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物するマガジン

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記事一覧

#1601048

眠れなかった、とSは、いった。その言葉の底にある動揺に、私は、きちんと寄り添えていただろうか。

仕方が無かった、とSは、いった。その言葉と裏腹にある後悔を、私は、きちんと受け止めていただろうか。

Sと別れた後で、自責の念が私を襲う。もっと親身に話を聞いてやればよかった。もっと適切に助言してやればよかった。

でも、思う。親身になれば、助言をすれば、Sの重荷を軽くしてやれただろうか。そして不安に

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えっ!いいんですか!

#2201041

十五夜月、十六夜月、立待月。これといった娯楽もなかった時代に生きた人は、律儀に毎晩の月に名前を付けて、それが出るのを心待ちにした、とかいう。

N氏もまた、ベッドの中で月を見上げていた。このところ、決まってこの時間に目が覚めてしまう。そして決まって尿意を催す。

N氏は、人生の賞味期限について考えていた。消費期限がいつなのかについては、よくは知らない。でも多分、賞味期限はとうに過ぎてしまった気がす

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えっ!いいんですか!

#2112248

一説によれば、冬至の後の太陽神の再生を祝うお祭りが起源ともいう。聖なる夜にスーパーでパック入りのチキンを1ピース、見栄でもう1ピース買ってみる。

帰り道の裏通りの古いパーマ屋では、薄暗い蛍光灯の下でおばちゃんがいつもの掃除に勤しむ。行きに帰りに通るこの店の客の姿を、私は、見たことがない。

彼女の自宅らしい2階の部屋の窓には、「珠算塾」の色あせた文字。あるいは昔、子どもたちで賑わっていた頃の窓の

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#2112158

Kさんへ

あなたの国の感染者数がまた最多を記録した、というニュースを、帰りの電車の中で読みました。こちらは不思議なほど小康状態で、皆、首をかしげています。

ベータ、ガンマ、デルタ。この1年でギリシアの言葉を覚えました。ラムダ、ミュー、オミクロン。私たちは、変異の速度に一向に追い付けていませんね。

「ワクチン打ったら、また会いましょう」。その約束は、今年の冬も果たせません。あなたの国が、あなた

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#0409133

職人の技っていえば、何かしら奥義がありそうだって思われるんですけど、個性とか我流ってのは、いらないというか、邪魔なんです。

私ら、芸術家じゃないんでね、いつでも、誰がやっても同じように仕上がる、いってみれば作法みたいなもんなんです。

特別な技術は、いりません。とにかくクセやムダを省いていくだけ。省いて省いて、そこに残ったものが職人の技。

でもねぇ、ラッキョウの皮むきみたいな話で。むき終わった

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#0411202

Aさんへ

多分あなたは、覚えてはいないでしょう。H島の民宿で、泡盛に酔いつぶれたあなたの寝息を聞きながら、身じろぎもできない私がいたことを。

月明かりに照らされたあなたの横顔が息を呑むほどきれいで、それを見詰めながら、一睡もできない私がいたことを。

手を伸ばせば、あなたに触れられる。そんな決意と尻込みを繰り返しながら、何もできずに朝を迎えた私がいたことを。

あなたの前を素通りしていくだけの

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#1011052

F様

古代インドでは、人生を4つに区分し、それぞれ学生期、家住期、林住期、遊行期と呼んだ、とかいいます。

最初の25年間が学生期で、心身を鍛え、学習と経験を積む期間。次の25年間が家住期で、就職・結婚して家庭を作り、必死に子育てする期間。

林住期の25年間は、必要性からではなく興味で何かをする、本当にしたいことをする。最も豊かな期間なのだとか。

50歳、おめでとうございます。

わたしもスキ♡

#1012178

「脳卒中とかの後遺症で無表情になった患者の顔を、英語じゃブッダ・フェースなんていうんだって。『外人って罰当たりだな』とか思ってたけど。

最近じいちゃんの顔見てると、『ほんと、ブッダみたいだな』って思った。無口で、穏やかで。怒り出すと手が付けられんけど、基本、俺らにすっごく優しい。

デイから戻ったじいちゃんを俺が迎えて飯を食わして、寝かし付ける。家族だから当然っていわれると腹立つけど、かわいそう

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もっと頑張ります p(^_^)q

#2107127

断捨離ってのはね、自分でやってちゃいつまで経っても終わらないもんだ。そういう息子は、このところ、帰省する度に彼女の身の巡りを整理してゆく。

今日は天袋をあっさり空にして、「ごみ」を携えて帰って行った。その車を見送りながら、彼女は、天袋の中にあった気がするこいのぼりのことを思っていた。

男と女の愛情ならば、離れ離れだった2人が1つになるのが成行きなのに、母と息子では、その逆だ。一体だった2人が時

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えっ!いいんですか!

#0410113

「このご飯、固いんじゃないのか」「そんなことないでしょ」。結婚生活30年を数える夫婦の会話。

「このみそ汁、塩っ辛いんじゃないのか」「そんなことないでしょ」。飽くることのない論争は、続く。

毎日毎食を共にしながら、なお調整に至らない、食の嗜好。

やったー!

#0409043

魚が泳ぐ水槽の中に一匹だけ、違う種類の魚を入れておくとね、魚が緊張するらしいんです。その適度な緊張のお陰で、魚の鮮度を保てるらしい。

今になってみれば彼は、そんな外来の魚だったんじゃないかと思うんです。彼を放り込まれた水槽の魚たちは、食い尽くされるんじゃないかと恐れたでしょう。

適度な緊張なんて、彼等にとっては要らぬお世話で、彼のトップダウンの手法には最後までなじめなかった。だから、被害者ヅラ

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#2110259

夜の暑さが一段落したこの頃は、ベランダの扉を開け放って眠っています。今朝は、網戸越しに聞こえる隣戸の目覚ましの音に起こされました。

もう1時間近くも、鳴りっ放しの目覚ましに、ふと、「もしかして死んでいるんじゃ」?顔も知らない隣人の安否を気遣います。

私の方はといえば、文庫本を読みながら寝落ちしていたようです。しおりがわりに挟んであった切符を眺めます。打刻された6年前の日付に見覚えがあります。

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えっ!いいんですか!

#2108036

「不足要素が必要量を満たさなければ、他の要素をいくら増やしても植物の収穫は上がらない。『ドベネックの樽』って話は、そこは教育も同じなんです。

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やったー!

#2108199

登山をやってみたい、という私に、Iさんがリュックをくれました。「お古だけど、45リットルあるからさ、ちょっとした山なら、これで行けるよ」と。

「Iさんは、もう山に行かないんですか」。「腰とか足とか、筋という筋があちこち痛くてさ、この頃は、インドメタシンの薬液に1日漬かってたい気分だよ。

若い頃、しつこく富士山に誘ってくれる先輩がいてさ、断り続けてたけど、もう登れないかもと思うと、1度くらい登っ

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わたしもスキ♡