の比率は25.3%)。定年退職者は保険負担がないほか、通院入院時の自己負担が在職者より軽減されている。定年退職者の保険料が企業が負担して、かつ定年退職者の個人口座に積み立てられているとのこと。
 コメント つまり、定年退職者に対する給付の在り方が、医療保険を圧迫する可能性が、あるいは定年退職者に対する給付の在り方が見なおされる可能性が5年前のこのレポートですでに事実上、指摘されている。この指摘からすれば、白髪運動の原因としての老人への給付水準の引き下げは、起こるべきして起こったことかもしれない。


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