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シロクマ文芸部

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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加させていただいた作品をまとめています。
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記事一覧

もう流れ星に願い事はしない #シロクマ文芸部

もう流れ星に願い事はしない #シロクマ文芸部

「流れ星に願い事したことある?」

付き合っていると言っていいか、まだ微妙な彼女からの質問。どういう受け答えをするのが正解か。ここで嫌われたくはない。

「あ、あるよ」

「叶ったことは?」

「え?それはないけど。というか、叶った人いるのかな(笑)」

「なんで笑うの?何か可笑しい?私は叶ったことあるよ」

やばい。

「ご、ごめん。いままで出会ったことなかったから。流れ星に願い事して叶った人に

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月からのお知らせ #シロクマ文芸部

月からのお知らせ #シロクマ文芸部

今朝の月は大丈夫でした。
昨日の月は大変だったんですよ。いつも以上に散らかっていて。

あ、すみません。
ご紹介が遅れました。私、月のお掃除を担当している者です。

近頃は月に旅行する人が増えましてね。もちろんマナーを守っていただける方がほとんどなんですけど、本当にごくごく一部の方がですね、ゴミを放置したり、ひどい時は溶岩の固まりを壊して帰ってしまわれるんです。

月がそんな状態だとどうなるか?

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優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

優しくて冷たい手 #シロクマ文芸部

花火と手の冷たさが忘れられない、高校一年の夏休み。

健ちゃんは私が初めて付き合った男子で、部活はバレー部に入っていて、背はちっこいけどレシーブが上手だったからポジションはリベロだった。
私はマネージャーをしてたんだけど、エースアタッカーよりどんな球も拾っちゃう健ちゃんに惹かれた。

普段は愛想が悪いんだけど私のことを優しく気遣ってくれて、理由を聞いたら「山本さんのことが好きだから」って普通のトー

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夏の雲を外で眺めてはいけない #シロクマ文芸部

夏の雲を外で眺めてはいけない #シロクマ文芸部

夏の雲をたまたま眺めていたらリクルートスーツ姿の女に話しかけられた。

「あなたもですか?」

何がだろう?
俺はアロハシャツと短パンにビーチサンダルといった格好をしていた。就職活動しているとしたら「希望職種は何ですか」と自問自答したくなる。疑問をそのまま返すことにした。

「何がですか?就職活動はしていませんけど」

女は少し微笑んで言った。

「いや、雲をずっと眺めていたみたいだったので」

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風鈴と玉子焼き #シロクマ文芸部

風鈴と玉子焼き #シロクマ文芸部

風鈴と兄が連れてきた女性の素っ頓狂な声が重なった。

「玉子焼きにマヨネーズ入れないんですか?」

「うん、ウチじゃ入れないねぇ」
母が馬鹿正直に返事する。

「えー健くん、マヨネーズ入れないと怒るじゃんね?」
困ったように兄を見る女性。

「べ、別に怒らないけどな、俺」
なぜか弁明する兄。

「怒るよー、機嫌悪くなるじゃん」
納得いかない様子の女性。

もう見ていられない。
私は女性の玉子焼きの

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かき氷で邂逅(140字)#シロクマ文芸部

かき氷で邂逅(140字)#シロクマ文芸部

かき氷にイチゴシロップをかけて人差し指をぐりぐり差し込んで引き抜く。出来た穴に練乳を注入してまた指を入れる。冷たくて美味しそうで気持ちいい指の完成。
あ。指が何かに触れた。あなたと目が合う。ブルーハワイと練乳にまみれた、あなたの指だった。
互いの指を舐めあって声を上げて笑う、熱い夏。

遅刻してごめんなさい🙏
#シロクマ文芸部 #かき氷 #140字

海の日の過ごし方(140字)#シロクマ文芸部

海の日の過ごし方(140字)#シロクマ文芸部

海の日をどう過ごすべきか、ずっと考えていました。子供の日やクリスマスにプレゼントをもらうくせに、海の日を適当に過ごす自分が許せないのです。

皆さんは平気なのですか?もっと一日一日を大切にすべきではないでしょうか?

あ、美香さん。ご意見どうぞ。

「黙って休めば?面倒くさい」

そ、そうします!

※シロクマ文芸部に参加させていただきました(遅刻してすみません🙇)
#シロクマ文芸部 #海の日

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夏は夜が好き(140字)#シロクマ文芸部

夏は夜が好き(140字)#シロクマ文芸部

夏は夜が来るとほっとする。風呂に入って冷房の効いた部屋で枝豆とビール。特に見たいわけじゃないけど、テレビをつけてスポーツ中継を流す。なんてことはない話をして、たまに笑う。〆に素麺か何か啜って眠る。
翌日、やっぱり朝が来る。もうギラギラしている。何をそんなに怒っているのか。暑いなあ。

※シロクマ文芸部に参加させていただきました
#シロクマ文芸部 #夏は夜 #思い浮かんだことを140字で #小説は

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手紙には書いていません #シロクマ文芸部

手紙には書いていません #シロクマ文芸部

手紙には、こう書いてあった。

何だ、これは。
いや、何回も読み返して今は確信している。
これはパスタの作り方に違いない。

では、なぜ薫さんは僕にこの手紙を?
薫さんは僕の高校のサッカー部のマネージャーをしている、ひとつ上の先輩だ。

薫さんは何でもよく気が付いて、明るい笑顔で部員みんなを励ましてくれる。
当然、全男子部員の憧れの人だ。

そんな薫さんが僕に手紙を手渡しでくれた。
「誰もいないと

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ラムネの音と正義感 #シロクマ文芸部

ラムネの音と正義感 #シロクマ文芸部

ラムネの音が合図だった。

「みっちゃん、行こう!」

僕はみっちゃんの手を引いて走り出した。
みっちゃんのお父さんの振りをした男はラムネの瓶を持ったまま怒鳴っている。

「ちょ、アレ?なんだ、おい、こら、待て!」

待たない。
あんな奴の言うことなど聞けない。
僕は昨日みっちゃんから聞いたんだ。
アイツがみっちゃんにしていること。
人として絶対に許せなかった。

だから今日のお祭りで、みっちゃん

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色とりどりのメシの種【最終話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【最終話】 #創作大賞2024

月曜日を憂鬱に思わない人なんていない。
そう思って生きてきたけど、目の前にいる男は月曜日が好きらしい。道理で話が合わないと思った。

「さて、サトシ君、いよいよだよ」

「何がですか?」

「最終決戦だ」

「は?」

月曜日の朝早くからやってきたと思ったら、マツダはよく分からないことを言い出した。

「マツダさん、ごめんなさい。何を言ってるか分かりません」

「そうだろうとも!僕もそうだった。あ

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色とりどりのメシの種【第八話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第八話】 #創作大賞2024

紫陽花を見ると、あの日の事を思い出す。

動かなくなったサトシを抱っこ紐で背負い、泣き叫ぶユイを抱き抱えながら、森を抜けてタクシーを拾った。行き先を告げた覚えはないが、タクシーは実家に着いた。

玄関に青い紫陽花が飾ってあったことだけは覚えている。たぶん母さんに色々聞かれたと思うが、放心して何も言わなかったに違いない。気づいた時は朝ごはんの納豆をかき混ぜていた。

「母さん、サトシは?」
一番気に

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色とりどりのメシの種【第七話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第七話】 #創作大賞2024

雨を聴く余裕もなく、とある神社の裏の森を僕達は歩いている。

僕がひとりで行くと言ったら君は嫌だと言った。

危険なところにひとりで行って勝手にいなくなるのは許せない。あなたがやろうとしていることを私は最後まで見届けたいの。この子も知っておくべきよ。だから私達も一緒に行く。

君はそう言って譲らなかった。
「この子はまだ二歳だよ?」とか言って反論することもできたけど、君を知る僕はそんな事を言っても

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色とりどりのメシの種【第六話】 #創作大賞2024

色とりどりのメシの種【第六話】 #創作大賞2024

「赤い傘じゃないと嫌だ」と君が言うので、僕たちは傘が売っている店を何軒もはしごした。

急な雨だった。コンビニのビニール傘でいいじゃないかと思ったけど、黙って付き合う。
「この赤じゃない」とか言いながら真剣に悩む君を見るのが好きだ。ようやくお気に入りの赤い傘を見つけて外に出ると、やっぱり雨は上がっていた。

君のワガママは嫌いじゃない。
全部叶えてあげたい。
今すぐにできないことでも、僕は必ず叶え

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