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お客の要望に応え、甘みの強い赤ブドウ「紅義」、クリ「黒ちゃん」を育成、ナシ、柿、イチジク等とともに直売

皆さん、こんにちは~!!
 今年初めてのnoteの投稿になりますが、今年は辰年、私は年男で張り切っています。昨年3月からnoteへの投稿を始めて2年目となる本年も、何とぞよろしくお願いいたします。
 
 今回紹介する育種家は、大都会横浜の隣の地域で、ブドウ、ナシ、栗、柿、イチジク等を生産し、直売している藤沢市の青木義久さんです。青木さんは89歳になられますが、育種体験記事を書かせてほしいとの私の頼みを心良く引き受けてくださり、跡継ぎとなられた孫の拓磨さんとともに、記事の作成に協力してくれました。元気に協力してくれたことはうれしい限りです。
 
 特に身内であるお孫さんがサラリーマンを辞め、跡継ぎとして果樹生産を始められたことは青木さんにとって何よりの喜びになっていると思いました。
 
 九州大分で柑橘の育種をされている農家も言っていましたが、「果樹は交配して出現したものから種を採って、何か良い品種が出ないかと思っても、実がなるまでに8年というような長い年月がかかるので、それまで待たないと特性を見ることができないし、それでも良い品種ができるとは限らない。その間は、通常の果物を生産して販売した収入で生活を支えていくしかないので、子供などが親の仕事を継ぐなどということはほとんどない。草花等は、種を蒔くと1年や2年で咲くものもあるので、後継ぎがいる農家もいると聞くが、同じ花でも木に咲くものなどは大変だ」と聞いていたからです。
 
 孫の拓磨さんは、今は果樹生産で時間が取れないものの、将来は教えてもらった育種にも取り組まれると聞きました。この話を聞いて私もうれしくなりました。
 
 では、青木義久さんの体験を紹介します。最後までお読みいただけると幸いです。

 

話し手  青木 義久さん

 
❒野菜をやめ、果樹生産に切り替える
 湘南地域の東端で、江の島やマリンスポーツなどが盛んな片瀬・鵠沼・辻堂海岸のある神奈川県藤沢市には、東海道本線、小田急江ノ島線、江ノ電、横浜市営地下鉄等の駅があって、東京、横浜のベッドタウンとなっています。
 
 市の北東部で、横浜市と隣接するナシ、ブドウ、ミカン、クリ等の果樹生産をしている青木義久です。私は、1951年(昭和26年)に就農しました。
 
 父はナシと野菜を栽培し直売していましたが、私が就農した当時、お客様から他の果物も欲しいと言われたので、野菜を辞めて果樹生産に切り替えました。  

私の住む地域は、火山灰と腐食でできた黒ぼく土壌▾地帯のため、ブドウは秋伸び(遅伸び)しやすく、病気なども付きやすいので、ブドウに適しているとはいえませんでした。
 
普及所に相談すると「何とか一般の人に食べてもらえるものは作れるだろう。巨峰などは難しいので、デラウェア、ネオマスカット・キャンベルをつくったら良い」と言われました。でも、私は巨峰も含め九州から十数品種を導入し、土地への適合性を見た選抜を行うこととしました。
 
その中で、肥料の配合具合を工夫したり、病気に聞くと思われる新たにできた農薬を使ったりした結果、地域のぶどうの生産をナシに次いで増やすことができました。
 
 ❒巨峰の根元で大粒で甘みの強い赤い品種を発見、「紅義」の名で品種
  登録

 私は育種を行うつもりは特段なかったのですが、1984年(昭和59年)にブドウ園で栽培していた巨峰の木の下に自然発芽した苗の中に葉の切れ込みの深い個体を発見し、「変わっていておもしろい」と感じ、自然に育種の世界に足を踏み入れることになりました。その苗を園の隅に移植して育てたら、3年後に裂果▾の少ない赤い実が実りました。
 
 そしてそれは大きな果粒で甘味が強くてさっぱりとした食感で、期待ができる品種だと思いました。そんなことから、1992年(平成4年)に品種登録に出願して、1995年(平成7年)に「紅義」の名で登録することができました。私自身もいくつかの名前を考えましたが、「紅義」という名前は、藤沢市の職員が付けてくれました。実が赤いことから「紅」の字、私の名前から「義」を取ったものです。

赤ブドウ  紅義

 
  ❒黒色のぶどう「高秋」を育成
 その後、ブドウでは栽培品種の中から種子を採って播種し、そこから黒色で発色が良く、裂果の少ない個体を発見し、「高秋」の名で直売しています。他に交配も行いましたが、交配種子は発芽率の悪いものが多く、実がハクビジンなどの害獣に被害が発生し、苦労しました。

高秋


  ❒品種登録への対応は個人農家では困難
 果樹農家は枝変わりや偶発実生を発見する機会が多いと思いますが、品種登録を受けるには、対照品種との比較栽培調査に大きな面積が必要で手間と時間を要するので、一般生産の合間に育種を行っている個人農家が対応するのは、困難だと感じています。
 
  ❒栗では、炭疽病に強く肉質の良い「黒ちゃん」を育成
 現在ブドウは「巨峰」、「ピオーネ」、「紅義」、「藤稔」等を栽培しています。クリは早生品種が多く、ナシ、ブドウ等と熟期が重なるのを避け、9月下旬にできる病気に強い品種を作っています。クリも新品種として、「利平▾」より小ぶりなものの炭疽病に強く、肉質の良い「黒ちゃん(仮)」を育成しました。

黒ちゃん

 
  ❒生産した果樹は自宅の直売所・宅配で販売、顧客が広がる
 現在、生産した果樹のほぼ全ては我が家の直売所や宅配で販売しています。お蔭様で全国の顧客に配送され、またその先の顧客へと広がってきています。

青木さんの直売所
ナシ(種類はいろいろ)
イチジク

 ブドウは、種なし品種や皮ごと食べられる品種が好まれていることもあり、昔に開発(1992年から販売開始)した「紅義」は、現在人気が高い品種とはいえませんが、収穫適期である9月上旬にかけては、赤系ブドウとしてその貴重さと味を求め、遠方から買いに来てくれるファンの方もいます。私の作った果樹が地元の名産となり、客層が増えたことはうれしい限りです。
 
  ❒育種は、本来の一般生産を主体にしながら取り組むことが大切
 消費者に喜んでもらえる品種を作ろうと努める育種には魅力を感じますが、果樹は実がなるまでに長年を要し、農家などの個人育種家は完成した新品種が販売されないと、育成しかかった労力と経費を回収することができません。ですから、育種に専念して本業の生産を忘れないようにすることが大切です。
 
 89歳となりましたが、情熱を持って夢の実現に取り組む育種は、認知症の予防にもなるのではないでしょうか。おかげで、現在も元気で過ごすことができています。
 
  ❒サラリーマンを辞めて、果樹農家を継いでくれた孫

青木さんとナシを運ぶ拓磨さん(右)

 うれしいことに、明治大学農学部を卒業して食品会社のサラリーマンをしていた孫の拓磨が会社を辞めて、後継者として働くてくれるようになりました。藤沢市に住み、キウイ等の果樹の育種家として有名な工藤茂道さんが一昨年に亡くなられてしまいましたが、その前に拓磨にも育種を教えてくれたので、余裕ができれば育種にも取り組んでくれると期待しています。育種は思うようにいかないことが多いですが、孫はまだ35歳と若く、諦めずに続けて欲しいと思っています。
 
             用語(▾印)解説
黒ぼく土壌: 火山灰に由来している土で腐植物質が多く含まれ、保水性や排
   水性は高いが、酸性に傾きやすく、リン酸欠乏に陥りやすい。我が国
   は年間総水量が多いので、保肥力が弱く、養分含有量が乏しくなりや
   すいため、肥料の施用量等に注意が必要である。
裂果(ブドウ): ブドウが育つ途中や収穫中、運び途中などに割れてしまう
   現象。実が水分を吸収しすぎることが原因とされる。品種により、裂
   果のしやすいものとしにくいものがある。
利平(栗品種): 日本の代表的な栗の品種。岐阜県の土田健吉さんが、1940
   年に日本産の栗と天津甘栗に用いられる中国の栗を交配して育成。色
   が濃くて皮が固く、果肉は適当な粉質で食感が良く、甘味が強いのが
   特徴。
 
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