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『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』01 

【あらすじ】都内の進学校を中退し、父の実家がある田舎町の高校に転入することになった美和は、叔母の勧めもあって昔馴染みの土地・元白鳥に居をかまえ、ひとり新しい生活を始めた。だがそこで暮らし始め早々、怪しい老婆「目玉ババア」に呪われ、次々と気味の悪い出来事に巻き込まれていく。地元での友情を育みながらも、事件は更に恐ろしい展開をみせ、子どもたちは不浄の場「サクラヤマ」に囚われることに。地元に伝わる伝承「オオヤマ」そして「オオタル」の秘められた呪いの連鎖が徐々に明らかになる……
(ホラー長編 11万文字前後 全28話予定)


 誰もそこからは、逃げられない。
 あの時からずっと、私はずっとそう気づいている。

 
 

むかしばなし


 昔、よく遊びに行ったお父さんの実家で、よく聞かせてもらったものだ。
 元白鳥(もとしらとり)が『白鳥村』だった頃のお話を。
 たいがいは、おじいちゃんから。それから、お盆や暮れのお餅搗きやお正月、お葬式や法事の時に集まってくる、ここ出身の親戚のお年よりの人たちから。
 あと、泊まっている間だけ友だちになる、近所の子どもたちから。
 白鳥村には、なぜか不思議な伝説や民話、言い伝えのたぐいが多い。
 特に、大山のお話が多かった。
 そしてたいがいが、ちょっぴり……ううん、けっこう、怖い。
 たとえば。

 其の一・オオタル

 元白鳥の東側にある大山には滝がいくつかあって、その中の一番大きな滝は『オオタル』とか『オオタキ』とも呼ばれている。
 オオタルの裏側には洞窟があって、入口はとても狭いのだが底無しだという。
 そこには血吸いコウモリ(一説には人喰いカラス)が住みついていて、洞窟に入った者は生き血を抜かれて(または目玉をくり抜かれ)二度と出て来られない。


 其の二・津久根島神社

 大山の中腹に、津久根島つくねじま神社という小さな神社がある。もちろん誰も住んでおらず、神事のたびに近くの禰宜がやってくる。
 しかし江戸時代の初めまでは、ここに黒装束の一族が代々住みついていたのだと言う。
 地元の人たちはかなり昔から彼らを『クロシュウ』と呼んでいた。
 彼らは神事は執り行わず、人が集まる時には揃って更なる山の奥に姿を消し、誰もいなくなるとまた出てきたのだそうだ。
 彼らがいつ頃どこから来たのか、どんな連中だったのか、いついなくなったのかについては詳しく知る者がいない。
 ただ、彼らが昔住んでいたという境内近くに、小鳥の羽や骨が沢山散らばっていたのを見たという人もいる。


其の三・豆腐石

 大山の滝近くには、自然と四角くなった石がたくさん見られる。大きさは一抱えほどというものが多く、黄色っぽいものからだいだい色のものまである。
 売れば金になると思った連中がいくつも拾って帰ったが、たいがい病に倒れたり思わぬ事故に遇ったり家が不幸になって潰れる。
 または、その連中が他の女子どもに害をなし、結局は自身も滅びてしまう。
 村のごうつくばりで名を馳せた権蔵という男が、いくつも拾ってきて大八車で売りさばこうとしたが、あまりの重みで木橋が落ち、権蔵は車の下敷きになって溺れ死んだと言う。
 大むかし、山には多くの修験者が入って修業をしたと言うが、彼らが山で遭難したり、修行の最中亡くなったりして、黄色い石に姿を変えたという話もある。
 津久根島神社の付近にも豆腐石が多いところがあって、クロシュウのなれの果てではないか、とも言われている。


 其の四・サクラヤマのぼれ

 地元でよくやる遊びに、『サクラヤマのぼれ』というのがある。
 まず鬼がふたりいて、ひとりはみんなを追いかけて捕まえる。もうひとりは地面に描かれた大きな丸、『サクラヤマ』と名付けられたすぐ近くに陣取っている。
 捕まえる時に鬼は「トリとーった、サクラヤマのーぼれ」と声をかける。
 捕まった子たちは、地面に描いた『サクラヤマ』に詰め込まれる。丸に入れられた子たちが多くなると、縁に近い場所にどうしても寄ってしまうことになる。そこを、更に鬼のどちらかが「取った!」と触ると、その子が次の鬼になる。
 逃げ回っている子のうちの誰かが、サクラヤマに捕えられた子どもの誰かに触れることができれば、その子は外に出ることができる。その時、『雨止ぁんだ』と叫んでタッチする。しかし、見張りの鬼に捕まってしまったら、丸の外から助けに来た子も捕えられてしまう。
 サクラヤマ、と呼ばれる場所が実際、津久根神社からあまり遠くない山の上にある。
 山の中なのに、石垣が積まれた上が広場程度に平らになっていて周りに桜が植えられている。元々、何かの建物があったらしいのだが、不浄の場としてしか、みなの記憶に残っていない。
 遊びはそこの故事に由来しているらしい。
 

其の五・つくねじまの目玉ババア

 これは従兄のシゲ兄(にい)やその友だちから聞いた、元白鳥になってからの話。
 つくねじま、というのは団地の名前で、大山の津久根島神社から名前を取られた。
 団地のまん中あたりに、目玉ババアは住んでいる。高い塀に囲まれた家で、門はたいがい閉まっている。塀の上には鉄条網が張られ、尖ったガラスが埋め込まれている。門にはステッカーが沢山貼ってあって、家の周りの沢山ののぼりが目印になっている。
 屋敷の中に細くて高い鉄塔があって、頂上には黒い『見張り箱』がついている。監視カメラで、目玉の絵がついている。人があまり家に近づくと、警報機が鳴るという人もいた。
 目玉ババアはたまに出てきて、目が合った人がいるとつばを飛ばして威嚇する。ババアはカラスを手下にしていて、よく、長いままの竹輪をくわえたカラスが屋根に止まっているのを見た人もいる。
 うちのケイ兄とシゲ兄がまだ小学生だった時、元白鳥でできた数人の友人とともに、夏の夜に肝試しに目玉ババアの家まで出かけて行って、みんな揃って泣いて帰って来たことがあった。
 何があったかは『覚えてない』のだそうだ。

02 「カラスが来る」→
03 引越し →
04 ハイキング →
05 地元のつき合いって →
06 目玉ババア → 
07 「呪われたぞ」 →
08 病院のカンダヨシノ →
09 ケンちゃん →
10 呪いと事件 →
11 ヤベじいとルリコ →
12 UNO大会 →
13 噂と真実 →

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