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ゲゼモパウム 第六話

抜け道の先――薄暗い場所にゲゼモパウムと思われる奇怪な生物は生息していた。
「!?」
 誰も感じたことがない恐怖に似た不穏な空気がした。やはりゲゼモパウムだ。私が初めて奴らを見たのは体長50センチほどの体躯をしていて、小さな角が生えていた。角だけが白色で、他の部分は全身黒に染まっていた。また、彼らはとても毛深かった。まるで雪男のように体毛が体中を覆い尽くしていた。顔の真ん中に大きな、二つの目がついていて、その真下に口があった。脚の部分は毛で覆われているのだが、愛玩動物のように自在に移動することも可能だ。黒い手も見え隠れしている。彼らこそが、ゲゼモパウムで間違いない。しかし意外にもゲゼモパウムは人間に怯む様子はない。彼らは間違いなく未確認生物に分類されていたのだが。
 私は彼らを注意深く観察した。

 それぞれ50~80センチまでのゲゼモパウムが20匹ぐらい洞穴に生息していた。顔に黒ひげ、赤ひげ、青ひげ、と人間にそっくりなひげが生えていた。しかし彼らは人間に対して警戒心を抱いているように見えた。ゲゼモパウムは妖怪に似た不思議な生き物で、一言では形容できない。
「あなたたちがゲゼモパウム?」兵長は訊いた。
「!?」
 私たちの気配に気付いた。
 そして彼らは言った。
「何しにここにきた?」
 やはり彼らは言葉が話せた。
「私たちはあなたたちと話し合いにきました」
「やはり人間か」
 ゲゼモパウムは突然、鋭い牙を剥き出して威嚇しはじめた。あるいは私たちの目的はここにきた時点で見破られていたのかもしれない。そして兵長は遠回しにここに訪れたことを述べるのがベストだと考えていた。
「ゲゼモパウムなどと呼ばれる謂れはない。我々が住まう神聖な地に部外者が入ることは許されない」青ひげは、鋭い牙を剥き出しにして言った。
「あなたたちに危害を加えることはしません。けれども、私以外にもあなたたちを知りたいと思っている者は存在しています」兵長はリーダーとしての任務を果たした。「私たちは、あくまで友好的な解決を望んでいます。あなた方はここに住まう神だと聞いています。しかし、私たちの判断だけで証拠が一切ない。けれど、あなたたちはなぜこんな砂漠の地の地下深くに住んでおられるのですか?」

「人間は悪い生き物だと聞いている」黒ひげは自分たちが寝床にしている慎ましい住み処に目をやった。それと同時に言葉を紡いだ。「悪いことは言わない、ここから立ち去らなければ命はない」
「あなたたちの住み処を荒らして申し訳ありません」上等兵は丁寧に説明した。「だけど私たちの話を少しでも聞いていただけないでしょうか?」
「神聖な自然を汚染するだけでは飽き足らず、環境を破壊して生き物を殺し、反省もしない人間などに耳を貸すことなどできない。早々にここから立ち去るのだ!」赤ひげは怒声を浴びせた。
「いい暮らしをすることのどこか悪いというのです?」伍長は開き直った口調で言った。これは明らかに失言に思えた。
「バカ」兵長は伍長の腰を指で抓った。
 青ひげは言った。「都市化した豊かな生活はやがて腐敗する」
 私は彼らの話を黙って聞くことにした。
「私たちは神聖なものしか信用しない。汚れた人間社会に未来などない」黒ひげは言った。
「その通りだ」赤ひげは言った。赤ひげは口が悪かった。「お前たちは私利私欲だけで家畜を殺して、私利私欲のためだけに自然を破壊した。それで本当に豊かな生活を送れると思っているのか?」

「人間はそうして生きるしかないんです」一等兵は平静を保ち説明した。「天と地に感謝して、神様からの贈り物で生活しなければ暮らしていけないのです」
「無残に殺される畜殺場の豚や鳥は本当に神様からの贈り物か?」
「そうです」
「我々は全ての生き物に平等であって欲しいと考えているが、平等という概念はあくまで一個人の感想に過ぎない。欲望は人間を醜くさせる」青ひげは言った。
 私は人間社会について詳しい彼に対して興味を持った。
「私はあなたたちの正体が知りたい」私は彼らと直談判して生態系を知りたい、という知的欲求に動かされた。「あなたたちは一体、どの種族に分類される生き物なんですか?」
「敢えて言うならば」赤ひげは真相を話した。「人間の悪い欲が生みだした生き物だ」
「!?」
 私たちは驚きを隠せなかった。
 そして兵長は言った、
「私は平和的な解決を望んでいる。私たちも得をしてあなた方も得をする平和的な解決です」兵長はゲゼモパウムと話し合う必要性を感じていた。
「お前は何を言っているんだ?」赤ひげは首を横に振った。「要点をまとめて素直に目的を言え」
「それは」私たちは誰も答えを言い出せなかった。
「頭の回転が遅い奴らだ」ゲゼモパウムの集団がミッキーマウスやドナルドダックみたいな甲高い声で一斉に笑い出した。
「それに、自分の名前も名乗らずに要望だけするとはずいぶんいい度胸だ」  黒ひげは言った。
「私は佐々木兵長です」
「私は玉置伍長」
「私は藤崎上等兵」
「私は黒木一等兵」
「最後に城川二等兵です」
「薄汚い人間どもだ」赤ひげは笑った。
「それで双方が得をするとはどんな話だ?」黒ひげは訊いた。
「あなた方に危害を加えず、より良い住み処を招待して、おもてなしをさせて頂きたいのです」

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