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映画日誌『ムンバイ・ダイアリーズ』

ボリウッドのスーパースター、アーミル・カーン主演の映画『ムンバイ・ダイアリーズ』を見た。

アーミル・カーンといえば『きっと、うまくいく』。
この映画は見た人も多いと思う。
わたしも大好きな映画のひとつ。
主人公のランチョーの生き方は心に深く突き刺さった。
そのアーミル・カーンの設立した「アーミル・カーン・プロダクション」の制作。
監督はキラン・ラオ。(ちなみにこの方はアーミル・カーンの妻)

この映画の主要な登場人物は4人。
裕福層の令嬢。
気鋭の芸術家。
洗濯人の仕事をしてギリギリの日々を生きる貧困層の若者。
そして、ビデオ映像の中にだけ登場する女性。

映画の中では芸術家とビデオの中の女性、裕福層の令嬢と洗濯人の若者とのそれぞれの交流が描かれる。

芸術家は新しい転居先に残された、前住人の残したビデオテープを見つけ、その映像の中の女性に興味を持つ。
一方、令嬢はひょんなことから洗濯人の若者と知り合い、仕事(洗濯人)の様子を写真に撮らせてほしいと頼む。

登場人物たちはそれぞれ、裕福層・貧困層と住む世界が分かれていて、普通であればそれぞれの生活圏が異なるので、お互いを理解しあうような深い交流はなかなか生まれないような境遇である。

ところがこの映画の中では、芸術家は作品のモチーフの対象として、そして令嬢は写真を撮るという名目で相手を観察するうちに、普段なら気にもしないもう一つの世界を知ることになる。

日本人として日本に暮らしていると、収入の差はあれど、ここまではっきりと階級による差別や生活の差を感じることはあまりないかもしれない。
日本ではお金に余裕がある人であっても、洗濯・掃除などの家事はたいてい自分たちでこなすし、もし業者に頼んだとしても、そこで働く人たちと社会的に差があるとは考えない。

でもこの映画を見ると、インドでは絶対に超えることができない階級の差のようなものがはっきりと見て取れて苦しくなる。
裕福層にとっては取るに足らない些細なことでも、ある階級以下になると全くの別世界の絶対に手に届かないものなのだ。

それを貧困層の若者はよくわかっている。
しかし、令嬢のほうは…。

最近『あの子は貴族』という日本の映画も見た。
日本の中での階級の違いを描いた作品だった。
この中でも階級の違いからくる価値観・世界観の差異が描かれていたけれど、まだ言葉遣いや態度を変えるほどの階級差別のようなものは感じなかった。
でも、日々貧富の差が拡大中の日本でもいずれ『ムンバイ・ダイアリーズ』で描かれているようなはっきりとした階級格差が出来上がってしまうのだろうか?

この映画のでも描かれるが、常に厳しい現実を生き続けなければならない貧困層に比べて、裕福層は「見たいものだけ」を「見たいように」歪曲して見る。自分の都合のいいように解釈しようとする。

生活で手いっぱいの貧困層から社会を変えることは厳しい。
社会的に力を持ち金銭的にも余裕のある裕福層の人々が、現実に目を向けてそこにいる人々を理解しようとしなければ、世界は変わらない。

この映画の製作者はもちろん裕福層だろう。
その彼らがこの映画を世に送り出したというところに希望を感じた。

インド映画といっても、とても静かで映像も美しい一本。
インドでのリアルに触れてみたいと思う人はぜひ。
今なら(2023/5/10 現在) Netflixで観ることができます。

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