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ミンシン・ペイ 中国を覆う全体主義の長い影 April 2021

Minxin Pei, China: Totalitarianism's Long Shadow, Journal of Democracy, 32-2, April 2021, 5-21   冒頭部分抄訳
用語 経済発展 民主主義 リプセット ミンシン・ペイ 中国共産党
   中国経済 中国政治 全体主義 習近平 資源の呪い 民主化

(要約)過去40年間以上の中国の急速な経済成長は、(中国に)民主化をもたらさなかった。漸次的に自由化を進める代わりに、レーニン主義者の党国家は、近年、新スターリン主義の統治形態に復帰した。中国の(この)経験は、経済発展と民主主義とを結びつける現代化理論と矛盾しているように見えるかもしれない。しかしこの経験の詳細な観察は、中国共産党CCPで主流であった全体主義者後の体制を民主化することは、権威主義的体制を民主化するよりはるかにむつかしいことを示している。というのは、CCPにより支配されていたような全体主義体制は、現代化による自由化の影響を中性化するずっと大きな容量と資源とをもっているからである。しかしこれらの体制の中期の成功は、革命を通じてその究極の失敗をようやく確保できるだけかもしれない。社会の全体主義後の支配のもとで、これらの体制が自由化を経験するときには、社会経済的転換は、前ソビエトブロックで示されたように、社会諸力に力を与え革命的変化の可能性を大きく高めるからである。

(本文) Seymour Martin Lipset(訳注 アメリカの社会学者 1922-2006)の、経済の現代化は、安定した民主主義に好ましい条件を生み出すという省察は、社会科学において、最も影響力があり現実的で時に検証されてきた理論の一つである。(そして)Some Social Requisites of Democracy: Economic Development and Social Legitimacyが初めて印刷物(原注1 American Political Science Review 53, Mar.1959, 69-105)として現れてから60年以上、Lipsetの仕事は、学術的論争に枠組みを提供し、新たな研究を鼓舞し続けてきた。社会科学において確立された(ほかの)理論と同じく、Lipsetの命題もまた常に現実世界の経験により検証されてきた。今日、中国の事例は、そこでは一党支配が、40年にわたる急速な経済現代化にもかかわらず、なお続いており、Lipset命題の有効性に挑戦している。2007年に中国の経済の奇跡は、中国は2015年までに部分的に民主的になりうるとの予想を生じさせたが(原注2 Journal of Democracy 18, July 2007)10年後それは完全に違っていた。不幸にも中国共産党CCPに支配される体制が単純に続いただけでなく、(それは)国内ではより抑圧的なものに、海外ではより攻撃的なものに成長した。
 中国の謎ー相対的に高いレベルの社会発展が持続的独裁主義と共存していること―は、現代の世界の脈絡においてはるかに顕著ですらある。以下の表1を検討されたい。世界銀行のデータとFreedom Houseの格付けによれば、中国より一人当たり所得が高い国のほとんどは、自由主義(自由民主主義)であるか、部分的に自由主義(半民主主義あるいは半権威主義のいずれか)である。今日、中国より豊かでかつ独裁主義国は、主要な石油・ガス生産国である。これは中国に、resource curse(訳注 「資源の呪い」paradox of plenty 自然資源が豊富だが経済的に遅れていることを指す。しかしその意味は一人当たり所得が高い国では、政治制度の遅れという意味にかわってきているかもしれない。)と政治的効力において等しい、それがなければ民主的体制に向けて移行が促進されることを防いでいる強力な権力が存在することを示唆している。

表1 中国より一人当たり所得が高いけど民主的でないと格付けされた国(2018年)


 中国の謎のはるかにより心配される側面は、習近平が圧倒的指導者となった2012年以来、CCPが新スターリン主義の道に復帰したことだ。習は一人支配を復活させ、1976年の毛沢東の死以来、最悪の水準にまで政治的抑圧を高め、イデオロギー的な教義の強制を再導入し、自由でルールに支配された国際秩序の理論と慣行にあからさまに挑戦する攻撃的外交政策を開始した。
 毛時代以来の中国の経験は、我々に全体主義後の体制における経済発展と民主主義との関係を再考することを求めている。この知的な探求において、現代化理論は、依然として関係があり、役に立つものである。というのは其れは我々が以下の正しい質問をすることを助けるからである。「急速かつ持続的な経済現代化にもかかわらず、民主的制度の出現を妨げている中国固有の制度的要因はなにか?」
 Seymour Martin Lipsetは十分気付いていた。社会経済環境が好ましい時でも、政治要因がなお民主化にとって障害を意味することがある。彼は警告した、「固有の出来事が、どの特定の社会においても、民主主義の持続あるいは失敗に関係しうる」と(原注 APSR 53, Mar.1959,72)。彼が言及したこのような出来事の一つは、中央および東ヨーロッパにおける共産主義体制の出現だった。これらの体制のマルクス主義者のイデオロギーについて、またソビエト連邦との結びつきについて、Lipsetは警告した。「共産主義(国家)の出現は、経済発展がこれらのヨーロッパ諸国における民主主義を安定させる(定着させるstabilize)であろうとの安易な予測を不可能にするprecludes」(原注 APSR 53, Mar.1959, 100)。
 1993年の高さから振り返ると、Lipsetは1959年半ばのエッセイ「民主主義の社会的要件」で、体制のタイプと民主化とのリンクについて間接的に言及していた。
    「権力、地位、富が集中されるほど、民主主義の制度化はむつかしい。このような条件下の政治闘争は、敗けた者はすべてを失うゼロサムゲームに近づく傾向がある。中央国家の権威と有利な地位の源泉としての重要性が大きくなるほど、権力にある者、すなわち(民主化)反対勢力が、党の闘争を制度化した、権力の喪失を生むかもしれない、ゲームのルールを進んで受け入れることはより少なくなる。それゆえ…民主主義の機会は、政治と経済の相互作用が制限されわかれているところで最大になる。」(原注 American Sociological Review 59, Feb.1994, 4)
 把握すべき鍵になる点は、共産主義独裁制を民主化するという課題は、固有の挑戦に満ちているということである。全体主義が長く暗い影を投げかけており民主化にとり可能な道を制限している。
 (以下略)



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