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トコジラミ騒動で蘇る。憧れのロンドンで南京虫に発狂、部屋にやってきた宇宙飛行士

インバウンドの副産物として近頃「トコジラミ」が日本にもウヨウヨしているというニュースを見かける。つい最近は電車の中でも発見されたと話題になっていた。

トコジラミ、という名前にいまいちピンと来てなかったが、もしや床=BED →Bed bugs のことでは? と英語の方で勘付いてしまった。やはり、南京虫のことであった。
それが分かってから、封印されていた記憶がドドッと蘇ってしまった。

なので、当時のエピソード、私の夢にみた初のロンドン暮らしでの地獄の経験を書いて浄化したいと思う。ここではリアルな名前を綴るのも嫌なので床ムシと呼びたい。その話だけ知りたい方は急ぎ下へ。

長年夢に見たロンドン。とことんツイテなかった

バックバッカーとして旅をしていた2008年。半年インドやその周辺国を旅した私の次のミッションは「海外に暮らすこと」であった。自分には西洋に住む必要があった。西洋圏に住むならイギリスしかない。そのインスピレーションは強烈だった。

その翌年から毎年、いわゆるワーキングホリデーVISAを申請するも、年間1000人の枠は宝くじだった。2012年になって、また五輪の年になってしまった!もうダメだ、となぜか急遽簡易の学生ビザで行くことにした。

初めての西洋圏は未知の世界。シラフで行くには恐ろしいのでインドから往復で行くことにした。2012年5月頃だった。

ひと言で言うと、自分のダメダメさが露呈し、完敗した数ヶ月だった。
ロンドンで対峙したのはごまかしの効かない、現実だった。午前中だけの語学学校も、楽しさもあったが、英語のコンプレックスでたった数時間でも毎日すごくエネルギーがとられていた。

ロンドン生活の問題はとにかく「金」であった

インド後の私の金銭感覚は大分狂っていた。どうにかなるだろう、が全然通用しなかった。あの当時は1ポンド=150円くらいだったか。
金がなければ帰るしかないのに、数年間思い焦がれてしまったが故に帰りたくない、学校に通いたい。

今思い出しても、あの頃は尽く物事は上手くいかなかった。
思い出してしまう数々の思い出・・・
①簡易学生ビザでもどこか雇ってくれるだろう、と寿司屋のバイトに応募したら黒人の店長に「ガサ入れも入るからマジ気をつけて」と怒られて即退場。
②なんとか週1〜2、数時間、日本人のお宅の掃除仕事にありつけたが、その帰りにスーパーで買い物しようとしたらポッケに入れた札がスラれてた。
③a ハムステッドヒースの公園カフェがno visaでも仕事ができると応募。指定の日に限ってバスがストライキ! 仕方ないので歩いて向かうも数十分遅刻。
③b そのまま仕事をさせてもらうも、手書きの字が汚くてオーダーも読めないし、緊張しすぎて全く仕事にならない
③c  ありがたい賄いは全く喉を通らず、まるで私が拒否したような態度に。2度と呼ばれることはなかった。
④その日は珍しい暑さだった。隣国から遊びに来ていた友人と翌日に初ミュージカルに行く予定だったが、ストレスなのか目が開かないほど顔が腫れて人前に出られる状態でなかった。

あの年、ロンドンはオリンピック開催地。世界で最も旬な場所であった。到着した日にお世話になった現地住まいの日本の方からメールをもらった。

男性「五輪のサッカーのチケットがあるけど行きますか?」
ワシ「ありがたいけど、遠慮します」
男性「サッカーはお好きではないですか?」
ワシ「いえ、電車賃が出せないのです・・・」

すぐ側での世界のフィーバーと自分を取り巻く世界の乖離は激しかった。

初の引っ越し、間借りした部屋の悪夢

最初のひと月は日本で手配していた一等地の寮に滞在したが、とても継続できないので、自分で街の店の張り紙を見て、電話をして引越しをした。
場所は語学学校のあった北ロンドンのGolders Green。以前は日本人(Japanese)とユダヤ人(Jewish) が多く、JJエリアと呼ばれていたとも。

英語初心者の私にはJewish が最初わからず、寮で私の面倒を最初に見てくれた女性がジューイッシュと何回か口に出したので「what is Jewish?」なんて素直に聞いてしまったら彼女は顔を赤くして取り乱した。彼女が正しくJewishであったのだ。失敗は成功への階段。と思うしかない。

さて、引っ越した家のオーナーは初老のアイルランドの女性。彼女の口癖「Lovely」の使い方でイギリス人のラブリーは単にNiceなのだと理解していった。
黒人は入れない、という彼女は一軒家の2階の3部屋を間貸ししていた。なかなかストイックな制約があった。
・ご飯は部屋で食べてはいけない
・洗濯物は週に1回のみ
・外に干してはいけない(乾燥機使用)
・友達をあげてもいいけど泊まるのはダメ

追い詰められた挙句、ベッドバグでKO

貧乏だけどもう少しロンドン暮らしをしたい・・気持ちと現実の狭間で私の精神は大分やられていった。金の心配が猛烈になると、教室にいても勉強に集中できなくなる、ということもよく分かった。
英語はlower intermediate からintermediateになったか、くらい。正直、英語を学ぶ以前に形容詞って副詞って何? 日本語から勉強する必要があった。机にじっとしていることが困難だった。
まだまだネイティブに英語を話すなんてできなかった。

キャバクラをやっている日本女性がいたので、そこのウエイターなら、と繋いでもらったが「お姉ちゃん(キャバ嬢)はできないの?」と言われた。VISA不要だからやればいいのに、どうしてもやると言えない自分がいた。

そんなこんなで夏の盛りも終わりかけの頃だったか、ベッドで起き抜けに足が痒いな、と感じる日が続いた。
私はアトピー持ちなので、その類なのかな、と最初は気にしないようにしていた。
もう少しすると、シーツにシミがつくようになっていた。自分の血のようだった。
「洗濯は1週間に一度だけ」の制約があったが、耐えかねてシーツを部分的に洗って、机の上の小窓にかけて乾かそうとした。

「洗濯しちゃダメでしょ!」すかさずオーナー女性は庭からその光景を見て私のところへやってきた。
「だって、シミがあったから・・・」拙い英語でも現場にいれば伝わるのだ。
それを知ったオーナー女性が「・・・ひゃあああ!」と白目を剥き出した。

「これはBed bugsよ」

新しい単語に私は「?」状態だったが、辞書で調べて今度は私が白目を剥いた。インドでも経験しなかったのに。。これが床ムシの初体験だった。

さらにアイリッシュの婆ちゃんには「隣部屋のメイトにも誰にも言わないように」と釘を刺されてしまった。

正体が明らかになって実物登場

私はアトピー持ちである。何が言いたいかって、第二の脳とも言われる肌が弱い人は往々にして繊細である。肌で触れる感度が人一倍高い。
日々の寝床に床ムシが居着いて、毎日被害にあっていた、という事実は私の精神をさらに衰弱させた。

ベッドを変えるワケにはいかないので、そのまま寝るしかない。痒いと感じるのは朝方だ。
正体を知ってしまったからなのか、本当にその翌日から「実物」がベッドの上、というか私の首筋周辺で、ピョーン、とはねているのを見てしまった。

叫ぶワケにはいかない。ただただ、静かな絶望の中で命を保つしかない。足元から始まったシミは気付くと首や肩のエリアでも拡大していった。
実物が出てきて、「もう帰れ」と言われた気がした。実際もうこれ以上居られなかった。奴らの出現を機に私はロンドンを出る決意が固まった。ある意味では人生のカラクリはよくできているのだと、今なら思う。

やってきたのは宇宙飛行士

家から徒歩3分ほどのところにある学校へ行ってももう集中はできなかった。自分だけヴェールに包まれているような感じ。「ちょっと聞いてよ〜」と笑いにできるレベルを超えていた。

その間、オーナーは私の部屋の除染の手配を進めていた。実際のところは調べてないけど(検索すると写真が出るから調べたくない)床ムシはどこにでも入り込んで卵を生んでしまったら際なしに住みついてしまう。

最初は私がインドから連れてきたのかと思ったが、実は私の前に住んでいた東欧の男性の時に出ていたらしい。
除染の作業をする時は、タンスの中も、何から何まで一旦外に出して消毒する。持っている服は全て熱湯で洗濯する。(乾燥機のせいもあるけどおかげで全てテロテロになった)

除染作業当日、私が学校へ行っている午前に業者が来ることになっていたので、荷物をのけておいた。

学校から帰って私の部屋へ行ってみると、なんと宇宙飛行士のような格好をしたヒトが2名出てきた。もうこれから月に行きますって言わんばかりの格好なのだ。

正直吹いた。そしてそれを見たオーナーの婆ちゃんも「まるで月に行くみたいだね!」と笑い合ったのだ。

これが完敗のロンドンライフの幕引きであった。
ロンドンライフはなかなかtoughである。私に限らず、家の中にいるのにPC盗まれたとか、カフェで目の前で話している人にスマホ盗られたとか、すれ違いざまにスキミングされたとか、ツイテナイはどこにでもある。

2回目のロンドン暮らしでも、元旦早々泥棒に入られて包丁を持って庭から自分の部屋へ忍びこんだり緊急入院をしたり、とハードボイルドであった。イギリス・ロンドンは因縁の地である。
以前ロンドンは好きか? と英語で聞かれることがあったのでよく「I hate and love London」と答えていた。
憎んで愛してやまないロンドンは紛れもなく私の人生の一部なのだ。

兎にも角にも、日本に来てしまった床ムシさん、子孫繁栄は望まずどうぞ国外退出してください。心からお願い申し上げます。



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