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【建築】とても居心地が良いアアルト大学図書館(アルヴァ・アアルト)

フランク・ロイド・ライト
ル・コルビュジエ
ミース・ファン・デル・ローエ

近代建築において巨匠と呼ばれる3人の建築家だ。彼らが設計した建物は建築の世界で革命を起こしてきた。だがその素晴らしさは、一般の人に必ずしも理解しやすいとは限らない。

フランク・ロイド・ライトは比較的分かりやすいと思うが、

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コルビュジエやミースは微妙だ。彼らの建築は画期的だったが、何が「画期的」であったのかは若干の解説を必要とする。

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私も後に彼らの建築の"実物"を見てから、ようやくその内容を少し理解し、「良い建築だ!」と思えるようになったものである。




アルヴァ・アアルトもその一人。
アアルトといえば、建築やデザインの世界では知らぬ者のいないフィンランドの偉大な建築家でありデザイナーである。もちろん私も知っている。特に建築に関心を持つようになってからは、写真で彼の建築や家具を見てきた。
しかし建築やデザインを学んでいない私は、写真ではその良さがイマイチ理解できなかった。せいぜい「北欧デザインってなんかいいよね」である。
ヘルシンキで彼の建築の”実物”を見るまでは...。



ヘルシンキを訪れたのは、エストニアに田根剛さん設計の博物館を見に行ったからだった。エストニアの首都タリンとヘルシンキはフェリーで2時間である。観光的にはこの2都市はセットであることが多い。
したがって「どうしてもアアルト建築を見たい」というよりは、「近いから、ついでに寄ってみようか」というやや消極的な理由であった。

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ヘルシンキに着くと、早速アアルト大学にむかった。
アアルト大学は、ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ美術大学が2010年に合併してできた大学である。アアルトはヘルシンキ工科大学の出身であり、建築家となってからは、メインのオタニエミ・キャンパスの本館、図書館、学生寮、売店などの設計をしている。
大学名はもちろんアアルトにちなんだものだ。


オタニエミ・キャンパスの地下鉄駅から地上に出ると、写真で見覚えのある建築が見えてきた。大学の本館である。

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こんなことを言うと建築関係者には怒られそうであるが、正直な感想は「まあ、なかなか良いんじゃないの?」というアッサリしたものであった。つまり私はこの有名な講義室を見ても、ほとんどアアルトを理解できなかったのである。


続いて今度は隣の図書館に向かった。まずは建物をグルっと周ってみる。

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窓がない一面もある。(その理由は後で分かる)

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うーむ...。
レンガの仕上げが素敵だとは思うものの、やはり特別な感銘は受けなかった。とは言え、これだけでアアルトの評価はできない。

とりあえずロビーに入る。

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そして、微妙にずらして配置された階段を上がっていくと、

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!!!!!!
アアルトに対する印象が一瞬で全て変わった!
「アアルトってなんかいいよね」というザックリしたイメージを、実際に体験することができたのだ!

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それは一言でいえば、柔らかい光で満たされた空間であった。

現在では、快適性を考慮して外光をふんだんに取り入れた図書館は珍しくないが、かつては本の紫外線焼けを避けるため、窓の少ない建物が主流であった。
ここも建設されたのは1970年なので”かつて”の部類に入ると思うが、学生が出来るだけ気持ちよく過ごせる(勉強できる)ように光を取り入れている。
しかもその光の取り入れ方が絶妙なのだ!

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例えばカウンターでは、上に大きなハイサイドライト(天窓)を設けている。その光がさらに曲線の天井に反射して、間接的な光も落とし込んでいる。

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こちらのオープンエリアには大きな窓から光が入り、その光が室内の奥まで届くよう本棚の高さは抑えられている。さらに丸い天窓がダメ押しで光を落とし込む。
この椅子に座って、ずっと本を読んでいたいほど居心地が良い!

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書架まで美しく見えてくる。

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照明の付け方もカッコいい!

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このガラスの向こうはパーティションで区切られた閲覧室。

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窓はないが、ハイサイドライトと四角い天窓から光が入る。窓がないのは、この面の外側は道路なので、その騒音を抑えるためらしい。
こんな静かで落ち着く環境なら、私も(多分)勉強するであろう。


照明は天窓に組み込まれている。

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この本棚は丸ごと「GA JAPAN」(日本の建築誌)だった。

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ちなみにここまでの写真で見られる丸いタイルが特徴のこの柱。アアルトが好んで用いたデザインであり、他の建築でも見られる。

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閲覧室以外のちょっとしたスペースも同様に心地良い。

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外を眺めながら、ボーっとのんびりしたくなる。

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全体的にみると、この図書館では内装を白色を基調としながらも、テーブル、椅子、本棚に使われている木の色をアクセントとして、とても快適な環境がつくられている。家具や照明もアアルトの設計なので、デザイン面でも統一感がある。

しかし決定的なのは、何度も書いているように光の取り入れ方だ。
そう、アアルトは窓や天窓、照明を使って巧みに光をデザインしているのだ!

それが分かって改めて本館を見学すると、やっぱりすごい!

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さすが巨匠だ!


と、ここまで書いておいてなんだが、このnoteを書くに当たって色々調べ直してみると、どうやらこの図書館は2017年に全面改修しているようだ。
私が訪れたのは2018年。したがって完全なアアルトのオリジナルではなかったことになる。しかし今回紹介したこのエリアでは忠実にアアルトのデザインを活かしており、改修というより修復に近いものであったらしい。一安心である。




この建築の前に訪れた田根剛さんらが設計した博物館

図書館探訪記


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