柿ノ木コジロー(唄辺マキ)

おはなしや読み物を書いています。創作小説用のアカウントとして始めました。よろしくお願い…

柿ノ木コジロー(唄辺マキ)

おはなしや読み物を書いています。創作小説用のアカウントとして始めました。よろしくお願いします。

マガジン

  • 小鳥ことり、サクラヤマのぼれ

    田舎町の高校に転入することになった美和は、叔母の勧めもあって昔馴染みの土地・元白鳥に居をかまえ、新しい生活を始めた…… そこが恐ろしい場所とも知らずに。 某コンテストに最終まで残り敗退した際、いただいた選評を元に改稿したものを更に改稿して公開します。 ホラー長編 民話伝承、高校生主人公 100000文字~110000文字予定。

  • スタンポンの穴

    二年の四宮部長率いるおおぞら高校科学部は、夏休み前に全校を巻き込んだ「動線視覚化実験」通称「スタンプ・オン」を開始した。 お祭り気分の校内、だが開始早々に副部長の成島みずきが不思議なデータの『穴』を見つける。 その時から、いや、実はそのずっと前から、「すたんぽんの穴」の恐怖は、始まっていた……ホラー。34000文字程度の中編。残酷表現あり。第四回ジャンプホラー小説大賞二次選考まで行って最終落ちしたものを更に改稿しました。

  • とときっずの詩

    ダウン症を持つとと(仮名)が描き散らかしたイラストに母・ヨシコ(仮)が勝手なコメント的詩をつけたイラストエッセイ。春夏秋冬揃えました。誰でもお気軽に、お寄りください。

最近の記事

『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』10

【呪いと事件】  さっくりと『呪い』のことばが出たおかげで、逆に話しやすくなった。  ヒワがここに越してきてからの話を聞かせている間、ケンイチはずっと黙って朝食を租借しながら耳だけは傾けていたが、カンダヨシノの話を聞いた時には、さすがに彼も動きを止め、まじまじとヒワの顔をみて、少し置いてから「マジかよ」そう言ったきりだった。 「知ってるの? カンダさん」 「知ってるも何も……」狭い地域なので、ケンイチも知らない訳はなかった。菅田吉乃は小学六年の終わり頃に団地に引っ越してき

    • 『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』09

      【ケンちゃん】  駅前に降り立ってから元白鳥行きのバス停まで行ったは良かったが、ヒワはそこから動けずにずっとベンチに座り込んでいた。  やっぱり智恵に相談しよう、今からアパートに行っていいか電話してみよう。  細かい震えはまだ収まらなかったが、ようやく自分のスマホを開けてみる。  目玉は消えていた。そして、『呪われました』の文字も。  信じられない思いで、人差し指でそっと画面を撫でてみる。メールが何件か入っていた。画面が反応し、メールの受信ボックスが開く。  智恵からもメー

      • 『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』08

        【病院のカンダヨシノ】  見てきてほしい、と言われたが実際に何をどう見てきたらいいのか、ヒワにはさっぱり判らない。しばらく正面入り口前で立ち止まっていたが、よし、と息を吐き出すようにつぶやいて、ドアをくぐってエントランス正面の総合案内に進んでみた。  総合案内にいた、化粧の濃い女性は硬い笑顔で 「午前中はお見舞いをご遠慮いただいております」  としか言わず、ヒワは「はあ」と言ったきり、次の言葉も継げなかった。  しかし、ふとスマホに目を落とし、あの目玉がうっすらとこちらを

        • 『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』07

          【「呪われたぞ」】  智恵にすぐに相談した方がいいだろうか、とにかく電池切れのスマホを充電しながら……と、ヒワは着ていたジャケットに手を突っ込み、固まった。徐々に動悸が早くなっていくのがわかる。  スマホがない。  念のために持って行ったリュックも漁ったが、ない。  そもそも携帯はリュックには入れないようにしていた。  上着に入っていない、ということは、落としたか。もしくは……  目玉ババアの家に置き忘れたのか。その可能性は十分考えられる。  ヒワはたまらず外に飛び出した

        『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』10

        マガジン

        • 小鳥ことり、サクラヤマのぼれ
          9本
        • スタンポンの穴
          10本
        • とときっずの詩
          4本

        記事

          記憶冷凍レシピ王に俺はなる

           冷凍庫には、キューブアイスの容器が整然と詰まっている。以前はだし汁、各種ソース等々、レシピを見つけるたびに試した食材ばかりだったのだが今では、トップレシピのカリスマは、私となった。  記憶冷凍のレシピ配信者として。  幼い子供たちとの甘ずっぱい日々……すり傷、他愛ない喜び、他愛ない発見、流した涙、そんなものを水で薄めて蜂蜜とレモン汁とで味付けして凍らせる。  動画は最高で5億回再生された。子どもたちはすでに成長して、みな私の元から離れていったと言うのに。そんなことも知らない

          記憶冷凍レシピ王に俺はなる

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』06

          【目玉ババア】 ――ついてない、とにかくついてない  ヒワの頭の中にはずっとその言葉が回っていた。  とぼとぼとバス停から歩く、春の夕暮れのこと。  切れるはずのないチェーンベルトが、突然切れたのだ。  試しに行ってみた学校からの帰り、しかも大通りの交差点のど真ん中でのことだ。よろけた拍子にあやうく、曲がって来たトラックにひかれそうになった。  通学に使う予定のチャリは、すでに確かにオンボロだった。  智恵の友人宅から貰った時からチェーンカバーの後ろ側が取れていた。自

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』06

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』05 

          【地元のつき合いって】  さて、いよいよひとり暮らし!  そう思っていた夢の暮らしが始まる三月までに、当初のワクワクした思いはしかし、次第にうんざりしたものに変わっていった。  二月末には智恵がいっしょについて、ツクネジマ町内会長の梅宮宅と、ヒワの属する第五組の組長宅にあいさつに行った。 「ねえトモちゃん、今から行く家、ウメなんとかさん? ここに住むのに何か関係あんの? あと組長って何?」 「あのねえ」智恵は、軽く息をついて振り返る。 「元白鳥はさ、川を挟んで西側が西鳥(

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』05 

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』04 

          【ハイキング】  近所の案内、と言っても、実質山登りだった。  裏庭から見えていたのが『大山(おおやま)』、元白鳥のシンボルともなっている。  オオタルと、中腹にある津久根神社に案内するよ! と智恵は先に立って元気よく歩き出す。  いや、どっちも昔おじいちゃんにつれてってもらったことあるから……と遠慮がちに断ったつもりだったが、結局そのまま引っ張って行かれた。  昔、おじいちゃんや他の親戚からよく聞かされていた話をいくつも思い出した。  たいがい、この大山に関する言い伝えみ

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』04 

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』03 

          【引越し】  二月なかば、柏田日和(ひわ)は、両親とともに元白鳥を訪ねていた。  父・陽介の実家である柏田本家の玄関先に立ち、呼び鈴を押した後、 「ホントに、ひとりで大丈夫なの?」  母の香枝(かえ)がヒワの横顔を覗き込むように、小声で訊いた。 「……わかんないよ、そんなこと」  陽介が肩をすくめる。「先が思いやられるな」  しかし、すぐに付け足した。 「けっこう田舎だから、気分転換にはいいんじゃないのか? こっちに住むのはどうせ高校の間だけだろうから、大自然を満喫しろよ

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』03 

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』02 

          カラスが来る  いつになく暗い空に、カラスの声がよっつほど響いた。  まだ夜明け前というのもあったが、雲がどんよりと垂れこめていて余計に暗く感じる、雨が近そうだ。  見上げていた空から目を戻し、昭二は、ふう、と息をついてリードを持ち直してから、玄関の引き戸をきっちりと締めた。  白いトイプードルのマルがうれしげに短い尻尾を振っている。  どこか少し遠くから、声が響いた。カラスとは違うが、よく通る叫び、すぐにそれは止んだが彼はびくりと肩を震わせ、また空を、そして歩いて行こうと

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』02 

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』01 

          序  誰もそこからは、逃げられない。  あの時からずっと、私はずっとそう気づいている。 むかしばなし  昔、よく遊びに行ったお父さんの実家で、よく聞かせてもらったものだ。  元白鳥(もとしらとり)が『白鳥村』だった頃のお話を。  たいがいは、おじいちゃんから。それから、お盆や暮れのお餅搗きやお正月、お葬式や法事の時に集まってくる、ここ出身の親戚のお年よりの人たちから。  あと、泊まっている間だけ友だちになる、近所の子どもたちから。  白鳥村には、なぜか不思議な

          『小鳥ことり、サクラヤマのぼれ』01 

          note創作大賞2024用に二作目ようやく公開できました。念願のホラー小説部門に参加できてうれしいです。実はあと二作ホラー、一本はかなり改稿した過去作、一本は新しい中編、とおもっていますが、どうなることやら。生温かく見守っていただければ。

          note創作大賞2024用に二作目ようやく公開できました。念願のホラー小説部門に参加できてうれしいです。実はあと二作ホラー、一本はかなり改稿した過去作、一本は新しい中編、とおもっていますが、どうなることやら。生温かく見守っていただければ。

          スタンポンの穴 終

          「……という話。どう?」  息を詰めて聴き入っていた新入部員の北村加奈は、はあーっと大きくため息をついた。  黒目がちの瞳がうるんでいる。 「もう……もっ、こ、こわすぎですーっ!」  三年の四宮部長は銀縁眼鏡の奥でクールに笑っている。 「ほ、本当じゃ、ないんですよね?? ねっ? ねっ?」 「実験は本当にやったけどね、去年の夏」 「視聴覚室、ってでも今は三階ですよねー、こっちの棟の。でも、でもナツメ先生って、もう異動したんですか? 今、顧問、新橋先生ですよね、それに」 「だから

          スタンポンの穴 終

          「スタンポンの穴」 第八話

          **** four 1  ぽくぽくぽく、と足音が近づいてくるのに気づいた。  長靴の音、貴船だった。 「採れる野菜があるかな……あれ? シノちゃんどうした」  四宮は勢いこんで  聞いてください、視聴覚室に、とそこまで言いかけ、ふと、こう訊ねた。 「カーテン、引いてなかったですよね……あの日」 「ん? 俺らが見に行った時? 視聴覚室?」 「はい」 「なんで?」 「カーテンが引いてあったら、その時何か言うはずかと思って……暗かった、とか」  貴船が笑顔のまま言った。 「閉まっ

          「スタンポンの穴」 第八話

          「スタンポンの穴」 第七話

          「あれ」  同じことをやっているらしい、夏目はスイッチを何度か押している。 「電気がつきませんね、まあいいや、僕の後からついて来てください、ここずっと通路あるんで。カーテン開けるついでにこっちの電源を」  教卓のすぐ前に夏目が迫ってきたのが判った。画面にも夏目の足跡がぼおっと光って映っている。科学部顧問だからなのか、彼もタグをつけたままのようだ。  四宮は思わずあ、と声を上げそうになる。  このままでは夏目はあの『穴』の上を通るだろう、歩幅から考えてもそこを踏む確立はかなり大

          「スタンポンの穴」 第七話

          「スタンポンの穴」 第六話

          *** three  八月も半ば、ちょうどお盆と重なってしまい、校内はそれでなくとも静けさに満ちていた。   夏休みはほぼ毎日、四宮は部室に通って作業を続けていた。  そして、スマホに載せるスタンプ・オンシステムの簡易版が、昨日ようやく完成したのだ。  みずきを誘ったのが昼前。そうしたら 「マックでいいからおごりね」  そう言われ、四宮は仕方なくみずきと駅前のマックで待ち合せ、セットをおごってやった。  みずきは昔から食べるのが遅い。駈けっこは速いのに、それに行動的で思いつ

          「スタンポンの穴」 第六話