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春の気まぐれな天気と、気まぐれな彼女の嘘。


日中はあんなにいい天気だったのに、夜から急に降り出した雨は、段々と雨足が激しくなってきた。

「っくしゅん!」

さっきからくしゃみが止まらない。
息を吸う度に鼻がムズムズして勢いよくくしゃみをし、全ての吐息を出してしまうためまた息を吸うのだが、結局数秒後にはまたくしゃみと共に全力でそれを吐き出す。
それを繰り返しているともう呼吸困難のような状態になってくる。

止まらないくしゃみに涙目になりながら手探りでティッシュの箱を探していると、ひらり、と僕の手の平にティッシュが1枚乗せられた。


「すごいね。花粉症?」

「あぁ、ありがと。んー違うと思ってたんだけど、ここ数週間ひどいからついに花粉症、なったかもなぁ。」

僕はズビズビと鼻をすすりながら言った。

「それか、寒暖差アレルギーじゃない?」

「なにそれ。」

「気温が急に変わったりするとくしゃみが出るんだよ。」

「そうなんだ。じゃあ、それかな?」

くしゃみの波が去ってやっと落ち着いた僕は、ふわぁ〜とあくびをしながら言う。
それを見ていた彼女が、同じようにふぁっと小さな口を開け、あくびをした。

「あくび、移ったね。」

「ふふ、うん。ねぇ知ってる?あくびって嫌いな人がしてても移らないんだって。」

「え、そんなことあるの?」

「あるらしいよ。」

「え〜そうかな。みんな移る気がするけど。」

「じゃあ、みんな好きなんじゃない?」

「はは。」

「...じゃあ、これは知ってる?」

「ん?なに?」

「目、見て。」

そう言って彼女はずいっと僕に近づいた。

「目が合って、10秒間どっちも目を逸らさなければ、相手は自分のことが好きなんだって。」


時が止まる。
止まない雨がひたすらに屋根を打つ音がする。
雨樋を伝って、溜まった水滴がぱたたたっと一気に溢れた。
彼女はずっと僕を見つめている。


「...なんてね。」

「え?嘘なの?」

「さぁ。どうかな。」

「ちょっと待って、どこからが嘘?あくびも嘘?」

「ふふ。さぁどれが嘘で、どれがホントでしょう?」


そう言って彼女は、目を逸らさずに微笑みながらさらに顔を寄せた。
もう、目が合わせられないくらいに。

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