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ぼくものがたり(戦後80年にむけて) ⑤ キラキラしたもの
《 キラキラしたもの 》
僕のとなりにはイケガミさんといって、二人とも先生をしているご夫婦が住んでいた。両家で家の間ある私道に防空壕をいくつも作っていて、そこに燃えては困るタンスなんかを一緒に入れていた。
晴れ渡ったすごく天気の良い日に空襲警報があって、B29が10機以上ビューーって飛んできた。イケガミさんと僕の家族は防空壕からそれを眺めていた。でも爆弾を落としてこないので、「あれはもっと遠くに行きそうだ」と話をしていたら、変なものを落としてきた。なにかキラキラ光るものを。
「あれはなんだろう?キラキラひかるの」
焼夷弾だったら、バーンと落ちてきちゃうんだけど、それはゆっくり落ちてきている。そんでなにか広がりながら落ちてきてるの。「何だろう?」と言っていたら、イケガミさんの奥さんが、
「あれはねぇ、あれが落ちてくるとね。火事になるようなあれなんですよ。あれは焼夷弾とちがって建物にかかると火事になるようにできているんですよ」と。
「へー」
なんて見ていたら、それがどんどん広がって、ながーいテープのようなものがヒラヒラと真上から広範囲に落ちてきた。
とにかく学校の先生が言うんだから間違いはないだろと、お袋は、
「はぁ…」と心配そうに見上げていた。
僕は空いちめんキラキラしてきれいだし、なんだか面白いと思って見ていたら、そのキラキラは近くに来ると急に落ちる速度が速くなった。で、僕の家のケヤキの木にたくさん引っかかってしまった。
お袋は慌てて、バケツ持って「水―!、水―!」と叫んで大騒ぎしていた。その様子をみんなで見ていたけど、先生は火が出ると言ったのに火なんか出なかった。
テープは広がってうちのケヤキの木や屋根にたくさん落ちていて、お袋はパニック中。でも見ていてもぜんぜん火なんかでない。イケガミさんは、
「あれ、火が出ませんねぇ」なんて言ってる。
「なんでしょうねぇ」って。
そして気づいたら、いつの間にか見物人がわんさか来ていて、沢山の人がそのキラキラしたものを見に集まっていた。どこかでは広がらないまま塊で落ちていたのもあったと言う。
すると勇気ある人が、火が出そうもないので触ってみて、
「軽くて、なんだかスズのテープのようだ」
と、手で触っても大丈夫なんで破いてみたら破けた。なので、
「なんでもないよ!」と。すると、一人の人が、
「なら持ってこう」って拾い始めたら、そこにいた沢山の人がみんな拾い集めて丸めて持って帰り始めた。
ものすごい人が集まってたけど、みんな、
「なんでもねーや」とか、「火なんかでねーや」とか口々に言って記念に持って帰って、その場はおさまった。
しばらくたってラジオで、東京にそんなテープのようなものが落ちたけれど、それは通信妨害をするもので、火が出たりとか人に危害はないものです。と、放送した。
みんな、なーんだと安心した。うちもしばらくは取っておいたけれど捨ててしまった。記念に取って置けばよかったなと今では思ってる。
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