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【建築】お役御免の倉庫から再生したエルプフィルハーモニー・ハンブルク(ヘルツォーク&ド・ムーロン)

Hamburg ハンブルク。
ドイツもハンバーグも好きだが、ハンブルクにはあまり興味がない。しかしその街にはどうしても見たい建築があった。ヘルツォーク&ド・ムーロン(H&deM)設計によるエルプフィルハーモニー・ハンブルクである。
そこで2018年の旅行中、ヘルシンキからコペンハーゲンへの移動の際、この建築を見るために1泊2日という慌ただしい日程でハンブルクに立ち寄ることにした。(ついでにザハ・ハディッドのファエノ科学センターも見に行った)


ハンブルクは海には面していないが、ヨーロッパ第3の港湾都市である。北海からエルベ川を100km遡った場所にあるが、川幅も広く水深も深いので、大型クルーザーやコンテナ船も航行することが出来る。

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そうした地理的条件の中、19世紀後半はドイツの貿易も拡大し、港には大きな倉庫街が形成された。現在もハンブルクはドイツ最大の貿易港であるが、荷物の取り扱いはコンテナが主流となり、倉庫の需要は減少していった。

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使われなくなった倉庫はコンバージョンして住居やオフィスとして利用されたり、再開発の対象となって現代的なビルや集合住宅に建て替えられた。

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エルプフィルハーモニー・ハンブルク(Elphi)もそうした再開発地区にある。

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Elphi
は、2,100席の大ホールと550席の中ホールを備えたクラシックを中心としたコンサートホールである。かつての倉庫街であり、エルベ川に突き出た三角形の敷地の先端に立っている。


ところで建築探訪にはアプローチも重要な要素であることは以前も書いた。それはこの建築にも当てはまる。

では今回のアプローチは?
ファーストインプレッションの感動指数を高めたいのであれば、歩きではなく、船で行くべきだ!
という訳で、多くの定期船や観光船が発着するSt. Pauli桟橋までやってきた。

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ここから水上バスに乗る。

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出航して数分。見えてくるのがこの光景!

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船でハンブルクを訪れる人は少ないだろうが、もしその場合、このElphiが最初に旅人や運輸業者を出迎えることになる。まさにハンブルクの顔であり、ランドマークにもなっている。

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使われなくなった倉庫の外壁をそのままに、その上にホールを増築している。

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屋根の造形は、波の荒い海面か、船の帆か、あるいはテントか?

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旧倉庫はレンガ仕上げ、増築された上部はガラス仕上げとなっている。

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元は倉庫なので構造は頑丈。しかし工事中の写真を見ると、実際には外壁以外は解体して、構造含めてやり直している。ほとんど新築だ。むしろ外壁だけを残す方が、工事的には手間だったに違いない。

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H&deMは、"建築の表層"にこだわりを持つ建築家として知られている。最近は必ずしもそうではないが、この建築ではそれが発揮されている。
今回の特徴はガラスのファサードだが、そのガラスパネルが凝っている。いや、凝り過ぎだ。施工者泣かせ、メーカー泣かせである。

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ガラスパネルはもちろん特注。

こちらは曲面と平面で構成される2枚1組のユニットパネル。よく見ると、断面に楕円形の小さな換気用の窓がある。

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バルコニーには、U字型に歪めたガラスを使っている。このガラスを製作するのは大変だったろう...。

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見る角度によって様々な表情を見せるのが面白い。

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傍らには、今は使われていない荷揚げのためのクレーンが残されていた。

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Elphiにはコンサートホールの他にウェスティン・ホテルも入っているが、いずれもその入口は、PLAZAと呼ばれる地上37mのテラスにある。

このテラスに上がるためのエスカレータがまたすごい。
旧倉庫を貫く長いエスカレータは、その先端で微妙なカーブを描き、降り口が見えないようになっている。これによって、その先にあるものを期待させる効果があるのだ。(旧倉庫部分は駐車場やリハーサル室、ホテルのバックヤードとなっているので、一般客が立ち入ることはない)

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スタッコに丸いガラスを埋め込んだ仕上げが、"表層の建築家"H&deMらしい。

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"その先"のテラスは展望台になっており、コンサート目的ではないであろう多くの観光客が訪れていた。私もその一人。

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テラスから見る再開発地区。その向こうは旧市街だが、高い建物が少なく、教会の尖塔が突き出ている。美しい景観だ!

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Elphi
のシルエットと川面に輝く対岸の窓の反射。

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テラスの屋外と屋内を仕切るのガラスパーティションも凝っている!

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大ホールへのエントランス。

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この階段も先が見えないので、その後の空間を期待させる。

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こちらは中ホールへの階段。

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以上!

「え? コンサートホールは?」

実は建築ツアーに参加してホールも見学したのだが、写真はNGだった。ツアー料15ユーロもしたのに...。
ちなみに案内してくれたガイドさんはH&deMよりも、永田音響設計・豊田氏を絶賛していた。日本人としては何となく嬉しい。


夕方にも再訪してみた。昼とは雰囲気も異なる。

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この日は人も少なく、異国での旅情気分に浸ることが出来た。

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夕日が美しい。

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ライトアップの写真はボケてしまった。やはり揺れる船からの撮影は難しい。

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最近は古い建物を活かしながらの建築が流行っている。その一つに、低層部に元のビルの外観だけを残す「腰巻ビル」という手法がある。東京駅前にもたくさん立っているアレだ。中には少々残念なビルもある。その是非はともかく、Elphiも腰巻ビルに分類されるだろう。

東京駅周辺の腰巻ビルが新旧のデザインの対比をポイントとしているが、Elphiのそれはレンガとガラスという素材の違いを対比させている。そのためか、まるで全て新築としてデザインされたようにも見えるから不思議だ。

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参考情報だが、Elphiはハンブルク市の施設である。つまり税金を使って建てられた。その費用は予算から何倍にも膨らみ、最終的には8.66億ユーロにもなってしまったそうだ。工期も延期を繰り返し、予定より遅れること6年、2016年になってようやく完成した。ドイツってキッチリしているようだけど、実は結構ずさんなんだよね。(ベルリン・ブランデンブルク国際空港などさらにドイヒー)
もっとも今やハンブルクでも屈指の人気スポットとなっているので、それだけの投資効果はあったのかもしれない。


締めは街の間から見えるElphi。このチラ見せ具合が良い!

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ついでに見に行ったファエノ科学センター(ザハ・ハディッド)

建築のアプローチについても力説したアリアンツ・アレーナ



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