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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第一章「小猿米焼く」 中編 13

 法隆寺は、東西に金堂と塔を配置する様式である。

 その東側に、二百十メートル四方の宮城がある。それが、斑鳩宮である。

 その斑鳩宮に、安倍内麻呂を始めとする重臣が参上したのは、先の件についての返答をするためであった。その返答とは、『先の会議は、大王の言葉を重臣に伝え、誰を次の大王に相応しいかを検討するためで、決して、豊浦臣ひとりで大王を決定しようとしたものではない』と言うものであった。

「毛人が、そう返答したのか?」

 境部摩理勢が、これを取り次いだ三国王と桜井和慈古に訊いた。彼は、蝦夷が斑鳩宮に赴くと聞いて、いち早く乗り込んできたのだった。

「いえ、大鳥殿です。豊浦殿は、体調が優れないということですので、参上なさってはおりません」

「なんじゃそれは。仮病じゃないのか?」

「さあ、そこまでは……」

 と、三国王は返事に窮した。

「それで、お歴々は? もう、お帰りになられたのか?」

 山背王は訊いた。

「いえ、まだ大広間の方に」

 和慈古は答えた。

「そうか」

 と言ったまま、山背王は押し黙ってしまった。

 彼は悩んでいた。蝦夷を焚き付けたのはいいが、この後、如何にすべきか?

 しばらく、沈黙が続いた。

 彼は、腕を組み、天上を見上げた。

 見慣れた天井で、良い考えは浮かんではこない。

「それにしても妙な話ですね。大王のお言葉を、なぜ豊浦は知っているのでしょう?」

 沈黙を破ったのは、山背王の傍に仕えていた舂米女王であった。彼女は、山背王の異母姉で、彼の妻でもあった。

「そう言えば、そうじゃの。大王の山背様への言葉は、山背様自らが話されたが、田村への言葉は誰から聞いたのじゃ、田村自身からか?」

 摩理勢は三国王を見た。

「さあ、そこまでは分かりかねますが……、聞いてみますか?」

「はっきりさせるのです。誰が、何と話したかを?」

 舂米女王は、静かに、しかし強い口調で言った。

「畏まりました」

 三国王と和慈古は、再び大広間へと向かった。

 部屋に残されたのは、山背王と舂米女王、摩理勢、そして、山背王の異母弟である白瀬仲王(はつせのなかのみこ)であった。

「あの阿呆! 本当に、田村を大王にしようと考えている訳じゃなかろうな」

 摩理勢は、蝦夷の悪口を言った。

「私より、田村皇子の方が相応しいからな」

 山背王は、ぽつりと呟いた。

 意識はしていなかった。ただ、口をついて出てしまった。

「何をおっしゃるのですか!」

 凛とした声が、部屋中に響き渡り、山背王の心を震わせた。

 彼を叱り付けたのは摩理勢ではなかった。

 妻の舂米女王である。

 これには、摩理勢も驚いていた。

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