大人の「4つの発達段階」と、段階に応じたサポート/チャレンジとは?~構築発達理論②~
今回は、前回に引き続いて「大人の成長」に関して私が留学で学んだ「構築発達理論」を紹介していきたいと思います!
もしお時間ある方は、こちらの授業記録と↓
前回のポストも、併せて御覧いただけますと幸いですm(_ _)m
1. 4つの「物の見方(Ways of Knowing)」とは?
前回の投稿の最後では、構築発達理論のポイントとして、
・自己を一歩引いて「客観視」すること
・そのために、「物の見方(Ways of Knowing)」に着目すること
をお伝えしました。
そこで、今回はこの「物の見方」として4つの発達段階について深堀りしていきます。
まず、最初に全体像を捉えていただくために以下の図をご覧ください!
(私が教わった教授の文献(Drago-Severson, 2009a, 2009b, 2012)を、日本語に翻訳したものです。)
大別すると、
①自己有用型(Instrumental Way of Knowing)
②環境順応型(Socializing Way of Knowing)
③自己主導型(Self-Authoring Way of Knowing)
④自己変革型(Self-Transforming Way of Knowing)
の4つがあり、この図の左側から右側にいくほど、発達段階が成熟していくと言われています。
それでは、各段階の特徴についてこれから詳しく紹介しますね。
2. 自己有用型(Instrumental Way of Knowing)
例えば、あなたが学校の先生で、同僚にこう声を掛けたとします。
「○○先生、来週から子供達に1人1台タブレット端末が配られるんだけど・・・・」
その際、このように答えるのがこの発達段階の人です。
「それって私に何の意味があるんですか?
何を守ればいいかだけ教えて下さい。」
このように、自己有用型の人にとっては、「自分のニーズ・関心を満たすこと」が最大の関心です。
このため、
・責務をどう「正しい」やり方で実行するかにこだわりがある。
・手順化された指示やサポートに心地良さを感じる。
・具体的な経験を抽象化して次に活かせない。
・他者の視点を取り入れる器はまだない。
ということになります。
一般的な言葉でいうと、「自己中心的」というのが近かったりするのかもしれませんね。
3. 環境順応型(Socializing Way of Knowing)
先ほどの質問。
「○○先生、来週から子供達に1人1台タブレット端末が配られるんだけど・・・・」
次の環境順応型の発達段階の人は、このように答えるでしょう。
「私はどうしたらいいですか?」
このように、この物の見方では、「他者の期待に応え、承認を得ること」が最大の関心事となります。
したがって、主な特徴としては、以下が挙げられます。
・(自己有用型の人とは異なり)他者の意見は取り入れられる。
・他方、大切な人に反対意見を言ったり、衝突したりすることは個人関係に影響を与えるという懸念を抱いている。
・つまり、人間関係で自我が規定されている。
私も、入社したての頃は、自分が上司や同僚からどう思われているかがとても気になっていました。
まだまだ自分の軸といったものはなく、他人に流されやすい存在。それが環境順応型とも言えるかもしれません。
特に、意見の相違と、人間関係を切り離して考えることが難しく、他者から自分の意見に反論された時に、「自分という人間を否定された」と捉えてしまう傾向にあります。
(私もそう思うこと、よくあります。。。)
しかし、他者の意見を取り入れたり、抽象化して具体的な経験を次に生かすことは出来るので、自己有用型よりは成熟した発達段階と考えられています。
4. 自己主導型(Self-Authoring Way of Knowing)
同じ、
「○○先生、来週から子供達に1人1台タブレット端末が配られるんだけど・・・・」
という質問に、自己主導型の人はこのように答えます。
「勉強がつまらないと考えてる子供達の興味関心を引き出すキッカケになりますね。」
これは、自己有用型や、環境順応型と比べていかがでしょうか?
自己主導型の発達段階では、「自分自身の価値観(軸)に正直にいること」が最大の関心事です。
したがって、
・(環境順応型とは異なり、)「自分の軸」を持ち、異なる視点を振り返ることや、人間関係と意見の相違を切り離して考えることが出来る。
・他方、自分自身(の価値観)を批判することはまだ出来ていない。
ということになります。
私が入社時に憧れていた先輩もこういう方でした。
常に自分の意見を持っていて、それに照らして課題を解決していくことが出来る。
「自分の軸を持とう」と言われたりしますが、これが自己主導型のイメージに近そうですね。
ただ、この発達段階で終わりではないのか?
更にその先にある、自己変革型とはどういうものなんだろう?
というのが、留学をしてこの理論に出会った私の一番の驚きでした。
5. 自己変革型(Self-Transforming Way of Knowing)
毎度おなじみのこの質問。
「○○先生、来週から子供達に1人1台タブレット端末が配られるんだけど・・・・」
自己変革型の人は、どのように答えるのでしょう?
「これまで全然使ってなかったんですよね。でも、一斉授業では子供達に必要な力が身に着いていないので、授業デザインもこれを機に変えていきたいです。」
こんな風に答えるのが、自己変革型の人だと考えられます。
この発達段階の人にとっては、「アイデンティティを振り返り、他者の意見や自己変革にオープンでいること」が関心事となります。
つまり、
・(自己主導型の人とは異なり、)自分自身の価値観や自我も客観視し、批判して成長していくことが出来る。
・自分の軸に固執したり、他者を変えるのではなく、他者によって変えられることを望んでいる。
のが、自己変革型と言えるでしょう。
若干分かりづらいので、自己変革型と自己主導型の違いを図示されている下記の文献(Drago-Severson, 2009b)を紹介します。
このように、
・自己主導型の人は、自分と他者の物の見方の異なる部分だけが見えているのに対して、
・自己変革型の人には、他者の中にも自分と同じ物の見方(☆)や、自分の中にも他者と同じ物の見方(〇◇▢)が見えている
という違いがあります。
相手と自分の中に共通項を見出したり、相手の物の見方を自分に吸収して自己変革していくことが出来るのが、この最も成熟した発達段階の特徴とも言えるかもしれませんね。
6. 4つの「物の見方」の分布は?
次に気になるのは、この4つの発達段階の人は実際に世の中にどのくらいの割合でいるんだろう、ということですよね。
こちらも、以下の文献(Kegan & Lahey, 2016ほか)で、海外で調査を行ったものがあるようでシェアします。
一概に「この人は自己有用型」と区切れるものではありませんし、同じ人でも状況によって発揮している発達段階が違うことも有り得ると思うので、数値だけで語れるものではありませんが、以下のようなことが言えそうです。
・自己有用型の人は少なく、環境順応型~自己主導型の人が大部分を占める。
・最も成熟している自己変革型の人は1%もいない。
確かに、自己を客観視し、他人の意見も昇華してアップデートし続けている人って、そうはいないですよね。
他方で、顕著な業績を挙げているリーダー達は、この自己変革型の人が多い傾向にある、ということも言われているようです。
7. 成長には、「物の見方」に応じたサポートとチャレンジが重要
ここまで4つの「物の見方」について紹介してきましたが、次に気になるのは、「では、どうしたらより成熟した発達段階へと成長することが出来るのか?」という点ですよね。
これについても、Drago-Severson (2009b)でまとめているものがあるので、図示してみました。
簡単に言いますと、
・その人が心地よく感じられるための「サポート」と、
・その人を、少し居心地は悪いのですが成長するために一歩踏み出してもらうための「チャレンジ」との、
両方が適度なバランスで必要。というのが構築発達理論の考え方なんです。
では、「サポート」と「チャレンジ」のそれぞれについて、発達段階ごとに少し深堀りしていきたいと思います。
8. サポートとは ~その人にとって「居心地の良い場所」を創る~
サポートとは、発達段階に応じて、その人が居心地良く感じられるような場所を創ることです。
いわば安全基地のようなもので、ここが整っていないと、「成長しなさい!」といくら言っても機能しないのは、皆さんイメージいただけるかなと思います。
具体的に、発達段階ごとにどんなサポートが考えられるか、見ていきましょう。
(1)自分にとって何が正解かにこだわる「自己有用型」の人
→・その作業に何の意味があるかや、その人に作業を通して何を期待しているかを明確に説明する。
・遂行すべき手順を、1つ1つスモールステップで示す。
・もし、達成する上で必要な知識等があれば、それも対話を通して提供する。
(2)自分が他者からどう思われているかが気になる「環境順応型」の人
→・その人を自分や組織が評価していることを明確に伝える。
・大人数の前で意見を表明するのは難しいので、まず少人数で考えを共有できる機会を設定する。
・意見の相違と、人間の好き嫌いは全くの別問題であることを伝え、確保する。
(3)自分の軸に正直かに価値を見出す「自己主導型」の人
→・自分自身の軸に照らした目標を探求してもらう機会を提供する。
・軸に照らして提案を批評することや、メンバーにフィードバックするための機会を提供する。
(4)他者の意見を取り入れて自分を更新していく「自己変革型」の人
→・多様な価値観の中で、他者を支え関係を深化させることで成長する機会を提供する。
・自身や他者、過程について学ぶことに重点を置き、協働や親密さを要する複雑なプロジェクトから学ぶことを促進する。
このように、2.~5.までで触れたそれぞれの物の見方の特徴に応じて、適切なサポートを提供することが重要だと言えます。
9. チャレンジとは ~「居心地の悪い」でも成長に必要な一歩を踏み出すキッカケ作り~
しかし、安全基地にとどまっているばかりでは成長に繋がらないことも、皆さんよく体験されていると思います。
そこで重要になってくるのが、「チャレンジ」、すなわち本人にとっては居心地の悪いものかもしれないけれど、成長には必要な、そんな一歩を踏み出すキッカケ作りなんです。
先ほどの4つの物の見方を踏まえると、それぞれどんなチャレンジが考えられるでしょうか。
(1)自分にとって何が正解かにこだわる「自己有用型」の人
→・対話を通じて、多様な立場を理解するような機会を提供する。
・抽象的な思考を必要とする課題を与え、考えてもらう。
・「正しい」解決策を超えた考えをするように促す。
(2)自分が他者からどう思われているかが気になる「環境順応型」の人
→・自分の価値観(軸)を考え出してもらうような機会を提供する。
・意見の衝突を人間関係への脅威なしに受け入れられるよう支援する。
・他者からの承認や判断への依存度を減らし、自分自身で判断できるように支援する。
(3)自分の軸に正直かに価値を見出す「自己主導型」の人
→・あえて自分の軸(価値観)を捨て、相反する選択肢を大事にしたり、他者の価値観にオープンになるよう促す。
・自身と異なる問題解決方法を受け入れるように支援する。
・自身の実践やビジョンを一歩引いて、批判するよう支援する。
(4)他者の意見を取り入れて自分を更新していく「自己変革型」の人
→・目的意識が不明確な時でも、コミットメントを維持するよう支援する。
・過程を乗っ取らずに、結論に至るまでの道のりや発達段階の個人差を尊重できるように促す。
この「サポート」と「チャレンジ」が必要な局面は、個人によって異なります。
したがって、的確なアセスメントをし、どのタイミングで「サポート」あるいは「チャレンジ」の手札を出すかが、致命的に重要だと言えます。
…と、ここまで詳しく解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
「とても良く分かった!」という部分と、
「うーん、理論としては分かったんだけど…」
「どう実践していけるの?」といった部分と、両方あるのではないかなと思います。
そのため、次回以降では、
・ご自身の「変化への免疫」に向き合うためのワークを紹介したり、
・過去の大人の支え方を振り返り、更新していくためのワークを一緒に取り組んだり、
していきたいと思います。
是非、引き続きフォロー、御覧いただけますと幸いです!
10. 参考文献
・Drago-Severson, E. (2009a). How do "know"? Yes! Magzine, p.47.
・Drago-Severson, E. (2009b). Leading adult learning: Supporting adult development in our schools. Corwin Press.
・Drago-Severson, E. (2012). Helping educators grow: Strategies and practices for leadership development. Harvard Education Press.
・Kegan, R., & Lahey, L. L. (2016). An everyone culture: Becoming a deliberately developmental organization. Harvard Business Review Press.
・Study A:Kegan, R. (1998). In over our heads: The mental demands of modern life. Harvard University Press.
・Study B:Torbert, W. R. (1987). Managing the corporate dream: Restructuring for long-term success. Homewood, IL: Dow Jones-Irwin.