サッカー界にも DX!?各国リーグのクラウドサービス活用事例を紹介
※ こちらの記事の内容は Podcast でも話しています。こちもぜひ!
サッカー界でもどんどん DX が進んでいます
DX とはデジタルトランスフォーメーションの略で企業に眠るデータをいろいろなサービスや AI に活用することで非効率な業務プロセスやビジネスモデルを改善していく活動のことを言います。
IT 技術の目覚ましい進歩のおかげで色々な情報を閲覧、収集できるようになった昨今、溜まった情報やデータはいち早く新たな価値に結びつけることができる企業が生き残っていくような時代に突入しています。
サッカー界においてもそれは同じで、IT のサッカーへの介入が進み、数値化が難しかったアクションのデータ化やそのデータを蓄積していくことができるようになってきつつあります。
以前サッカーのデータソースをまとめた記事を書いたので、どんなデータが存在するのか、こちらを参考にしてください。
なぜこんなにもデータ化が進んだのか?
それは、リーグやチームがクラウドベンダーとタッグを組み、データ化やデジタル化の面で協力していることが影響しています。
クラウドとは、インターネットを通じて IT のインフラやコンピュータリソースを必要なときに必要なときだけ利用できるサービスのことを言います。
クラウドベンダーで有名なのは AWS(Amazon Web Service), Microsoft Azure, Google Cloud が挙げられます。
これらの企業が主にサッカーリーグとパートナーシップを結びデータ収集やその先のコンテンツや AI 活用にまで至っている事例が増えてきています。
今回はそんな事例を紹介していきます!
LaLiga x Microsoft Azure
ラ・リーガは Microsoft 社とパートナーシップを結んでいます。
僕が調べた限りだとリーグとしてクラウドベンダーとパートナシップを結んだのはおそらくリーガが始めただと思われます。
以下の記事によると 2016 年にアライアンスが結ばれます。
目的は大きく 2 つ、「お互いのユーザーに対する広報」、「リーガによるクラウドサービスの活用」と説明されています。
サッカーリーグからすると協力することのメリットは明らかですが、クラウドベンダーにとってもサッカーファンへの認知度の向上やスポーツ向けの新製品の開発や R&D などメリットがあります。
ラ・リーガの主な取り組みを 2 つ挙げます。
データ取得するためのインフラづくり
まずデータを取得するための仕組みを作らなければなりません。
リーガでは各スタジアムに 16 台の光学追跡カメラを設置し、選手やボールの位置に関するデータをリアルタイムで送信できるようにしています。
よくリーガの試合を見ていると以下のように試合中にパスの軌道や選手の動きが描画されますが、このカメラを使ってなされていると思われます。
リーガのハイライトではゴール確率が計算されるが、このカメラによって取得されたデータが使われています。
このゴール確率はプレイヤーの視線、相手プレイヤーやゴールからの距離など色々なデータをもとに算出されるが、このカメラからデータをリアルタイムで受信し、Azure のコンピューターによって瞬時に計算されるため 30 秒でハイライトにゴール確率を載せることができるそうです。
また取得したデータは各チームにも還元されており、22/23 の 27 節から「ビデオレビューシステム」という革新的なシステムが導入されている。
各チームのベンチに Surface Pro が配られ、そのデバイスを通して選手のデータを見ることができます。
これは戦術的なレビューにも繋がりますが、選手の怪我のリスク管理にも繋がっているみたいで驚きました。
技術的発展の担うラ・リーガテック
2021 年ラ・リーガの子会社として設立されて、マイクロソフトと連携しながらラ・リーガの技術的な発展に貢献している会社です。
マイクロソフトは技術に関しては一流ですが、サッカーという競技のドメイン知識が乏しいことが予想されるため、ラ・リーガテックと協同しながらサービスを作っていると思われます。
先程紹介したデータをチームやコーチ向けに共有するためのプラットフォーム Mediacoach を開発したことで有名です。
Mediacoach は一般では使用することができなさそうですが、その断片をラ・リーガの HP で Beyond Stats というコンテンツで見ることができます。
この Beyond Stats では Mediacoach の情報をベースに注目選手や監督、試合を節ごとに紹介するコンテンツです。
Beyond Stats では意外なデータなどを紹介したり、注目選手や監督の特徴を画像や動画付きで紹介してくれます。
これにはファンのエンゲージメントを高める狙いがあるみたいです。
コンテンツは以下の 5 つのパートで構成されています。
Fact of the week(その節の驚くべき事実を伝えてくれる)
Remarkable Coach(注目すべきコーチを教えてくれる)
Key Player
The Match up
Remember His Name(覚えてほしい選手)
Metric of the week(今週注目の指標)
例えば 26 節の Beyond Stats はクラシコがあるのでマドリーやバルサの選手が中心にピックアップされて紹介されていました。
Bundesliga x AWS
次にブンデスリーガと AWS の事例です。
ブンデスリーガ(正式には DFL ドイツサッカーリーグ)は 2020 年に AWS と提携しデータ活用や機械学習活用を推進しています。
Bundesliga Match Facts を使った新しいサッカーの見方
ブンデスリーガの事例の特徴が AWS の機械学習や分析サービスを使って独自の指標を定義しファンへ提供しているところです。
指標は Bundesliga Match Facts と呼ばれており、現在 10 つあり随時追加されているみたいです。
中には詳細に数式を用いて解説されている仕様もあります。
Most Pressed Player(プレスを受けている選手)
Attacking Zones(チームがゴールを決めるために使用するエリア)
Average Position: Trends(レッドカード、ゴール、またはボールとの交代などのイベントから生じる特定のゲーム内トレンドの詳細を提供)
Average Position(フィールド上のプレイヤーの平均的位置)
xGoals(ゴール期待値)
Speed Alert(スプリントの速度を比較)
Shot Efficiency(ゴール期待値と得点の比較)
Passing Profile(チームのパスの傾向を分析)
Set Piece Treat(セットプレーの脅威を定量化)
Skill(4 つのカテゴリーにわたる選手のスキルを評価)
Most Pressed Player はプレッシング文化が派生したブンデスらしいですね。
現代サッカーではポジションが可変のチームが多いですが、 Average Position を見ると現在の陣形が確認できて便利そうだなと思いました。
データと語る上で用語を統一することは議論する上で重要なのでファンにわかりやすく説明されているのは好印象です。
Set Piece Treat と Skill は 2022 年 3 月に追加された指標で算出する指標も日々進化しているということがわかります。
また指標の定義や考え方、システム的なアーキテクチャまで解説されています。
例えば Skill にはフィニッシャというカテゴリがありますが以下のような式で求められます。
またその計算を AWS のサービスを以下のように組み合わせて実現しています。
プレミアリーグ x Oracle Cloud(FA x Google Cloud)
最後にイングランドプレミアリーグと Oracle Cloud の事例です。
イングランドではサッカー協会である FA は Google Cloud とパートナーシップを結んでおり、トップリーグとのねじれ現象が起きていました。
それぞれでどのようなことをしているのか見ていきたいと思います。
ファン目線で作られているデータや指標たち
プレミアリーグは Oracle Cloud と 2021 年にパートナー契約を結んでいます。
リーガやブンデスでやっているような「平均ポジション」や「リアルアイム勝率計算」、「攻撃の脅威」を Match Insight と名付けて表示しています。
他 2 リーグに比べてクラウド利用が遅かったので指標も多くないですね。
ただ Match Insight のチームメンバーである Lee Bonfileld 氏はプレミアリーグの愛好家で自身で Fantasy Premier League のポッドキャストを運営するホとらしいです。
Match Insight は個人的な分析のために作られたものかもしれないですね。
その成果サイトにのっているスタッツもファン目線で見た目に拘っているように思います。
プレミアリーグは 16/17 シーズンからデザインを一新したためその影響かよくあるスタッツの画面がとても見やすい印象を受けました。
各指標で 1 位の選手の数値だけ大きくなっており、リーグ全体でどの選手が活躍しているのか人目でわかります。
参考にリーガの画面を載せますが、文字が小さくてわかりにくい印象を受けました。
せっかくデータを集めても見栄えにもこだわらないとファンに受け取ってもらえないかもしれないので見せ方にもこだわってほしいと思いました。
先日リーガのロゴが刷新されましたが、プレミア同様にシンプルなものになっていたことから、わかりやすさを追求するためのものかもしれませんね。
単純なデジタル化で業務プロセス改善にも繋げている
イングランドサッカー協会は 2019 年に Google とのパートナー契約を結びました。
FA では男女年代別代表など 28 ある数多くの団体の情報を管理しなければなりません。
数が多いと情報が分断されて年代間でトレーニングの仕方や育成方針に違いが生まれてしまい一貫性がなくなってしまいます。
そこで Google のサービスである Google Drive やハングアウト、G Suite などを使って情報共有を迅速に行うことを目指しているみたいです。
更に蓄積された情報を Google Cloud のサービスを使うことで分析をしインサイトを得ることにチャレンジしていくようです。
サッカーのデータ収集や活用事例が多い中、代表チーム内の業務の DX という事例は珍しいなと思いました。
じゃあトップリーグであるプレミアともデータを共有すればもっと良いのではとは思いました。
クラウド活用はリーグやチームだけでなくファンに対しての新たな価値提供になりえる
色々な事例を見てきましたが、各国リーグとクラウドベンダーの研究開発の努力が垣間見えました。
特に早くから導入しているリーガ、スペインでは若者のサッカー離れが問題視されており、そんな若者の興味を引くためにサッカーをわかりやすくするための情報を試合中に提供しようとする努力が見えました。
独自に会社まで作ってるのは驚きです。
またクラウドベンダー側からしても知名度の向上や研究開発の機会提供などプラスの面があることも伺えました。
リアルタイムの情報を処理するためには膨大な計算をこなすコンピューティングリソースが必要なのでリーグ単体ではできないと思うのでサッカーの発展のためにもこれからも支援お願いしたいです。
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