エレナ婦人の教え第三話#5 はじめてのくらし
「エレナ婦人の教え」――この物語は実際にあったことをモチーフにリアルタイムで描いたものです。主人公ヒロが上司の罵倒に遭いながらも脱け出して行くことを思い描きながら書いていくと実際にその通りになっていったのです。どんな状況からでも脱け出して行けることを実証した実話+小説=実小説と名づけたこの物語はどんな人にも響く何かがあるでしょう。では本題に入りましょう。
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これまでのあらすじ~IT企業に出向したヒロは仕事もプライベートも充実した毎日を送っていた。ところがある日のこと。あらたな上司が送り込まれてくる。
その上司は異様に計算・文書ができた。ミスをすればヒステリー気味にキレまくり罵倒――ヒロを執拗な攻撃で追い込んだ。
それまで温和だった職場は一変。皆緊張でピリ付いた。やってもやっても仕事は片づかない。誰も助ける者はいない。絶対絶命のピンチ。そのときだった――
救世主のように目の前に現れたエレナ婦人と孫のカレン。彼女たちとの出逢いを経てヒロは息を吹き返していく。
エレナ邸を訪問し徐々に自分を取り戻していくヒロ。一所懸命やっても報われない無念さを胸に必死に訴えるがサラリとかわされる。さてこれからどうなるか――? 続きをお届けしよう。
〔本小説は実話に基づいた小説(=「実小説」と名づけました。)です。
苦しい状況からでもひと筋の光を信じて前に進めば、必ず道はひらける。このことを教えてくれます。読者のあなたにも少しずつ光が射しこんでくるでしょう。)
「エレナ婦人の教え」とは?
https://note.com/hiroreiko/n/nc1658cc508ac
はじめに(目次)
https://note.com/hiroreiko/n/ndd0344d7de60
<<これまで
第4章 語らない姿
https://note.com/hiroreiko/n/n3d1a8a20ad2e
第5章 はじめてのくらし
11月ともなると、南国の屋久島も肌寒くなる。
昨日は早く寝床に就いた。慣れない板の間にざこ寝したせいか、背中が痛かった。おかげで5時には目が覚めてしまった。
周りにほかの宿泊客は見当たらない。すでに寝床は片づけられている。窓から外を覗くと、まきを割り、飯ごうでご飯を炊きはじめているのが観えた。
ここでは自活――何でも自分でやらないといけない。これまでの至れり尽くせりの生活とは180度違う。戸惑いを覚えつつ、僕は仲間に加わった。
慣れない手つきでアジをさばいた。すると“徳島出身”という若者が話しかけてきた。名前は涼太。二ヶ月前から住み着いているという。
涼太は、同年代の仲間がきたと喜び、勝手のわからない僕に、なにかと親切にしてくれた。
見知らぬ土地で気の合う仲間ほど心強いものはない。よき相談相手、理解者として助けてくれた。
1週間が過ぎ、ようやくここでの生活にも慣れてきた。その日は早めに朝食を切り上げ、朝から海に向かうことにした。漁から帰る源三を迎えるためだ。
浜辺に出ると、ちょうど源三が着いたところだった。船の水槽にはアジやヒラメ、鯛まで入れられていた。源三は、太いロープで船を岸にぐるぐるとくくりつけると、納屋(なや)の床に座り、網の修理をしはじめた。
「源三さん、おはようございます」
「おう、アンタか。屋久島でのくらしには、ちったぁ慣れたか」
「えぇ、何とか……。ただ、いままでと勝手が違うので、すごく戸惑っています」
「そりゃ当たり前だ。都会モンにはつらいだろうが、それも一時の辛抱だ」
これまで、困ったときにはエレナさんがそばにいてくれた。だがここにはいない。源三に代わりを期待するのも無理な注文だ。
仕方なく話題を変えることにした。
「いつも何時ごろ漁に出るんですか?」
「明朝2時頃、まだ魚たちが寝てる頃だ。その時間は動きが鈍い」
「ずいぶんと早いんですね」
「あぁ、ものごとにはな、時ってもんがあんだよ」
そう言った瞬間、源三の目の奥が光った。生きざまだろうか、何気ないことばにも有無を言わせない迫力があった。
>>続きはこちら
第6章 源三の素顔
https://note.com/hiroreiko/n/nedbaba73e51a
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