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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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2020年1月の記事一覧

タバコと万華鏡

我々は、心の通った人たちの落とした欠片を拾い集めた集合体に過ぎない。 元恋人が貸したまま譲ってくれた部屋着のパーカーを今も着ている。 ウォークマンに入れられた、自分では聞かないようなロックを今も口ずさんでいる。 使っていたいい匂いのする柔軟剤。ピアス。電話ぐせ。思いの伝え方。 上手な別れ方。 人は裏切るということ。 小さなころは世の中の嫌なことに逐一傷ついていた。 人は生まれながらにして、誰かに教わるでもなく裏切り方を知っているが、裏切られることに対して我々はあまりに

何日後に死ぬヤギ

『100日後に死ぬワニ』という@yuukikikuchiさんの4コマ漫画をみんな楽しみに読んでると思う。いまや国民的連載だ。 それは言い過ぎだけど、僕の周りではけっこう読まれてる。 とくにすごい出来事が起こるわけじゃない。なんなら本当に100日後にワニが死ぬのかすらわからない。 100日後に死ぬとされてるけど、だからってワニは、残された命で特別なことしなくちゃと思ってるようにも見えない。ワニ本人は自分の命を知ってるのだろうか。たぶん知らない。 ある日のワニは、ただ道に

2011年3月24日に死んだ男の話

その人は 静かで穏やかな人だった その人は 黒縁の眼鏡をかけていた その人は まあそこそこ整った顔をしていた その人は 聡明で物知りだった その人は 日本や海外の文庫本を沢山持っていた その人は いろんなジャンルのレコードやCDも沢山持っていた その人は 一本のアコスティックギターを持っていた でも弾けなかったらしい その人は 自分の姉の娘を可愛がりいつも優しかった その人は 車を走らせ一度だけその娘を海まで連れて行ってくれた その人は 当時小学生だった娘のどうでもいい話をニ

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

「一緒に暮らさね?」 「いいよ!!!!!」 LINEの返信がすぐに来て笑った。もっとしっかり考えなくていいの?と思ったけど、らしいなって。 とってもワクワクした気持ちと、ほんの少しの不安。そりゃあきっと、ケンカすることもあるだろうから。でもケンカしてもいいやって思えた人だから、LINEを送ったんだ。 * 「スクリーンで映画観れるようにしよう」ふたり好みに部屋を改造する。 「シャンプーどれにする?」共有で使うものを買い揃える。 「このコート着ていいよ」クローゼットの中はご

東京の日の出 すごいキレイだなあ

私の言葉は不自由だった。 英語は苦手という意味での不自由、日本語は語彙力がないという意味での不自由、でもそれよりもっと不自由だったのは心だった。 飛行機の窓から見えたどこかの街の夜、光の集合体で街が出来ていた。あの光の中には人が生きていると考えると何故か少しだけ涙が出た。出会えない人の方が多いのだ。こんなに急いでも焦っても怒っても悩んでも、この世界の中で私は出会えない人の方が多いのだ。 今見ている景色、ちょーキレイだな、と思った。こんなに泣いてしまう程に美しいと感じても

キッチンの孤独と光

襖がぴしゃりと閉まる音は、すこし淋しく、物悲しい。向こうには人がいるというのに、地球の裏側くらいに遠く思える。でもどこか心地よく感じてしまう身勝手さを、真空パックのような静寂が後押ししていた。 昔、迫りくる朝から逃げるように夜更かしをした日もあった。でも今日はちがうんだ。 しんと静まり返ったリビングで、読みかけの文庫本を手にとった。 吉本ばななの『キッチン』。言わずと知れたベストセラーは、昨年末まで実家の本棚に眠っていた。15年前に一読してからずっと。 彼女の作品は、

【小説】悲しい色やね

瀬戸内の小さな漁師町、寂れた、といってもいいくらいの、場末のスナックの、ぼんやりとした照明に包まれた店内。 黒い大理石のテーブルに頬杖をついて、私は父のカラオケを聴いていた。 父は、歌が上手い。 教員同士のカラオケ大会ではいつも優勝し、どこからどう見てもしょうもないような賞品を、上機嫌でもらって帰ってきていた。 教え子の結婚式に呼ばれても、教師らしい、何か人生の深みのようなものがあるスピーチをするでもなく、ただ毎回のように長渕剛の「乾杯」をリクエストされていたらしい。 父は

夜の空気とノクターナル

こんにちは、フィルムで写真を撮っています小山ひときです。 今回は、夜のフィルム写真を載せたいと思います。 というのも先日、内林武史さんの作品を大阪まで見に行ったことで自分の中の夜が湿度を帯びたように感じたからです。 ギャラリーはいつも展示されている時よりも明るかったそうですが、それでも、静かに光る作品たちには夜の空気を感じました。あの日帰り道で見た月や、深夜に一人で屋上から見上げた星たち。大切にしていた小さな水晶の光が形になったような世界が広がっていました。 また最近、天

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カーバイト倉庫

夢の抜け殻 僕の泣き殻

 透明な壁の向こうに、君の暖かさを感じる。きっと君も、僕と同じように壁に手を添えているのが、壁からジワリと伝わる暖かさからわかる。  僕たちは言葉を交わす。こうやって手をかざし合った時だけ話すことのできる、不思議な対話方法。 【私達、結局会えないままだったね】 【うん、そうだね】 【私達、いつか会えるはずだったのかな】 【うん、どうだろうね】  僕らの世界は狭かった。君と僕は、世界でたった一人の住人。けれど、今日、君は消える。  それは大昔から決まっていたことで

鶴見線 海芝浦駅

じんわりと汗ばむ6月中旬のこと。 風の便りで、友人が仕事を辞めたという話を聞いた。 久しぶりに電話をかけるととても消沈した様子で、今にも死ぬのではないかと危ぶんだ私は、彼女を都会の秘境駅、鶴見線 海芝浦駅へと連れ出すのである。 2019年6月18日木曜日。17時半に横浜駅で待ち合わせた私たちは、JR京浜東北線・根岸線で鶴見駅まで向かい、そこから鶴見線 海芝浦駅行きへと乗り換えた。 黄色い帯と苔色のロングシートが印象的なこの列車は、こじんまりとしてアットホームな雰囲気が

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夕焼けを撮影してみた