【建築】図書館の"本のあり方"を問うブック・マウンテン(MVRDV)
市民にとって身近な公共施設である図書館。最近は著名な建築家が設計を手がけることも多く、デザイン面でも注目される傾向にある。
こうした図書館には一つの特徴がある。それは本の収納・閲覧はもちろん、居心地の良さにも配慮していることだ。落ち着きのあるインテリア、くつろげる閲覧席、快適な光環境、etc。
特に光環境、つまり自然光の取り入れ方は重要だ。
一般的に図書館と自然光との相性は良くない。直射日光が入り過ぎると、紫外線によって本が日焼けてしまう。閲覧者にとっても眩しすぎる。かといって自然光が無いと、薄暗くて、単なる本の収納施設のように感じてしまう。
そう、図書館を設計するということは、自然光をどうデザインするか?ということでもあるのだ。
ダッチデザインで知られるオランダ。建築においては、ユニークでカラフルな現代建築がイメージされる。オランダの都市は第二次世界大戦で市街地が破壊されたこともあり、そこからの復興や近年の再開発といった建設需要により、世界的にも活躍する数多くの建築家を輩出している。
建築家集団MVRDVもその一つ。今やスターアーキテクトである彼らの建築は日本を含めた世界中にある。オランダ第2の都市ロッテルダムも例外ではなく、ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館やマルクトハルは人気の観光スポットにもなっている。
そのロッテルダム郊外のスパイケニッセには、MVRDVによる公立図書館があるという。彼らの建築はダッチデザインの中でも一風変わった建物が多いが、果たしてMVRDVは今回どんな図書館をつくったのだろう?
スパイケニッセ駅から公園を通り抜けて歩くこと10分。
住宅街の中にピラミッドのような建物が姿を現した。
スパイケニッセのランドマークともなる図書館。
通称はBook Moutainだが、この地域はかつて農業が盛んであったこともあり、シンボリックな形状はその伝統的な納屋をモチーフとしている。また図書館が計画された当時、非識字率が11%とオランダ国内でもやや高めのこの町において、町民が気軽に立ち寄れる図書館にしたいという狙いもある。
歩道や低層部はレンガ仕上げ。馴染みのある材料を使うことによって、町と図書館とを視覚的にスムーズに繋ぐ。
館内はその名の通り"本の山"だ。本棚のテラスが、"頂上"に向かってセットバックしながら配置されている。
特徴的なガラス屋根は木製トラスとスチールブレースが支えている。建築家は当初屋根のない完全にオープンな図書館を構想していたらしいが、さすがにそれは実現出来なかったようだ。
テラスには充分過ぎるほどの自然光が降り注いでいた。今回の目的は読書ではなく建築探訪なので、まずは頂上に向かってみよう。
図書館は本来散歩するような施設ではないが、ここは歩くだけでも楽しい。
照明器具はシンプルながらもスタイリッシュなデザイン。
赤が映える消火栓もカッコいい。普段は消火設備なんて撮らないよ。
かなり上まで登ってきた。
見上げれば美しい青空。
ここが頂上だろうか?
このフロアは本は少なめで、どちらかというと閲覧スペースがメイン。観葉植物も多く、屋外にいるような感覚になる。ミニキッチンもあるので、ちょっとしたパーティーも出来るかもしれない。
上座のような一段高い席には本のオブジェ。もちろん誰でも座れる。
頂上かと思ったが、さらに上の階があった。といっても本はなく、テーブルと椅子があるだけの小さなスペース。
しかし眺めは悪くない。窓越しにこの町の広場と教会が見えた。
下の階にはカフェも併設されている。テラスには大きな植物が置かれ、自然光を浴びて美味しいコーヒーを飲みながら本を読むことができる。幸せ!
その他にPC閲覧コーナーや、
コンセント付きの自習コーナーなど、今時の図書館が必要とする機能は一通り備えているが、館内全体で見ると閲覧席は少なめかもしれない。
壁に目を向ければ、コレまたシンプルな本棚がレンガの壁と調和していた。
これら本棚やカウンターは、植木鉢をリサイクルした素材から作られている。経済性や耐火性能に優れ、環境にも配慮したサスティナブルな棚なのだ。
サスティナブルといえば、空調設備も自然に優しい。
夏は地下に蓄熱した冷気+窓の開閉による自然換気方式を採用し、
冬は地下に蓄熱した暖気による床暖房を活用して、エネルギー効率の良い快適な環境を維持している。
ちなみにピラミッドのコア部分には階段やエレベータ(ドアにレンガ模様のデザインがされていて見にくい…)、
講堂や会議室、読書コーナーといった部屋がある。
さて、今回の記事はこれからが本題。
この図書館、日本で建設されたら酷評の嵐だろう。
まずこの本棚だが、高いところには手が届かない。近くに梯子も見当たらない。
図書館ではこの本棚を"Hidden collection on display"としている。あえて訳せば"閉架書庫の展示"だろうか? 矛盾しているが。いずれにしろ、もし読みたい本がある場合、スタッフに声を掛ければ取ってくれる。
しかし最大の問題は、本が日焼けしてしまうことだ。これまでの写真でもお気付きになったろうが、特に本棚上部の本は見事なまでに紫外線焼けして、背表紙が青くなっていた。
ガラス屋根には日除けのシェードもあるが、これは本の日焼けを防ぐためではなく、前述のように快適な空調環境をつくるためのものだ。
この問題は建物の設計段階から分かっていた。この図書館では"本は消耗品"と考え、貸し出しによる摩耗や日焼けを考慮し、本の寿命を4年程度と想定している。従ってそもそも高価な本、あるいは貴重な本は収納していない。思い切った考え方だが、小さな町の図書館だからこそ成り立つのかもしれない。
市民はどう思っているのだろう? 直接聞いていないが、ネットには日焼けに言及する否定的な意見も見られた。しかし少数派だ。実際この建築、オランダの様々な建築賞を受賞しており、少なくとも建築としては評価されている。
市民が気軽に本を読むことができる図書館
カフェでゆったり過ごす図書館
イベントで市民が集まる場としての図書館
建築好きが訪れる図書館
こんな図書館があっても良いのではないだろうか?
少なくとも私はこの図書館、嫌いではない。
隣には同時期に建てられたMVRDVによる住宅街もある。
こちらの住み心地はどうなんだろうね?
図書館探訪記
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?