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【建築】コレは雲か、魚か、帆船か? フォンダシオン ルイ・ヴィトン(フランク・ゲーリー)

パリ郊外のブローニュの森といえば誰でも一度は耳にしたことがあるだろう有名な公園だ。市民の憩いの場として様々なレクリエーションを楽しめる。テニスの全仏オープンで有名なスタッド・ローラン・ギャロスや凱旋門賞の開催地であるパリロンシャン競馬場、国立民族民芸博物館やバガテル庭園といったスポーツ・文化施設も充実している。


そのブローニュの森に2014年、新たな施設がオープンした。


快晴の青空の中、最寄りの地下鉄の駅から歩いて行くと、ガラス張りの建物が見えてくる。建築ファンであれば一目で誰の設計か分かる。


フォンダシオン ルイ・ヴィトン Fondation Louis Vuitton。直訳すれば、ルイ・ヴィトン財団。LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループによる現代アートを中心とする美術館である。


設計はフランク・ゲーリー。脱構築主義建築の筆頭で、積木や破片を寄せ集めたような、あるいは不規則な曲線・直線で構成されたような、あるいはウニャウニャグネグネの、一言で表現すれば"変な"建物ばかりデザインしている建築家だ。

そしてこの建物も御多分に洩れず"変"である。


私はそんなフランク・ゲーリーの建築が大好きだ。
彼の建築家としての評価が高まったのは49才の時の自邸のリノベーションだが、49才といえば社会人としては折り返し点を過ぎている。しかしここからゲーリーの快進撃が始まる。
美術館建築の歴史を変えたビルバオ・グッゲンハイム美術館は68才、
ウォルト・ディズニー・コンサートホールは74才、

MITステイタ・センターは75才、

そしてこのフォンダシオン ルイ・ヴィトンは85才の時の建築である。
いや、凄くないですか?
もちろん今や大設計事務所となり、実務は優秀なスタッフが担当しているとしても凄い! 年齢って関係ないと思わせてくれる。

ゲーリーについて書くとキリがないので、話を戻そう。


2001年、LVMHの会長CEOのベルナール・アルノーはゲーリーに新しい美術館の設計を打診した。彼はパリ市内のガラス張りの建造物やブローニュの森からインスピレーションを得て、何とも形容しがたいこの建物をデザインをした。
これが初期のスケッチ!

ゲーリー好きな人ならお馴染みのスケッチだが、落書きとしか思えない。
先ほど「年齢を感じさせないゲーリーは凄い」と書いたが、これをちゃんと設計図にするスタッフも凄いのだ。


計画は2006年に発表され、公園を所有するパリ市が2007年に建築許可を出した。伝統あるパリの公園で、よくぞこのデザインの建物を許可したものだ。


しかしやはりと言うべきか、この建築計画に対して公園を保護する団体「ブローニュの森を守る会」が裁判所に異議申し立てを行い、一旦は建築許可が取り消された。最終的には議会によって"国益を優先する"という特別法が可決され、建設が許可されることになったが、今や世界のラグジュアリービジネスを牛耳るLVMHだからこそ成し得た力技だろう。


エントランスには建築家のデザインによる輝くLVのロゴ!


この建築の特徴は建物を包むガラスのベール
3,600枚のガラスを使って12枚のベールを構成しているが、それが複雑に反射し合い、不思議な透明感を感じさせる。


それにしてもこの造形は何を表現しているのだろう?
雲か? 魚か? 帆船か?


ちなみにゲーリーは本人も認めているように魚が大好きだ。多くの建築やオブジェで魚をモチーフとしている。神戸にあるオブジェ・フィッシュダンスもそうだし、ここでも館内のレストランに鯉のランプが吊られている。


建築としてのもう一つの特徴は屋外テラス。この美術館の展示室や廊下には、あちこちにテラスへの出入口がある。


この建築、というかゲーリー建築の多くはハリボテなのだが、このガラスのハリボテが庇の役割をして、テラスを心地良く散歩出来る。


逆にハリボテのせいで周辺の庭園や街並みが見えそうで見えない。このチラ見せ具合は計算なのだろうか?


建物本体の白いパネル(超高性能繊維補強コンクリート)は、外見的には氷山を表しているそうだ。なぜパリで氷山なのかは分からない。


それにしても、ガラスのベールを支えるゴチャっとした柱(素材として鉄骨だけでなく木の集成材も使っている)をそのまま見せて、ハリボテ感を隠そうともしないことは潔い。清々しささえ感じる堂々ぶりだ。設計者によっては構造を隠したり、もっと柱や梁の数を少なくしようとするだろう。


館内でも、廊下や階段室など展示室以外の空間は斜めの柱や鉄骨がそのまま意匠となっている。またガラスからは自然光が入ってとても明るい。


自然光の取り入れはゲーリー建築の特徴でもある。彼の建築はどうしても外観によって評価されがちであるが、そもそも内部空間の作り方も上手いのだ。


ところでガラスやコンクリートのパネルは、それぞれ大きさや形、曲面具合が異なるパネルを組み合わせている。長方形や直線ではないので、設計するにも工事するにも、アナログ作業だと大変だ。しかしココにもゲーリーの凄さがある。


ゲーリーはITを使って建築業界向けソリューションを提供するGehry Technologies社を立ち上げている。この会社が独自に開発した3D設計ソフトを使って、ベールを形成する3,600枚のガラスパネルや19,000枚の氷山のコンクリートパネルをシミュレーションし、効率的な設計や必要なパネルのサイズ・数量を導き出している。複雑な柱の構造計算も同様だ。(まあ実際はITを使っても、それなりに手間のかかる作業であろうが)


それにより工事も効率的になり、結果としてコスト削減にもつながる。ゲーリー建築は、見た目の割にはコストが抑えられているそうである。

ただし少なくともこのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンに限っては違う。
当初1億2700万ドルで組んだ予算は、最終的な建設費は7億8000万ユーロだったそうだ。OMG !


肝心の館内であるが、実は建築見学に夢中になったことやタイトなスケジュール(←自分で組んでいる)に追われ、アート作品の方はほぼ素通りだった。


そんな中、建築にも関わるエリアを少しだけ紹介。

オーディトリアムでは文化事業としてアーティストを招いてのコンサートなども行っている。ステージ背景の幕はエルズワース・ケリーによるSPECTRUM VIII。20世紀のアメリカを代表する画家の一人で、赤・黄・青など鮮やかな色と幾何学的なパネルを組み合わせて表現する作家だ。


こちらはオラファー・エリアソンによるINSIDE THE HORIZON。地下の半屋外の水盤沿い歩道には、幅の異なる黄色い三角柱が並んでいる。


もし私たちが自分達の地平線の内側を歩くことができたら、世界は洞窟のように閉ざされ、鏡のように反射し、光のように儚く見えるだろう。私にとって地平線とは、線ではなく次元なのだ。自分たち自身の地平線を疑うということは、直線性を疑い、新たな地平線を創造することを必要とするのだ。

フォンダシオン ルイ・ヴィトン 公式サイトより

私の和訳が拙いこともあるが、あまり意味が分からない…。


さて、ゲーリーらしさも堪能したし、建築でお腹いっぱいになってきたので、そろそろ外に出よう。アートの鑑賞はいつになるか分からない次の機会に!


この日はブローニュの森と紅葉の赤との配置が絵になっていた。
こうして改めて眺めてみると、風を受けて緑の自然の海原に出航する船のようにも見える。ということはこれはやはり帆船なのかな?




ゲーリーにしてはちょっと地味なオンタリオ美術館

ゲーリーにしてはちょっと地味なプリンストン大学ルイス科学図書館

ゲーリーらしさ溢れるMITステイタ・センター


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