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もう流れ星に願い事はしない #シロクマ文芸部

「流れ星に願い事したことある?」

付き合っていると言っていいか、まだ微妙な彼女からの質問。どういう受け答えをするのが正解か。ここで嫌われたくはない。

「あ、あるよ」

「叶ったことは?」

「え?それはないけど。というか、叶った人いるのかな(笑)」

「なんで笑うの?何か可笑しい?私は叶ったことあるよ」

やばい。

「ご、ごめん。いままで出会ったことなかったから。流れ星に願い事して叶った人に。え、どんな願い事したの?」

「……お父さん、死んじゃえって」

え?

「別に酷いことされてたわけじゃない。いろいろうまくいかなくてイライラしてた時に口うるさく言われちゃって、だから」

「うん」

「そしたら事故でトラックに轢かれて死んじゃったの。私のせいなの」

彼女は泣いていた。なぜ僕にこの話をしようと思ったのか。さっき流れ星を見て思い出したからなのか。流れ星に腹が立ってきた。

「そんなわけないだろ!トラックの運転手のせいに決まってる!だいたい、流れ星で願い事叶った人なんていないんだから。流れ星にそんな力ないよ。あるわけないよ」

「ありがとう」

僕はごくごく自然に彼女を抱き寄せた。
さっき流れ星にお願いしたことを、僕は死ぬまで彼女には言わない。

(498文字)


※シロクマ文芸部に参加させていただきました

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