とんぐ侍
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
つかみどころのない侍
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
今日は何をつかもうか
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
明日はでっかい夢つかむ
とんぐ侍は、京都市伏見区羽束師に住んでいる。71歳になったばかりである。
見ての通り、とんぐ侍の髷は、トングである。
このトングで、世の中の悪を成敗。
つまみ上げて説教をする。
そのあとは改心するまで面倒を見る。
見捨てない。
友だちとして生涯付き合っていくのだ。
とんぐ侍の夢は、世界を平和にすること。そして密かな夢は、顔面俳優としてハリウッドデビューを75歳までに叶えること。
とんぐ侍は、キミの笑顔を守るため、今日もトングを磨き、表情筋をはじめとする心身の鍛錬を忘れない。
【散歩の巻】
とんぐ侍は、土手を散歩するのが日課だ。
服装は、スタンドカラーのシャツにフリースジャケット、ストレッチパンツを好んで着用。イトウゴフクやUNIQLO、トライアル、ファッションセンターしまむら等で買っている。
散歩は、免許試験場を通り越し、ウォーキングコースや住宅街を歩く。いわゆるパトロールである。
すれ違う人たちに挨拶。侍としての礼儀。
「こんにちは。お元気でっか?」
これが言えれば、今日という一日が開放的になる。
こう挨拶すると、侍と大和撫子の国・日本では、多くの人が口を突いて挨拶を返すだろう。
いや、世界にも通用する。
とんぐ侍のモットーは、「人類みな友だち」なのだ。
どんどん歩く。すると、忍者のような動きで、とんぐ侍の真横を通り過ぎた者がいた。
「なにやつっ!」
とんぐ侍は構えて目を凝らす。
すると、住宅街に吸い込まれるように走って行ったのは、ヤクルトさんの超小型電気自動車「コムス」だったのだ。
「いつぞやの駿足の車か!」
とんぐ侍は、以前に一度だけヤクルトさんの「コムス」を見かけたことがあった。
車体全長の短きことへの驚きと、なんとも言えぬコミカルさに、ずっと心を奪われていたのだ。
それが、なんとまあ、自宅のすぐ側までやってきたとは。
とんぐ侍の瞳は輝いた。
散歩をすると、身近な場所でも発見や面白い出会いがあるものだと、納得した。
歩いていると目の前に広がる山々や木々、花々に、時の移ろいを教えられ、
本来は一日たりとも全く同じ日はないのだとハッとさせられたり、励まされたりする。
︎〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
明日はでっかい夢つかむ
今日も散歩を楽しむとんぐ侍であった。
【無料クーポン大好きの巻】
朝からスマホの操作音。
音量が大きすぎる。
毎朝、アプリにアクセスして、賞品がもらえる抽選に参加し、その無料クーポンを当てることが、目を覚ましてからの一番の幸せなのだ。
当たった品々は、コンビニをはしごしたり、店員さんのお世話にもなりながら、全て完璧に頂いてくる。
「店屋の失礼に当たらんように」
不思議な言い回しをするのだが、頂ける物は有り難く頂戴する、これがとんぐ侍の流儀だ。
ただ、
ファミリーマートに行って、セブンイレブンでもらえるもののバーコード表示をしたこともある。レジの店員さんに、「これ、うちちゃいます、セブンイレブンですよ」と言われ、「すんまへーん!」と赤面して通い慣れているコンビニを出てくるのだ。
各種ペイの使いこなしも見事である。
各種ペイを利用すれば、お得になるクーポンが配布されていることがよくある。
これを女房とともに楽しみにしているのだ。
しかし、
ローソンに行って、ファミペイ支払いをしようとしたこともある。
この時のレジの店員さんは天然の方なのか、とんぐ侍と一緒になって、「おかしいですね、なんでやろ、おかしいですねー」と悩んでくれた。
コンビニを出て、しばらくしてからとんぐ侍は自らの間違いに気付くのだった。そして店員さんにも謎を解明したことを告げに行くのだった。
そしてショックなのは、
クーポンの使用設定が必要なペイもあり、使用設定していないことに気付かず、かなりお得をしていると思い込んだまま買い物を重ねてしまうことである。
気付いた時には、ペイによる謀反を起こされた気持ちになってしまう。
あくまでも、とんぐ侍の確認ミスなのだが…。
ペイによる失敗談は、4コマ漫画のように痛快だ。
また、それなりにフィッシング詐欺には気を付けている。
チラッチラッと、リビングにやってくる子どもたちを眼鏡を通さず上目で見る。
質問したそうな表情を向けるとんぐ侍なのだ。
「ツイスターで当たると出ているけど、やっても良いのか、良いよなあ?」
まず、Twitterと言えていない。覚えようとしていない。
そして、Twitterのアカウントは作ってもらったが、操作方法を覚える気はなさそうなのだ。したがって、応募して当てたいが、操作を全て子どもたちの誰かにしてもらう魂胆である。子どもたちもいつもいつも暇ではない。
とんぐ侍は、聞き入れられない時は、ヘソを曲げる。
フィッシング詐欺には気を付けているながらも、
スマホの操作中に度々出てくるお得情報のような宣伝に興味を示す。SMSの怪しげなメールにも反応しそうになる。都度、女房と子どもたちに助けてもらい、事なきを得ているが、難解な機械モノの何を怪しめば良いのか分かり難いのも確かだ。
アプリのインストールは子どもたちにしてもらうのだが、
とんぐ侍は同世代からは、スマホ操作に長けた人と思われている。何故か。メルカリで自宅の不要品を売っているからだ。不要品を綺麗に磨き上げ、掃除し、必要とする人に届けるまでの喜びを覚えた。そうやってコツコツ貯まったお金は2万円を超えた。それをお小遣いの足しにしている。
ある時、還暦を迎えた友人と話していた。
とんぐ侍は、自分はスマホ操作に慣れてきているとも思っていたので、少し横文字の言葉を発してみたかった。
以下、アプリの話をしていたある時の会話より。
「それは、おれもラウンローロしてる」
「え?」
友人は聞き間違えたと思った。
とんぐ侍は、聞き返されたと思い、もう一度言った。
とんぐ侍の長男が助け舟を出した。
「それ、ダウンロードじゃない?」
「…らうんろーろ
らうんろーど…?」
とんぐ侍は小さく誤魔化してみた。
友人は、
「発音がええみたいですやんか」
みんなで笑った。
それからというもの、
とんぐ侍は聞こえたままを自信をもって口にする。
マクドナルドの、
「チキンすりすぷっ」、
「チキンくりぷすっ」、
「チキンぷりすくっ」…。
言った分だけ変化があるのだ。マクドのクルーさんは、レジ前でもドライブスルーでも、注文として汲み取り、スマイル0円は頼んでいなくとも笑顔で対応してくれるのだ。チキンクリスプよ、110円に感謝。いつも美味しくいただいている。
〽︎︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
明日はでっかい夢つかむ
言い間違えても聞き間違えても覚えられなくても、
今日も喋り続けることを楽しむとんぐ侍であった。
【公園掃除の巻】
正月気分が抜けきらない1月8日のこと。
今日は朝から公園掃除。
町内会で当番が回ってきたのだ。ご近所さんとペアになって掃除するのだ。
家を出るまでは寒くて億劫だったが、早めに外に出て準備をしていると清々しい気持ちになってきた。
うちの公園掃除の内容は、箒とちりとりで落ち葉集め。
レレレのおじさんみたいに、ひたすら掃き集める。竹箒と熊手の箒を使い分けても良いのだ。
しかし、「拙者はとんぐ侍」。
こんなこともあろうかとMy掃除用トングを自宅から準備してきた。
サッサッササッサ。掃く。
ザーザーガリガリ。熊手の箒で掻き出す。
「ん?…これは」
My掃除用トングでつかんでみた。
なんと公園奥の低木の下から、蝉の抜け殻が出てきたのだ。
低木が雨風から守り抜いてきた夏の記憶だ。
とんぐ侍は、なんだか嬉しくなった。
蝉の抜け殻は捨てず、低木の下にまた隠し入れた。
夏の猛烈な暑さは勘弁してほしいが、今は冬、まだまだ先にやってくる夏との秘密のような気持ちになったのだ。
サッサッササッサ。掃く。
ザーザーガリガリ。熊手の箒で掻き出す。
嬉しそうに夢中に掃除しているとんぐ侍に、ペアのご近所さんが「そろそろ終わりましょうか」と声をかけてきた。
ハッと我に返ったとんぐ侍、「そうしまひょかっ」と掃除用具を片付けた。次の当番の人に引き継ぎ、今回の当番は終わった。
とんぐ侍は、自然を愛している。
羽束師は田舎の雰囲気がある。
ある時、西羽束師川支川に架かる橋を、一匹の亀が歩いていた。ゆっくりゆっくり、本物の亀の歩みだ。
車で通りがかったとんぐ侍は、運転している長男に車を停めるように言った。急いで降車し、亀が轢かれないように支川の近くに連れて行ったのだ。
良いことをしたとんぐ侍は、気持ちが良いものだとにこにこ笑顔。
同じ時代に生きている、命あるものへの敬意を決して忘れない。
〽︎︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
明日はでっかい夢つかむ
この世に生まれ出た命との、不思議な縁を大事にする。
とんぐ侍流「人生を何十倍も楽しむ方法」である。
人に至っては、相手への興味となり、即座に友だちへの門が開かれる。
今日も出会いを楽しむとんぐ侍であった。
︎〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
つかみどころのない侍
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
今日は何をつかもうか
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
明日はでっかい夢つかむ
とんぐ侍の日記のような旅は、まだまだ続く。
いつでもキミの隣に座り、笑いと励ましをくれる。
〽︎とんぐ とんぐ とんぐ侍
ともに未来の夢つかもう
<写真・文 ©︎2022 いけだひろこ>
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