見出し画像

漫画編集者が選ぶ BLM運動時代に読みたいグラフィックノベル4選

5月25日にミネソタ州ミネアポリスで起きた、警察官による黒人男性殺害事件。人種差別や偏見がアメリカ社会に通底していることを、改めて浮き彫りにしました。この痛ましい出来事をきっかけに「ブラック・ライブズ・マター」運動(BLM運動)が米国内にとどまらず、世界中で巻き起こっています。

私は大学、大学院時代とアメリカ史ーー中でも黒人史に興味を持って勉強していました。就職以降は歴史やアメリカから離れていましたが、好きなこととはまた巡り合う運命 (?) なのか、現在アメリカで駐在生活を送っています。再びその国の面白さを感じる一方、目の前で起きている出来事にどう向き合うか考える日々です。

BLM運動について漫画編集者の視点から、アメリカを理解する一助になる漫画、いわゆるグラフィックノベルをご紹介してみたいと思います。今回は、多様な人種や移民を背景にした作品を選んでみました。

1. 公民権運動の歴史を描いた「March」3部作

1950年代から1960年代、アフリカ系アメリカ人への公民権付与と人種差別撤廃を求めて行われた公民権運動。その歴史をジョン・ルイス下院議員の実体験を元に描いた3部作が「March」(John Lewis, Andrew Ayden作、Nate Powell画 )です。

歴史的な出来事をルイス議員の目線から描くことで、その時代の人々の息遣いや場所の空気を生々しく感じさせてくれます。またコマ割りもわかりやすく、グラフィックノベルを読み慣れない方も手に取りやすい作品です。また翻訳版が岩波書店さんから発売されています。

2. ジョージ・タケイの半生を描く

「スタートレック」シリーズなどで知られる日系アメリカ人俳優、ジョージ・タケイ氏。第二次世界大戦時、敵国日本出身という理由でタケイ氏一家は強制収容所に送られます。その自伝的グラフィックノベルが「They Called Us Enemy」(George Takei, Justin Eisinger, Steven Scott著、Hermony Becker画)です。

強制収容所を出た後、日系人の地位向上を求める運動にも積極的に携わってきたタケイ氏。その人生は日系アメリカ人の歴史の大事な一部と言えるのではないでしょうか。作品を通じて「アメリカ人とは誰か」読む者に強く問いかけてきます。翻訳版が作品社さんから刊行予定です。

3.中国系アメリカ人アーティスト アイズナー賞受賞作

中国系アメリカ人のGene Luen Yang作「American Born Chinese」。1冊の中に3人の異なる主人公のお話が収録されていますが、ラストで全てがひとつにまとまる、構成が工夫されたグラフィックノベルです。

主人公の1人である中国系アメリカ人2世の少年は、白人が大多数を占める高校で白人の女の子に恋に落ちます。主人公の苦悩する姿を描きつつも、著者の描き口はポップで時にブラックユーモアたっぷり。そこがこの作品の魅力ではないでしょうか。翻訳版が花伝社さんから発売されています。

4. インド系アメリカ人 家族のものがたり

近年、増加傾向にあるインドからの移民。カルカッタで生まれ、南カリフォルニアで育ったアーティストNidhi Chananiの、はじめてのグラフィックノベルが「Pashmina」です。

インド系アメリカ人で移民2世のPriyankaは、自身のルーツを辿るためインドに足を運んでみたいと言います。しかし母親が移民の理由を多くを語らないのには秘密があって…。作品の中では、魔法のパシュミナ (インドの伝統的なストール) をPriyankaが身に付けると、夢をみているようにインドに飛ぶというファンタジー要素も。優しい読み心地のグラフィックノベルです。

Netflixで映画化が予定されているようで、こちらも楽しみです。

*自分の読書棚から取り上げましたので、偏りがあるであろうことをご承知いただければ幸いです。





この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?