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【建築】改修により再生したオンタリオ美術館(フランク・ゲーリー)

フランク・ゲーリーと言えば、ウネウネ・グニャグニャの建築家である。
ミーハーかもしれないが、個人的にはゲーリー建築巡礼をするほど大好きで、Walt Disney Concert Hallや、

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Louis Vuitton Foundationも見に行った。

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しかしそれらに比べると、今回のオンタリオ美術館の造形は抑えめで、”ゲーリーらしさ”を求める人にはやや物足りないかもしれない。しかしそれは間違いで、この美術館こそゲーリーの本質が表現された素晴らしい建築なのだ。

オンタリオ美術館(アートギャラリー・オブ・オンタリオ:Art Gallery of Ontario、以下AGO)は、カナディアン・アートからヨーロッパ美術、現代アートまで幅広く80,000点以上の作品をコレクションするカナダ有数の美術館である。
建物は1900年の創立以降何度も改修・増築を重ねてきたが、近年は2004年から2008年にかけて「Transformation AGO」と呼ばれるフランク・ゲーリーによるリニューアルが行われた。ポイントは、これまでの増改築で少々”寄せ集め感”のあった建物をいかに統合するかということである。


トロント中心部からDundas Streetを西に進むと、一目で「ゲーリーだ!」と分かる建物が見えてくる。

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ガラスファサードの内部はギャラリーとなっており、この美術館の見所の一つにもなっているのだが、それは後ほど。

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横から見るとよく分かるが、このギャラリー部分は既存の建物に突き出すように付け足されたものだ。

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メインエントランスはこのDundas Streetに面している。

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AGOで建築として最も紹介される場所は、おそらく1926年にできたWalker Courtだろう。ここは休憩スペースであると同時に、各展示棟をつなぐメインロビーとしての機能もある。

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そこにゲーリーが新たに設置したのがこの階段だ!
ゲーリー建築の中でも、ここまで曲がりくねった階段はあまり見たことがない。ガラスの屋根を突き抜けて、2階から5階までを結んでいる。
これによりこの空間が平面的な横のつながりだけでなく、縦にもつながる来場者動線のメインコアにもなったのだ。(もちろん他にも階段やエレベータはある)

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階段内部はこんな感じであるが、狭いので写真には写りきらない...。

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そしてもう一つの見所が、冒頭のガラスファサードの内部であるギャラリーだ。長さは200mある。このギャラリーは、寄付団体がイタリア系カナダ人の家族会であることから「Galleria Italia」と呼ばれている。

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ギャラリーといっても、展示室よりカフェや休憩スペースとしての機能がメインである。くつろいでいる人も多い。

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らせん階段やこのギャラリーには、造形の他にもゲーリーらしさが表現されている。それは内装に「木」がふんだんに使われていることだ。ゲーリーは他の建築でも、心地良さを求めて内装に木を使う事例が少なくない。

展示室では床周りや展示台に木が使われている。

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これはゲーリーデザインによる木製ベンチ。

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ゲーリーらしさは他にもある。
同じく”心地良さ”を求めて、Walker CourtやGalleria Italiaはもちろん、他のエリアでも出来るだけ自然光を取り入れていることだ。
展示室でも一部天窓を設けている部屋もある。

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Dundas Streetとは反対にあるGrange Park側には、新たに5階建ての新館が増築された。こちらは長方形のシンプルなフォルムであるが、仕上げは目の覚めるようなブルーのチタンパネルとガラスだ。

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ここにも階段が!

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内部は展示室はもちろん、エレベーター前の小さなスペースまで木で仕上げられ、やはり自然光が取り入れられている。

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元はおそらく建物同士に挟まれていたであろう屋外スペースも、明るいギャラリーへと再生されている。

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ゲーリーはトロント出身である。しかもこれがカナダにおける初の作品ともなった。本来であれば新築のプロジェクトで、ウネウネ・グニャグニャの”ゲーリーらしさ”を存分に表現したかったのかもしれない。あるいは市民を含めた廻りの人々の方が、それを望んだかもしれない。
しかし個人的にはゲーリーは、「建築において重要なのはデザインや意匠ではなく、人がいかに快適にその空間で過ごすことが出来るか?」ということを追求しているように思える。ウネウネ・グニャグニャはその結果なのだ。

AGOの改修もその一つであり、コストの見地からも出来るだけ既存の建物を活用しながら、まずは来場者が空間的にも動線的にも快適に鑑賞できることを優先している。デザインはそれを活かすためのものだ。結果的にそれが(ゲーリーにしては)地味であったとしても...。

他のゲーリー建築にも言えることだが、このことはデザイン以上に、もっと評価されるべきだ思う。



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