見出し画像

馬欣欣 中国公的医療保険制度改革とその評価 社会保障研究Vo.6 No.4 2022/03

馬欣欣 中国公的医療保険制度改革とその評価 社会保障研究Vol.6 No.4 2022/03 421-438

馬欣欣は法政大学経済学部教授 馬先生は中国医学大学医学部卒であるので中国の医療現場のことを良く知っておられるのではないか。日本では東京国際大学大学院さらに慶応の大学院商学研究科で学ばれ慶応で博士号取得。現在は一橋大学経済研究所にも席を置かれつつ、法政大学経済学部教授である。
主著に『中国の公的医療保険制度の改革』京都大学学術出版会2015年11月がある。中国で2023年2月に起きた白髪運動に絡んで、中国の医療保険制度を勉強するため、この論文を読んだ。
論文から読み取ったことのメモ

都市部の医療保険制度について
社会主義に進んだ後の中国では、都市部に二つの制度が成立した。
一つは政府部門・事業部門の職員、退職者・離職者、軍人・学生などを対象にした公費医療制度である。
もう一つは、大きな国有企業の労働者を対象とする労働保険制度である。これは賃金総額の3%を保険料率としてスタートしたとのこと(この書き方は誰が保険料を支払うかを明らかにしていない 別に読んだ包敏の論文では企業が支払うことと、実質的政府保証である点が明確である)。この制度は、対象とする企業を拡大する形で拡大していった。
1998年12月に 労働保険制度と公費医療制度の統一をめざしてスタートしたのが「都市従業員基本医療保険制度」は、使用者側が賃金総額の6%、労働者側は2%を出すもの。この2%はすべて個人口座に入る。また政府の補助金はないとのこと。
非就業者・高校までの学生、児童をカバーするために2007年にスタートしたのが「都市住民基本医療制度」。この掛け金について、馬は対象によって違い、存在する地域によっても違うとするのみ。財源として政府の補助金もあるとする。

コメント
なお以上の説明で、労働者の支払いがすべて個人口座に入るものであったことが確認される。今回(2023年)の白髪運動で、個人に入るお金が減らされたことの意味がここにあるのだろうか?
もう一つは公費医療制度が、馬の説明ではなくなったように読めるがそれでよいのだろうか。今回の白髪運動で出てきた論点の一つは、高級官僚についての公的医療制度の問題である。公的医療保険制度は現在どのような形で残っているのか?ここも確かめたい点である。

農村部の医療保険制度について
農村部について、農業生産合作社の設立が1956年以降、促されるとともに農村部で互助共済の医療保健所が整備されたが、1980年初め 農業生産請負制度への転換が始められると、それはやがて農村合作医療制度の崩壊につながったとする。農村で医療が受けられないという問題への対応として、2003年1月から任意加入の形で新型農村合作医療保険制度がスタートして現在に至るとする。

そして2017年からは都市部と農村部の医療保険制度の統合を目指して
都市農村基本医療保険制度は進められているとする

コメント
ここで興味深く感じたのは、生産請負制度が農村部の医療保険制度の解体につながったとの評価である。生産請負制度の導入が、そうしたマイナス面を持っていたという指摘に啓発された。
今回の2023年2月の白髪運動で出てきた論点の一つに、武漢など都市部はまだ恵まれているという言い方がある。農村部には医療保険制度がないと。馬は任意加入ではあるが制度はあると説明している。そこで任意加入の新型農村合作医療保険がどの程度の人口をカバーしてまた役立っているかが気になる。また保険制度のほか、実際の診療を受けることが農村ではどのように確保されているのだろうか。そして2017年スタートの都市農村基本医療保険制度は、現状はどうだと評価できるのだろうか。

都市部と農村部の医療供給体制の格差
コメント このほか、関心のある論点として、都市部と農村部の医療供給体制の格差が人口当たりの医療従事者(医師数 看護師数 ベッド数)で示されている。なお農村部の医療供給体制の貧弱さを論じるとき、人口当たりの格差で格差の証明が十分なのかは、疑問が残る(アクセスの容易さ、医療の範囲・質、高度医療への対応なども議論できないか)。

政策的な方向性を得るための計量分析
コメント 計量分析は主観的な幸福度、満足度と医療福祉制度との相関を取って分析されている。こうした計量分析に、私自身は懐疑的である。幸福度や満足度はさまざまな要因に左右されるからだが。


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp