からたち野道(THE BOOM)
幸福の終わりは、時としてとても甘美に、綺麗なかたちをしてやってくる。
私は、ずっと祈り続けている空に山になくしたものたちに。
でもずっと届かない、足りない。
戻らない時間に対してあがき続けている。
じたばたと。
あの日、濁流が飲み込んで失われた3つの命。幸せな家族の風景。
父も母も兄も。あっという間に存在が消されしまう。
私は突然一人になった。10歳の時だった。
あまり関係が良くなかった父の実家に引き取られて暮らした日々。
これ以上辛い日が来ませんように、って飛び石を踏んだ。
でも、たくさんたくさん辛いことが私の体を通り抜けていった。
父の実家に引き取られたその夜に、叔父が私の体に重なった。
もういっそ、迎えに来て欲しいと。
空を見上げる。
虫たちが、私を慰めるように鳴き続けている。
沢の音が優しく聞こえてくる。
私は唇を強く噛む。赤く血が滲み。鉄の味がする。
もういっそのこと。そう思う。
けれども、私はあなたに出会う。
病を得て、幽閉されるようにあの家に縛り付けられていたあなたに。
あなたは、とても優しかった。
蝶を愛で、花を愛でて、私を愛でてくれた。
あなたがその細い声で歌うと鳥も蝶も花も、その動きを止めて束の間に休んだ。
あなたは、ずっと家の中にいたからか色が白くて、頼りなく、声も細かった。
でも私は、あなたのまぶしそうに微笑むその顔がとても好きで、頼りなく響く声が好きで、澄んだ目が好きだった。
それは、恋だったのだと思う。そして、あなたもまた私の世界から去ってしまう。永遠に。
私は、強く生きていこうと思う、あなたの分まで。
13歳の春。
私に再び覆い重なろうとしたあなたの父を裂いて、私は生きた。
あの日、あなたとスグリを食べた時みたいに唇が真っ赤に染まった。
草笛小道。なずなの小唄。このまま、私はあなたのもとまで駆けてゆきたい。
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