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ミンシン・ペイ 中国は縁故資本主義から脱却できるか? Aug.2018

Minxin Pei, Can China Save Itself from Crony Capitalism?, Asia Global Online, Aug.23, 2018  抄訳

(解題)すでに紹介してきたように、アメリカではアメリカの資本主義を縁故資本主義Crony Capitalismだと批判する言い方がある。その具体的な内容は、ロビー活動などをつうじて、レントシーキング(自身に有利な規制や補助金を求めること)活動が行われている点にあった。そのアメリカで、中国をやはり縁故資本主義だとして批判した論者の一人がミンシン・ペイである。本稿では、中国での縁故資本主義の核心が、国有企業が経済の中核を占めていることを背景にして、国有企業と民間企業との地下取引tunelling(タネリング)を利用して縁故者の致富を図る点にあることを極めて分かりやすく述べている。そして重要な結論は、この国有企業中心の体制を中国政府は現在の体制維持の柱とみている点にある。つまり縁故資本主義がもたらす富と所得の不平等を解消する方策を中国はもっていないのではないか、という悲劇的な仮説がここから導かれる。(福光)。
   用語 中国政治 中国経済 縁故資本主義 クローニー資本主義
  地下取引 金融地下取引 タネリング     共生関係 ミンシン・ペイ

(本文)縁故資本主義は、富の不平等と政治権力の共生symbiotic関係を導く。世界は縁故資本主義の事例から多くを学ぶことができ、その見返りに(縁故資本主義の)発達を止める手段を取ることができる。
 いずれの計測によっても、中国の富と所得の不平等は警報レベルの速度で上昇しており、近年は新たな高さに到達している。2017年に実施された北京大学の研究は、最も貧しい25%の家計が国全体の富の1%しか所有していないことを発見した。このことは、最も豊かな1%(の家計)が3分の1の富を所有していることと、あからさまに対照的だった。
 公的データによれば、2016年における所得の不平等ー受け取った貨幣フローの市民の中での違い―についての中国のジニ係数は、2014年におけるOECDの平均が約0.316であるのに、0.47だった。少し前の研究は、2002年と2010年の間に、資産価格の上昇により中国の富の不平等についての中国のジニ係数は0.538から0.739に急上昇した。ジニの計測法によれば、0は完全に平等な社会を、1は完全に不平等な社会を表している。
 これらのデータは、中国における富の不平等の水準が急速に上昇し、今では極めて高いことを示唆している。確認すると、中国における富の3分の2は不動産で構成されている。残りの3分の1は、金融(資産)と事業資産である。
 資本は報酬を生み出すので、富の不平等は資本所得の不平等を結果する。もし過去と同じく将来も資本の報酬が労働所得より早く成長を続けるなら、将来の富と所得の不平等は単純に悪化するexacerbateだろう。
<中国における縁故主義宣言>
 財務部によれば、2017年後半において、中国政府が所有或いは支配している企業の株式価値は51.4兆人民元(7.5兆ドル)だった。(加えて)(すべて国家により所有されている)土地と自然資源の価値を考慮すると、中国政府は途方もない大きさの資産を直接統制している。国家が所有している名目的に法外な資産と、国家所有資産に完全な統制権をもつ政治的エリートの制限されない権力との組み合わせは、腐敗そして腐敗に主導された富の不平等との最も重要な制度的要因である。
<時を超え縁故主義は更なる縁故主義を生み出す>
 私自身のものを含め、中国における腐敗についての学術的調査は、エリート、その家族、そして縁故者による国家所有資産の地下取引は巨大な富を一気に蓄積する確実なやり方であることを発見している。秘密はこのような資産を、政府機関と関係のある民間事業家とが取引するやり方にある。国家が売り手であるときは、土地、鉱山のような資産、そして国家所有企業の持ち分は、ひどく価格が引き下げられている。しかし国家が買い手であるときは、民間の事業家により売られる資産は滑稽なほど価格が吊り上げられている。これらの取引は、支配エリートとその家族を豊かにしている。
 このような地下取引(タネリング)の証拠は豊富にある。雲南省の前党書記のBai Enpeiは、彼の縁故者が国家所有の鉱山、土地、契約を得ることを支援した(見返りとして)2億4600万人民元を収賄した。
 縁故主義の有害な影響は、国有資産の強奪lootingを越えて進んでいる。報道された事例によれば、熟練した取引人達は、あからさまに目立つことを避けるために、取引を調整することに長けていることを示している。それゆえ公共財産の地下取引を防止することは、我々が楽観的に上意下達方式の反腐敗運動が強奪を遅らせるとことは仮定したとしても、依然、困難な課題である。
<中国の例では、最も緊急の課題は、国家所有資産を腐敗に導かれた強奪から保護することである。>
 短期的には、中国は国有資産に関連した取引をより透明にすべきであり、メデイアと独立団体による精査を可能とすべきである。政府の役人と民間の事業家が公共財産の地下取引をできるのは、これらの取引がしばしばコッソリと隠されているからである。長期的な解決法は、これらの資産の民有化が、政治的に可能な限り外国の買い手の参加を得て、第三者により行われる入札を通じて実施されることにあり、このような私有化プログラムからの収益は直接、すべての中国市民に現金で配分されるべきである。
 残念ながらこれらの方策は近い将来実施されそうにない。(中国)政府は国家所有企業を国民経済と共産党支配双方の柱とみている。私有化の方向に動くのではなく、これらの企業の独占を保護してきた。同時にメデイアとインターネットの取り締まりはさらに厳しくなった。こうした展開は、不平等の高まりを防ぐには役立たないだろう。
(以下略)


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