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シロクマ文芸部

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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加させていただいた作品をまとめています。
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2024年8月の記事一覧

もう流れ星に願い事はしない #シロクマ文芸部

もう流れ星に願い事はしない #シロクマ文芸部

「流れ星に願い事したことある?」

付き合っていると言っていいか、まだ微妙な彼女からの質問。どういう受け答えをするのが正解か。ここで嫌われたくはない。

「あ、あるよ」

「叶ったことは?」

「え?それはないけど。というか、叶った人いるのかな(笑)」

「なんで笑うの?何か可笑しい?私は叶ったことあるよ」

やばい。

「ご、ごめん。いままで出会ったことなかったから。流れ星に願い事して叶った人に

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月からのお知らせ #シロクマ文芸部

月からのお知らせ #シロクマ文芸部

今朝の月は大丈夫でした。
昨日の月は大変だったんですよ。いつも以上に散らかっていて。

あ、すみません。
ご紹介が遅れました。私、月のお掃除を担当している者です。

近頃は月に旅行する人が増えましてね。もちろんマナーを守っていただける方がほとんどなんですけど、本当にごくごく一部の方がですね、ゴミを放置したり、ひどい時は溶岩の固まりを壊して帰ってしまわれるんです。

月がそんな状態だとどうなるか?

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優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

花火と手の冷たさが忘れられない、高校一年の夏休み。

健ちゃんは私が初めて付き合った男子で、部活はバレー部に入っていて、背はちっこいけどレシーブが上手だったからポジションはリベロだった。
私はマネージャーをしてたんだけど、エースアタッカーよりどんな球も拾っちゃう健ちゃんに惹かれた。

普段は愛想が悪いんだけど私のことを優しく気遣ってくれて、理由を聞いたら「山本さんのことが好きだから」って普通のトー

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夏の雲を外で眺めてはいけない #シロクマ文芸部

夏の雲を外で眺めてはいけない #シロクマ文芸部

夏の雲をたまたま眺めていたらリクルートスーツ姿の女に話しかけられた。

「あなたもですか?」

何がだろう?
俺はアロハシャツと短パンにビーチサンダルといった格好をしていた。就職活動しているとしたら「希望職種は何ですか」と自問自答したくなる。疑問をそのまま返すことにした。

「何がですか?就職活動はしていませんけど」

女は少し微笑んで言った。

「いや、雲をずっと眺めていたみたいだったので」

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風鈴と玉子焼き #シロクマ文芸部

風鈴と玉子焼き #シロクマ文芸部

風鈴と兄が連れてきた女性の素っ頓狂な声が重なった。

「玉子焼きにマヨネーズ入れないんですか?」

「うん、ウチじゃ入れないねぇ」
母が馬鹿正直に返事する。

「えー健くん、マヨネーズ入れないと怒るじゃんね?」
困ったように兄を見る女性。

「べ、別に怒らないけどな、俺」
なぜか弁明する兄。

「怒るよー、機嫌悪くなるじゃん」
納得いかない様子の女性。

もう見ていられない。
私は女性の玉子焼きの

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