私の芸術運動136バース

前回の記事で書いた事が日に日に自分の中で大きくなってきています、心に巣食う漠然とした不安の正体に近づいてきたように感じます。

ある日、いつもの画材屋に行くとシャッターが降りていて張り紙が貼ってあり、そこにはこう書かれている

(長い間ご愛顧頂き誠にありがとうございました、昨今の時代の変化もあり画材の需要も減り、代わりに新しい芸術への扉が開かれたのです、私どもはこれからも芸術を志す方々を応援して参ります、また違った形でサポートできる日を楽しみにしばしのお別れとなります、それではまたどこかでお会いいたしましょう。)

またか、、、近頃閉店する店が増えて画材を手にするのも一苦労となった、画材の値段だって高騰してしまって気楽に描けたもんじゃない、安さもあって愛用していたウルトラマリンという絵の具も今じゃ一本一万円を超える、貼りキャンバスだって何万円もする、他の画材も想像のはるか上の値段となってきてネット上では転売が横行してる、買い占めだって起きていて足を伸ばして行った数少ない画材屋の棚はすっからかんなんて事はザラだ、経済は相変わらずで給料は上がりも下りもしない、光熱費や税金は上がる一方だけどそれでも画材の高騰と比べたら大した事はなかった。

ほとんどの人からすれば画材の高騰よりも光熱費や税金の緩やかな高騰の方が問題でニュースを見ても画材の話なんて全く出てきやしない、近い将来AIに取って代わられる仕事一覧というものが随分前からまことしやかに囁かれていたけれど、画家は取って代わられることもなくただ淘汰されて行くだけの存在だったのだ。

正直画家には貧乏というイメージが昔あったけど、今じゃ金持ちしか生の絵の具で絵を描く事は難しい時代になった、麻のキャンバスに油絵具で絵を描くことができるというのはある意味で金持ち達のステータスとなっていてそれが自分達の立場を誇示する一つのわかりやすい見栄の張り方なのだろう、美術館には昔の巨匠の絵が並びその中に紛れて現代の金持ち達のエゴの塊のようなつまらない絵が並ぶ、一般庶民にはもはや関係の無い世界となり、これが芸術だ!!と、そのつまらない絵は声高らかに叫んでいたけれど、技術以前の問題でその絵はあまりにも醜く芸術の自由を切り拓いた印象派や野獣派の隣に並んだ金持ち達の描いた落書きを見ると悔しくて涙が溢れてきた、金があれば画材が買えて美術館にも展示してもらえる、私が昔思い描いた、自分の絵がいつか美術館に並び、私の思う巨匠達と同列に一枚でも並んで展示されたならという夢はいよいよ夢となってしまった。

私が絵を描き始めた頃は銀座にもまだたくさんの画廊があり、絵を展示させてもらった事も何度かあった、たいてい予約で埋まっていて、日程を組んで何とかお金を工面して個展を開いていたが、今は空きのテナントが増え、そこに色んな海外のチェーンが入ったりして賑わってる、それはなんて事はない普通の光景で銀座はいつものように活気に溢れている、残った画廊は老舗が多く、庶民が買えるような額じゃ無い、中にはメタバース上で描いた絵を販売している画廊もあるが、ネット上で購入できるためか店舗はガランとしている、店頭にある画面にはメタバース上で絵を描く画家らしき人の制作過程動画が流れ自分の持つ携帯から誰もが投げ銭できるようなシステムになっている、画面に表示された金額は凄い額で私は画廊の壁を爪先で小突いて歩き始めた。

現代において私達の生活が困窮しきっているか?と言えばそうでもなかった、普通に仕事はあったし、生きていく金はあった、給料も下がる事はなく、今までと何ら変わらないようにも感じられる、だけど、画家を志した私からすればそれは違う、絵で生きていくなんて事はほんの一握りの人達しか無理と昔から言われていた、そんな事はわかってた、だけど、自由に絵を描く事自体が困難となり、その原因は金であり、更に言えば原因は金だと思い込まされているだけで実はもっと別の所にある事は私もわかっている。

これからもどんどん生の絵の具で絵を描く人達が減ってゆき、画材の販売がいよいよ無くなった時、私はどうするのだろう?私は何とか月の給料の中で幾つか画材を手にして描き続けているけれど、このままってわけにはいかないだろう、今じゃメタバース上で絵が描ける、タップすれば必要な絵の具がすぐ使える、エフェクトを使えばゴッホ調にもモネ調にも見えるような絵を描く事が可能になってる、みんな芸術は自由で身近なものだと言う、それは否定しない、私がただ時代に取り残されただけなのかもしれないなとさえ思う。

部屋に戻ればまだ少し画材がある、転売もできるだろうけど、私はこれを最後までしっかり使い切りたい、キャンバスは残り2枚、残りの絵の具自体は見立てでは2作品も描きあげるほど残ってはいない、いよいよ、私の最後の作品となりそうだ、ならば何を描こう?何を描けばいいんだろう?私はこれで終わるのか?私は結局画家だったんだろうか?なんて不自由なんだ!!


って未来が来るかもしれないよねー?っていう私の想像でしたー。笑

だから!!今目の前にある画材や絵を描ける環境に感謝して、一枚一枚魂込めて大切に描くんだ!!!!

最近のこの漠然とした不安に打ち勝つ為に!!

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