千羽はる(ChibaHaru)

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千羽はる(ChibaHaru)

読書と未知をこよなく愛し、「人」と「未知」の狭間を書く、「あわいの小説家」/小説やエッセイ・書評などのご依頼承ります

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    「ここは、月草骨董店。あなたをお待ちしている逸品が、ここにありますよ」

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    誰か一人でも、この世界と出会えればいい。そんな気持ちで綴る読書の記録たち

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ポートフォリオと自己紹介

プロフィール千羽はる(あわいの小説家) 1992年生まれ、埼玉県出身。 20代の頃、日本でも有数の頭脳(愛すべき変人?)が集う研究所でアルバイト後、パソコンが得意なことに気づき、文系エンジニアとしてIT系会社に就職。 涙と歯ぎしりのエンジニア研修後、財閥系企業に派遣されて、バックエンドエンジニアとして勤務。 エンジニアとしてエラーを起こしたりエラーコードを書いた己を呪ったりして働きながらも、「物書き」としての道を掴みたいと思うようになり、IT系会社を退職。 地元埼玉

    • 「夜見枯古書店心書譚」第二十二話

      「お兄ちゃんが来たの!?」 「うるさい病み上がり」 「美夜子ちゃーん、だめよ、そんなにいきなり起きちゃ! ご飯食べなきゃ!」 にわかに、夜見枯古書店が騒がしくなる。相変わらずの態勢で阿光は寝転がっており、違いといえば、私服姿の美夜子ぐらいだろう。 目覚めて、少し経った後に那々から兄が来たことを知らされて飛び起きた美夜子は、頭もぼさぼさ、顔もすっぴん、服は実は那々から借りたものなのでサイズが合わないという人前には出られない状況だった。 だが、そんなの気にしていられない

      • 「夜見枯古書店心書譚」第二十一話

        「お前、どうやって」 黒い鎌に狙われるのもそれを必死でかいくぐり、勢いのまま阿光の腰に抱き着いてきた。 「お兄ちゃんに助けてもらいました! それ以上はだめ!」 「は? あいつがどうやって……」 問答をしながらも、書き手がそう書いたのか、黒い鎌は美夜子を狙う。阿光は、それを喰いながら美夜子を逃がそうとした。 だが、そんな阿光の行動を拒否するように、美夜子は強く抱き着いてくる。 「私が! 書き換えます!」 そういって、美夜子が手をかざす。その場所に来た鎌が、ふわっと

        • 「夜見枯古書店心書譚」第二十話

          ――ワイルドハントを模した物語。 阿光は頭の中から知識をひねり出した。仮にも『バベルの言語』を読む人間である。これぐらいの知識は当然だった。 阿光が『物語喰らい』と言われる原因は、この『バベルの言語』にある。 『バベルの言語』とは、遥か昔、人が共通言語を持っていたころ、バベルの塔と呼ばれるものを作り、神をあがめようとした話に由来する。これは、失われた共通言語のことを指している。 本来、読み手を失ったはずのこの言語を、阿光は生まれたときから読んでいた。だからこそ、阿光は

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          「夜見枯古書店心書譚」第十九話

          美夜子は、孤児だ。夏笠の家の子ではない。 悟志の代わりに大切にしてもらうために、兄は身代わりになったのではないか? 両親の過保護がひどくなるにつれて、美夜子はそう思うようになっていった。 優しい人が損をする。たとえば、兄のような人が。たとえば……阿光のような人が。 あの兎は自分だ、と美夜子は唐突に気が付いた。 阿光が食べてくれた、あの化け物のような真っ黒い兎。 あれは、自分自身だ。どうしてと叫んだのは、私だ。 どうして、私を棄てちゃったの? お兄ちゃん……。

          「夜見枯古書店心書譚」第十九話

          「夜見枯古書店心書譚」第十八話

          ビリィィッ!! 「ひゃっ!」 美夜子が思わず耳を覆うほどの、まるで世界が破けるような音が周囲に響く。 その音がした途端に、眼前の幽霊は掻き消えてしまった。 「あれ……? いったい何が……」 「伏せろ!」 阿光が鋭く叫ぶと同時に、美夜子の頭が地面すれすれまで落とされる。いきなり近づいてきた地面に「きゃあああ!?」と悲鳴を上げた。 「ちょっと! 何する……」 怒りと共に見上げた先――阿光がいるはずの場所に、真っ黒い能面が浮かんでいた。 「…………え」 真っ黒い

          「夜見枯古書店心書譚」第十八話

          「夜見枯古書店心書譚」第十七話

          「もしかして、兄と一緒に行動してませんでした? その時」 「――意外だな、正解だ」 「何が意外ですか、失礼な。なんだか二人がやっていた無茶が想像ついてきましたよ……」 現実がここまでこじれてしまうと、なんでもずけずけ言えるようになるらしい。美夜子史上初めて、阿光に遠慮なしに言葉をぶつけていた。 今まであった遠慮なんてどっかに飛んで行ってしまったのだから、仕方がない。 「とりあえず、進んでみますか?」 「そうだな」 元が図書館なのだから、そんなに距離はないだろうと

          「夜見枯古書店心書譚」第十七話

          「夜見枯古書店心書譚」第十六話

          「夏笠さん、無理しないようにな! お兄さんも!」 「だ、大丈夫ですから。斎藤さん……」 鍵を開けてくれた兄の元同僚――名前は斎藤さん――は、おっかなびっくりな態勢でその場から逃げ出すようにして言い残して去っていった。 「……あれでいいのか図書館員」 「たぶん、ダメだと思います……」 せめてしばらく一緒にいるとかしなければいけないと思うのだが、よく昼間にちゃんと働けたものである。 とはいえ、気持ちはわかる。 この街の図書館は、異様に古い建物なのだ。噂によると戦前の

          「夜見枯古書店心書譚」第十六話

          「夜見枯古書店心書譚」第十五話

          「ええっとあの……そう、図書館です! 図書館の話です! そんなバカなことはもう考えませんから心配しないでください!」 「……どうかなぁ、美夜子ちゃん、無茶しそうだもんねぇ」 「同感」 「しませんってば!」 那々と阿光から疑いの目を向けられ、ブンブン両手を振って潔白を訴える。 事実、考えただけで行動に移していないのだから許してほしい。 美夜子はわざとコホンと咳払いをすると、話を本題へと戻した。 「えっと……兄の同僚だった人が、もし気になるなら調査してもいいかと言っ

          「夜見枯古書店心書譚」第十五話

          「夜見枯古書店心書譚」第十四話

          「……幽霊が出る?」 「きゃーこわい」 図書館の話を聞いて、本気で怖がっているらしい那々の背中をさすりながら、美夜子はこくんと頷いた。 「普通、図書館で死亡する例なんてないです。ただの噂か、または心書が原因なのか」 「噂だろ」 ほんとにがくがく細かく震えている那々には悪いが、美夜子もこの話は噂だろうと一蹴すべきか悩んだ。だが、この話には続きがある。 「幽霊についていくと、妙な部屋に入るらしいんです。そこで、幽霊に話しかけられるって。これって、あの兎の件と似ています

          「夜見枯古書店心書譚」第十四話

          「夜見枯古書店心書譚」第十三話

          兄と美夜子の高校は同じだ。 通学の利便性を考えると必然と高校は同じになってきただけであり、決して学力自慢ではない。というのも、美夜子が通うのはこの界隈では有名な進学校であった。 ここに阿光も通っていたのだと思うと、自分の将来が一瞬不安になるが、それでも将来安泰である。 兄のような無茶をしなければ、だが。 「……『心書』、って言ったっけ」 『心書』が、自分の内側からあぶりだした声を思い出す。 兄の道を否定する両親に対する不満と、自分もまた両親に理解されない孤独が生み

          「夜見枯古書店心書譚」第十三話

          「夜見枯古書店心書譚」第十二話

          「夏笠妹の本分は学生だろ。学生の範囲内で『心書』が関わることがあれば、僕は動くかもな」 ―――単純だったけど、美夜子は、その言葉で目の前の道が開けたような気がした。 「じゃあ、図書館だ! お邪魔しました、夜見枯さん!」 そう言ったときにはすでに頭の上から阿光の手は離れており、彼の態勢もまた、先ほど同じ腹立たしい本を寝ながら読む状態へと戻っていた。 美夜子の言葉に返事もせず無視を貫き、美夜子もまた、その状態に文句を言うことなく店から出る。 「……今の、励ましてくれたの

          「夜見枯古書店心書譚」第十二話

          「夜見枯古書店心書譚」第十一話

          「あたりだ」 「やっぱり……って言うか、目を見て喋ってくれません?」 阿光は、相変わらずソファに寝っ転がって本を読んでいた。 昨日出会った時と全く同じ状態であり、むしろ美夜子の自宅で見た姿の方が幻だったのではないかと思うほど、微動だにしない。 「目を見なきゃいちいち会話もできないのか?」 「目を見ずに会話する方が失礼だって教わらなかったんですか? っていうか、本を読みながら会話の内容について来れるんですか?」 「愚問だな。まったく問題ない。まずこれは会話じゃないか

          「夜見枯古書店心書譚」第十一話

          「夜見枯古書店心書譚」第十話

          「……孤独が、私に反応したってことですか?」 「意外に察しがいいな。その通りだ」 先程、痛烈な不思議体験をしてしまったせいか、阿光の言葉を鵜呑みにしそうになっている。けれども、今は阿光の語る以外に説明がつかないのも事実だった。 「じゃあ、あなたの手に現れた蛇は、なんなんですか?」 「蛇? ……見えたのか」 阿光が、一瞬だけ鋭い光を目元に浮かべる。だが、美夜子はちょうどマグカップを再び持ったところだったので、それに気づくことはなかった。 「え? 見えましたけど」

          「夜見枯古書店心書譚」第十話

          「夜見枯古書店心書譚」第九話

          ただ、普通の蛇ではない。胴体こそ靄がかっているものの、その顎は阿光の手に添えるように親しげに掌の上にある。 そして、確かにはっきりと見えた。 顎が、にたりと笑ったのを。 「昼間の答えを返してやるよ、夏笠妹。僕は」 阿光が手を伸ばす。その動作とともに蛇が伸びる。顎が広がる。 それは蛇の範疇を超え、阿光の身長さえも超えた巨大な顎となって、軽自動車ほどの大きさだったウサギに襲い掛かった。 「―――物語喰らいだ」 それは、たった一瞬の出来事だった。 美夜子が呆然と見守

          「夜見枯古書店心書譚」第九話

          「夜見枯古書店心書譚」第八話

          「なぁ……っ!?」 「不法侵入、失礼」 阿光はあっという間に、美夜子の手からするりとハサミを抜き取ってしまう。 「っ! 返して! あいつを壊さなきゃ! ……はうっ!?」 ハサミを取られて暴れだそうとした美夜子だったが、額に痛烈なデコピンを浴びせられて意識が一瞬真っ白になる。 ――そして、我に返った。 心の中にあった真っ黒な声も暴力性も、今のデコピン一つで逃げだすように消え去る。 「あれ……。私、どうしてあんなに……」 壊したかったんだろう。 「やっとまともに

          「夜見枯古書店心書譚」第八話