ヒロ

アレです。 ヒロです。 文章とか、写真とかいっちょやってみます。

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最近の記事

からたち野道(THE BOOM)

幸福の終わりは、時としてとても甘美に、綺麗なかたちをしてやってくる。 私は、ずっと祈り続けている空に山になくしたものたちに。 でもずっと届かない、足りない。 戻らない時間に対してあがき続けている。 じたばたと。 あの日、濁流が飲み込んで失われた3つの命。幸せな家族の風景。 父も母も兄も。あっという間に存在が消されしまう。 私は突然一人になった。10歳の時だった。 あまり関係が良くなかった父の実家に引き取られて暮らした日々。 これ以上辛い日が来ませんように、っ

    • 古代魚と雨。

      雨。 雨が降っている。 さわさわと窓を嘗めるように雨音は滑り続けて。 狂おしいくらい優しい音を立て続けている。 僕は深い夜の中に、ただひとり。 ぼんやりとベッドに腰掛けている。 カーテンを開けてみる。 可視できないほどの細い雨の糸が。 暗く遠い空の上から振り続ける。 さっき観終わった古い映画のDVDのタイトル画面が、薄くて頼りないテレビのモニターに張り付いていて、テーマ曲のクラシック調の曲を繰り返し流している。 まだ映画の余韻が頭の片隅に残っていて、頭の一

      • 【小説】魔法のキノコ

         なんかむししゃくしゃして。思いっきりブロックをぶっ叩いたらキノコが出た。    限りなくショッキングピンクに近い赤。カラフルなキノコを食べたら一瞬で世界が変わった。ああ、そうだそうだ。全部わかったよ。この世の中の何もかもが間違っているし、俺は全部ぶっ壊してやりたい。  血が暴走しているみたいに血管が脈打ってる、今ならなんでもできる、全部できる。すげえ、すげえ。圧倒的な全能感。俺はヒーローになったんだ。カラフルでスーパーなキノコを食べて。身体全体が熱くて爆発しそうだよ。どこま

        • 「恋愛小説」

           雨が激しく、降っていた。  アスファルトを強く叩く水滴が足元を濡らしていく。綾子は黒い喪服の裾を濡らしながら啓三の遺影もって歩いていた。娘の愛美が傍らから傘をさしかけて悄然とした様子の母親を心配げに見守りながら寄り添っている。  綾子はふと、空を見上げる。鈍色の空から、銀色の雨粒が矢のように光りながら地表に吸い込まれる。  急に立ち止まって空を仰ぐ綾子を周囲の人々が哀れみを湛えた視線で見ている。  啓三と綾子の結婚は、当時では珍しい恋愛結婚だった。   デパートのお菓子

        からたち野道(THE BOOM)

          中村文則『カード師』感想

          この物語の核。 運命と人間との対峙。 それは、古来からの決して叶うことのない人間たちの儚い夢。 無謀な挑戦でもありました。 僕が実家で子供の頃に読んでいた「マンガ日本の歴史」では、卑弥呼の時代に鹿の骨の割れ方で吉兆を占うというような描写がありました。 そのような古来から人間は、先にある未来を知りたいと強く願い、様々な方法で占おうとしていたのです。 人生は選択の連続だし、未来が見通せたらどれだけ良いだろうと思う瞬間がたくさんあります。 たくさんの運命の

          中村文則『カード師』感想

          手紙

           蹂躙された。詠子は帰宅しながら重い身体を引き摺りながらそう思った。確かに今日も職場は戦争のようで、忙しくドラマティックだった。傍観者だったら良かったのに・・、と心から思って苦笑する。詠子が働く総合病院の受付はギリギリの人員で回していて、例えば今日みたいに連休明けで急にスタッフが休んだ時(安田さんが子供の急な発熱で休んだ)なんかは、戦争のような忙しさになる。  ひっきりなしに、患者のデータを確認して事務処理していく。今日の患者数は500名を超えていたらしい。  さらに悪いこ

          ロンド

          ロ  ウソクが 揺 らめ  いて。           今夜、神 は 死 んだ。      精一  杯深呼 吸を して。 胸い  っぱ いに  砂塵を吸い  込もう。    夜は終わ ら  ない。            頭 の 隅に 靄 がか かっ て。 理 性も  自意  識も消  えていくよ。      視界が 歪 んで、 世界 が  霞 む。 涅槃 の彼    方  で  君に  会え る。  さ ぁ、 踊 ろ  う よ。 み  ん  な でロ ン        

          ロンド

          宵闇の旅

          うすらぼんやりとした暗闇の中、私は10億年の旅をする。温かい液体に満たされ、重低音がほぼ一定のリズムを刻んでいる。   雨粒が地面を打つ音。風が草木を揺らす音。心地よく低く響く・・・優しい声。私は全て知っている。 私は夜明け前の薄闇の中、逆さまに眠り続ける。覚醒しては、また眠る。宵闇の中、光が何重にも踊り手招きする。おいでおいでおいで。私は次第に焦がれる。 旅の終わりが近い。 私は強く何かを求めて小さな身体を震わせる。不安と恐怖、懐かしさと幸福感が綯い交ぜになった不思議

          宵闇の旅

          ~大河の流れに飲み込まれても、一粒の雨粒の物語は継承されていく~村上 春樹『猫を棄てる』

          エッセイ『職業としての小説家』でも感じましたが、随分と村上春樹自身の内面、考え方やパーソナルな部分について語っている内容だなと感じました。初期のエッセイなんかでは、もっと日常の気楽なよもやま話なんかを書いている印象が強かったので。 家族、特に父親との関わりには何か特殊な事情があるのではと思っていましたが、僕の知る限りではほとんど語られてきていませんでした。 そんな中、今作『猫を棄てる』のサブタイトルが「父親について語るとき」だったのでかなり興味をそそられました。 イラ

          ~大河の流れに飲み込まれても、一粒の雨粒の物語は継承されていく~村上 春樹『猫を棄てる』