ぼくものがたり（戦後80年にむけて）　③始まった戦争

《　始まった戦争　》

　僕が４歳の時、１９４１年（昭和１６年）１２月７日に日本軍が真珠湾を攻撃して太平洋戦争が始まった。翌年、弟の孟弘が生まれたあたりから本格的に戦争色が濃くなってきた。
　ラジオからの大本営発表を聞いていると「鬼畜米軍の航空母艦、何隻を撃沈！」とか、「日本軍はもうすぐ敵国アメリカをやっつける」的なことを言っていた。後からわかったけど実際はあちこちで大敗していたのに全く逆のことやウソを伝えていた。
 
　隣組（となりぐみ）って組織が近所の人たち数軒で作られた。
　食物や衣類などはみんな兵隊さんに回ったから、商店から全く商品が無くなって、商品が入ったという噂を聞いて買い物に行くと、ものすごい大行列となっていた。
　なので、お米やマッチ、衣類など多くの生活必需品が配給制となり、それを隣組が統制することになったんだ。
　隣組の上が　区長　→　東京市長　→　警視庁　　　と統制された。

　これが当時流行った国民民謡

　♬　　とんとん　とんからりと　隣組
　　　　格子（こうし）を開ければ　顔なじみ
　　　　まわして頂戴　回覧板
　　　　知らせられたり　知らせたり　　　♬
　　　　　　
　　　　　　　　　　※　ド、ド、ドリフの大爆笑～♪で歌ってみて。

女性たちはみんなモンペ姿で、
「ぜいたくは敵だ！」「欲しがりません勝つまでは！」ってタスキをかけて活動に精を出していた。
　銃後の守りって言って、兵隊さんが銃を持っている後ろで応援するように、戦争に行かない女性や子供も戦争に勝つことを第一にしろ、って教えられた。

　隣組では、火事になった時のバケツリレーの訓練もよくやっていた。バケツの水は、道路に点々とコンクリートの水がめがあって、そこから運んだ。水がめは二つに分かれてて、水のほかに砂が備えてあった。防火用水と防火用砂だ。そこから隣組の家族同士で集まって列を作って、大勢でバケツの水を運ぶ練習をした。
　小学生でも高学年の子供たちは参加していた。見ているとなんだか楽しそうだったから僕も参加したかったけど、まだ５、６歳だったから応援だけしていた。
　水がめは僕の家の前の道路にもあって、１メートル四方はあったから水遊びにちょうど良くて、暑い日にはそこで泳いだりもしていたけどね。
 
　隣組ではそのほかに、防空壕を作ったり、兵隊さんを励ますために送る千人針のお願いをしあったり、戦争に行くことが決まった人のうちに行ってお祝いをして送り出したり、いろいろとお互いに助け合っていた。

　だけど、灯火管制（とうかかんせい）って言って、明かりを家の外にもらさない決まりがあったので、少しでももれていると、
「なにやってるんですか！！」
って、すごく怒られた。今まで優しいと思っていた近所のおばさんが血相変えて怒ってた。でも、ちょっと油断して明かりをもらしていたら、その家を中心に爆弾を落とされて、周辺が焼き尽くされてしまう。自分の家だけの責任じゃすまされなかったから仕方なかったんだろうな。

　僕の屋敷の竹垣も、近所の家の壁もみんな真っ黒に塗られたり、真っ黒な板を付けられたりしていた。少しでも明かりが反射しないように国からの命令だった。だから夜になると辺りは本当に真っ暗闇。お袋も明かりがもれないようにすごく気を遣っていた。
　周りが少しずつピリピリした感じになったきた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　次回「上野動物園」他