【歴史・時代小説】『本能寺燃ゆ』第四章「偏愛の城」 18
毛利の水軍の将は、能島元吉(のじま・もとよし)、来島通総(くるしま・みちふさ)、児玉就英(こだま・なりひで)、粟屋元如(あわや・もとゆき)、乃美宗勝(のみ・むねかつ) ―― いわゆる村上水軍 ―― 瀬戸内の海賊衆だ。
難波津から出た船は、穏やかな瀬戸内を通って、壇之浦を経て半島や大陸へと至る。
古来より、沢山の船が行き交う海域である。
大陸や半島からきた珍しい舶来物や逆に大陸や半島へ送る高価な物品、大陸へ留学する僧や学生、本朝に下ってくる高僧など………………それらを狙って、海賊も多く出没した。
瀬戸内には、多くの島がある。
その島が、海賊たちの恰好の隠れ場所になっている。
海賊たちは、船を襲い、金品を奪い、人を掻っ攫う。
金品を奪われたくなければと、通行税を要求してくる連中もいる。
逆に、そんな海賊たちから守ってもらおうと、他の海賊を護衛に雇うこともある。
そんな非道な連中がたくさんいる海賊衆を取り纏めたのが、芸予を中心とした村上氏である。
村上氏の祖は、河内源氏の庶流である信濃村上氏とも、村上天皇の孫である源師房(みなもとのもろふさ)の村上源氏とも伝わるが、詳しいことは分からない。
武将が、自らの家を権威付けするために、先祖は源平藤橘であったと名乗るのは、よくあることだ。
実際、本性を変えることも多々ある。
当の信長は、もともと藤原氏を名乗っていたが、いまは平氏である。
村上氏も同じで、恐らくは漁を生業とする民から海賊へ、そして戦国武将へと昇華したことで、高貴な出自を名乗る必要があったのだろう。
瀬戸内の中央 ―― 中国の安芸と二名島(四国)の伊予との間に、まさに関所のように横たわる島々がある。
村上氏は、それぞれの島を拠点として、能島村上氏、因島村上氏、来島村上氏の三氏に分かれる。
同じ村上氏を名乗っているが、一門衆としての結束はなく、必要があれば相互に利用する、いわば緩い同盟関係 ―― それぞれが独立した一族である。
ゆえに、能島村上氏はこれといった主家をもたず、一方の来島村上氏は伊予の河野氏との関係が深く、因島村上氏は毛利氏に接近する。
契機になったのは、毛利氏が飛躍する戦となった厳島の戦いである。
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