『セッション』2019.10.21




脚の長い女性が見下ろす高いビルの上から、柑橘類の爽やかな香りと、青い空の透明な柔らかい風。両手を広げると彼女は、長い睫毛の目を細めて、音楽を聴く。見える景色。ジャムセッションのような雑踏、巨大なスクリーンにうたれた広告の少女、踏み出す足、一斉に歩き出す人の流れを突っ切って走るライブを控えた少年、路上で歌う少女、白線を踏んで歩く幼い彼、大きなセッション、背負ったベースを揺らす彼女を見つめて、はじめての作詞作曲をした少年。ちっぽけな人生を、小さな音楽に詰め込むプレゼント包装のような作業、長い指でなぞる巨大な譜面。背の高い女性が長い睫毛の目で見下ろす、大きなセッション、雑踏のパーカッション、透き通る路上の歌。髪がなびく、柔らかい風と、両手を広げた彼女、ライブ会場。両手をヘッドホンに、広告を歌詞に、世界を音楽に、微笑んだ背の高いその女性は、大きな青い空へ、胸を広げる。生きていてよかった、と。



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