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無となれるか

演奏する時の気持ちの持ち方、意識の向け方というものを最近はずっと考えている。サックス奏者のImmanuel Wilkinsは自身のアルバムへのコメントに

“The goal of what we’re all trying to get to is nothingness, where the music can flow freely through us.”
"私たちが目指しているのは、音楽が私たちの中を自由に流れることができる無の境地だ"

https://www.immanuelwilkins.com/about

と言っていた。「無」であるという状態、ここに自分を持っていきたいと思いながら、それはとてつもなく長い道のりであるように思われてならない。

3日前にDizzy'sに行った。夜11時15分からLate Nightのショーをやっていて、比較的若いミュージシャンが演奏している。友人のベーシストが弾いていたので遊びに行ったのだが、そこでサックスを吹いていたZoe Obadiaという若いアルトサックス奏者が、ほんとうに素晴らしかった。

彼女の名前は知らなかったし、インスタグラムで名前を検索してみてもほとんどやっていないようだった。だが、彼女の音はほんとうに……ほんとうに素晴らしかった。若い奏者、特にニューヨークにいる奏者にありがちな「これだけ吹けます、こんなこともできます」といった自身の顕示欲、みたいなものが全く感じられないのだった。そういうものを感じる演奏が悪いというわけではないけれど、彼女からは一ミリもそういった要素が感じられない。しかしプレイの内容はテクニック的にも難しく、複雑で、それでいて音楽的でかつ傲慢さがないという、類稀な奏者だと感じた。彼女自身の欲が、音を通して全くというくらいこちらに伝わってこないのだった。あれは、音楽のためにただ音楽をしているとでもいうのだろうか。彼女が「無」となり「筒」となり、音楽を通すだけの「器官」となっている状態に、私はとても興味を惹かれた。

リズムセクションの彼らからも若さ特有のVibeyな感じはあまりなく、素晴らしい演奏をしていたが、そういった欲や葛藤はあったんだろうな、努力でここまで来たのだろうなという良い印象を与えてくれる感じのいいプレイヤーたちであった。ただ、Zoe Obadia、彼女の場合は最初からそういうものを持っていたことがないです、とでも言わんばかりの「無」を感じ、彼らとは違う、異質なものを感じた。

これはマウスピース工房のTed Klumのもの。すごくいい音をしている。ちなみに使用マウスピースはこれではなく、おそらくYardbird modelだった。

ちなみに9年前の演奏もある。9年前に高校生だったぽいので、私とほとんど歳は変わらないはずである。それにしても、高校生とは思えないプレイ。コメントにいらんこと書いてるおじさんもいる。(こういうのって、世界共通なんですね)

私はどうしても、言われていない悪口に動悸を覚えたり、されていない批判に怯えるような小心者なので、人前で演奏することはいまだに緊張するし、怖い。恥ずかしい話だが、どうしても聴いている人や一緒に演奏している人に「どう思われるか」ということに囚われずに演奏できているかと問われれば、やはりそうではない。

完全な無を目指すことは難しいことだけれど、少しでもそう言った状態に近づくことができるように、そういった意識の向け方を心がけて2024年は音楽に向き合っていこうと思っている。

音楽そのもの、演奏していること、それ自体が大きな祈りとなれるよう、そうした状態に持っていけることが目指す場所であると感じる。Immanuelの言葉に戻るが、自分という器を通して音楽がただ流れていけるという状態が理想である。そして最終的には、自分という存在を通して流れた音楽が主の栄光を表すことになれたら、と思っている。

Each of you should use whatever gift you have received to serve others, as faithful stewards of God’s grace in its various forms.
あなたがたはそれぞれ、賜物を授かっているのですから、神のさまざまな恵みの善い管理者として、その賜物を生かして互いに仕えなさい。

ペテロの手紙4章10節

というわけで2024年も一層活動に励みます。今年はアーティストビザの申請も2月に控えているし、自分のプロジェクトも少しずつですが動いてきているし、楽しみなことがたくさんあります。嬉しいお知らせができるよう、これからもニューヨークで頑張ります!

教会で余ったポインセチアもろた

それではみなさま、良いお年をお迎えください。

及川陽菜


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