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「モノづくり」と「仕組みづくり」~出版業界を通してふと考えてみたこと~

今回は“出版業界”について考えてみようと思う。1996年をピークに売上は年々減少し、市場縮小に全く歯止めがかかっていない。そんな「出版不況」が叫ばれて久しいが、要因の一つとして挙げられる“若者の活字離れ”というのは本当なのだろうか。私はそれは間違っていると思う。なぜならこれだけネットやSNSが発達し、誰もが手軽に情報収集や情報発信ができる今、格段に昔よりも「文字情報」に触れる機会は増えていると思うし、TwitterやInstagram、Facebookといったツールで若者は文章作成や表現が身近なものになっていると感じるからである。

ではなぜ出版不況が起きているのかというと、それは「構造不況」なのだと思う。たしかに出版不況の昨今でもヒット作は生まれているが、それはどれも読者であったり世の中にとって“本・雑誌としての”圧倒的な付加価値があるものである。例えば写真集ではフリーアナウンサーの田中みな実さんの『Sincerely yours…』や元・乃木坂46の白石麻衣さんの『パスポート』、卒業記念メモリアルマガジン、ビジネス書では前田裕二さんの『メモの魔力』である。これらはタレントパワーがあったり、本の内容が魅力的なのはもちろんであるが、コンテンツの装丁やデザイン、質感、そしてマスメディアやSNSの活用、PR戦略など、あらゆる細部までしっかりと努力と計算がなされている賜物なのだ。

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メモの魔力

私自身、雑誌編集者時代は目の前の特集企画や誌面をとにかく魅力的に仕上げるということに腐心しており、PR活動やSNSの活用といった面に神経を回し切れていなかったのは反省材料ではあるが、編集者というものは自分も含めてある種そんな“職人気質”な人間が多いと思う。それはとても大切な要素であるし、そうした熱量なくして良い本・雑誌は作り得ないと思っているが、最終的にターゲットとする読者やファンにしっかりと刺さる、届ける“仕組みづくり”をしなくては、どんなに良いモノを作ったところで、それは作り手の自己満足で終わってしまう。「良いコンテンツづくり」と同様に、「良い仕組みづくり」は大変重要なのである。記者・編集者を経て、PRパーソンとしてのキャリアを歩み始めた今、日々そのことを強く感じている。

写真集や書籍の例を挙げたので雑誌の例を挙げてみる。雑誌『Hanako』が好調なのは雑誌をいわば“インテリア”化したことではないだろうかと思う。特集内容は「カフェ特集」をはじめ、いわゆる情報誌でよく見かける内容であったりするが、表紙の写真やレイアウトがとにかくオシャレで、思わず部屋や本棚に飾っておきたくなる。情報誌として誌面の内容はもちろんのこと、暮らしの空間に置いておきたくなるような「雑誌のインテリア化」はジャンルを問わず、これからの雑誌がブランディングをしていく上で重要だと感じる。また、広告ページのトンマナが一般誌面と同等のため、読者に対して自然なアプローチができるのも効果的。さらに、読者同士が参加できるイベントの開催や、ホテルとのコラボメニュー開発、企業のマーケティング支援をするなど、雑誌の枠を超えて、ブランドをフルに活かしているのも他の雑誌にとっても参考になるのではないだろうか。

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テレビ番組情報やタレントのグラビア、インタビュー記事が読める「テレビ情報誌」はどうだろうか。私は学生時代からテレビや映画をはじめとしたエンタメが大好きなため熱心な読者であったのだが、こちらも年々売上を落としている。各社からさまざまなテレビ誌が発売されているが、雑誌ごとの差別化やブランディングはなかなか難しく、今やスマホでテレビ番組情報を簡単に収集できてしまう以上、紙の雑誌はグラビアページのタレントの衣装や表情、撮影テーマ、インタビュー内容で他誌からの優位性を生み出すしかないのではないかと思う。ジャニーズがWEBでの写真掲載を解禁していなかった時代は紙の雑誌として写真掲載できることが付加価値であったが、事務所がWEBでの写真掲載を解禁した今となっては、誌面ではWEBや他誌では見られないカットを使用したり、写真点数を増やすなどしてコンテンツの価値を高めるしかない。テレビ番組情報や番組表自体はネットやテレビのEPGで入手できてしまうので紙のコンテンツとしての価値は皆無に等しく、これからはタレントの独占インタビュー記事や写真コンテンツがキモになってくるのではないだろうか。紙の雑誌をコレクションするのが好きな筆者としては少々悲しい気持ちもあるが、これからの時代はWEBメディアの価値を早急に高めていく必要があり、紙媒体へ軸足を置いたビジネスモデルから脱却することが生き残りへの急務であると感じられる。

テレビ誌

写真集、書籍、雑誌と簡単にではあるが出版コンテンツまわりを考察してみた結果、「コンテンツづくり」と同様に“そのコンテンツをどう広めていくか”という「PR」や「マーケティング」戦略なしに出版業界の立て直しは難しいのだと改めて感じる。本や雑誌をつくるうえで、誌面内容に議論を重ねるのはもちろん重要ではあるが、“良いものを作れば売れる”というのは難しい時代であり、丹精込めて作ったコンテンツをどのように生活者に届け、価値を最大化させるかにも圧倒的な熱量を注がなければならない。そのためには紙、WEBそれぞれの強みを理解したうえで、イベント、SNS、広告、PRといった全方位的な仕組みづくりがキーとなってくるのだと考えている。

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