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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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2019年9月の記事一覧

そろそろ香ってくるのは金木犀のはずだけど、今日は林檎の香りを胸いっぱいに吸い込んだ

「ルーティーン」って言葉はこの数年で一気に広まったけど、私にも日々の生活の中で細かいルーティーンがある。 たとえば仕事を終えるとき。PCで仕事をしてるので立ち上げてるアプリを全部消したり要らない書類やファイルを整理してから電源を落とす。デスクの上を軽く片付けて、仕事中は外してるシャネルのピアスと同じくシャネルのJ12をつける。デスクの端っこにはサンローランのミラーが置いてある。メイク直し用のパウダーをぱふぱふっとはたいて、リップを塗り直す。最近のお気に入りはテラコッタ色のル

恋のゆくえ

そのシルエットを、匂いを、わたしが忘れるはずがなかった。 午後22時、×××通り。目の前を通ったのは、まぎれもなく、あなただった。 5年前とは髪型も違う。当然、纏うものだってまるきり変わっていたのに、わたしの両眼はあなたの姿かたちを射止めて離さない。そこに、探し続けたあなたがいる。あいたくて、おそろしくて、それでも焦がれずにいられなかった、かつての恋人がいたのだ。 あなたは、ちいさなかばんをさげていた。ああ、と思う。多分あれは、お弁当。風の噂に聞いた、料理上手な伴侶のシル

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札幌モエレ沼公園。年に一度、訪れるたびに表情が変わる不思議な公園。

両手ひろげた分に幸せを

大切にしたい人がいる。 妻、それから家族。 仲間、憧れ、親切にしてくれた人。 ぼくは人よりもその範囲が小さいのかもしれない。「国を守る」なんていう大それたことは言えない。たくさんの人の先頭に立ってみんなを救うための行動を起こすことなんてできない。人には人の器がある。ぼくはきっと両手をひろげた分くらいの人たちしか大切にできないのだと思う。だからこそ、その中にいる人たちだけはどうしても守りたい。一人ひとりに対する想いがぎゅっと詰まっている。 木陰に落ちた小さな陽だまり。 そ

自分が半分なくなった

大学進学で、東京でのひとり暮らしを始めた。 2年生になるころにはバイト先の子と付き合ったり、バイト先のお客さんと付き合ったり、初めて会った子と寝たり、連絡先を知らない子と寝たり、名前を知らない子と寝るくらい、わかりやすく東京に流されていた。 夏休みも後半になった9月、帰省すると嘘をついて恋人とは違う女の人と暮らした。 14歳から19歳まで付き合った、元カノ。 彼女は地元で進学して、遠距離になって、お互いもっとたくさんのことを経験した方がいいんじゃないかみたいな理由で、

文学 「人間失格」

驚いた。 太宰治は、今まで「走れメロス」ぐらいしか読んだことはなく、その奇怪なストーリーにはほとほと嫌気が刺してしまい、ただの暑苦しい男、ぐらいの印象しか残っていなかった。 それが、どうだ。 初めて、人間失格を読んでいるのだが、なんと村上作品の主人公に似たものか。 これは、手記のようなものだろうか。 太宰の語る「恥の多い人生」の、馴れ初めを語ったものであり、同時に自分の生涯の言い訳をまるごと作品にしてしまったものなのだが、なんと孤独で陰鬱で、屈折しているのか。 その妙

ディズニーランドに住もうと思うの

昔憧れていた先輩が結婚したらしい。プロポーズはディズニーランドのシンデレラ城の前。へえ、そういう感じの人だったんだ。サプライズとか苦手そうだなって思ってた。先輩に憧れていた時期は確かにあったけれど、私は先輩のことを知ろうとはしていなかった。自分の目に映る先輩の姿だけを綺麗に形づくって憧れに変換していた。なあんだ、憧れなんてただの傲慢だな。結婚したって人づてにきいても嬉しくも悲しくもないや。 あいつにはもう新しい彼女が出来たらしい。あの子のことをあんなに大事そうにしていたのに

君とタピオカ飲みに行きたかったなあ

とにかく認められたかった私がいて、とにかく何でも良いから見栄を張って体裁を保ちたかった君がいた。 私は自分がなくて、君は自信がなかった。行きたい場所も食べたいものもやりたいことも面白いくらいに全部惰性で、誰かの真似事ばかりで、時間を共有しているのに自分達のものにはできなくて、一緒にいても寂しい人間が二人存在していて、つまらなくて、でも離れられなくて一緒にいた。 どうして元カノの話するの。 どうして女の子と二人で遊ぶの。 どうして女の子部屋に上げるの。 どうしてほかの人に私

光色の約束

大好きで大好きでたまらなかった、ひかり。 今年もまたやってきた夏。 容赦ない太陽の光が、肌を突き刺す。 別れてから、一年経ったというのに、夏の暑さが、ひかりを思い出させるのだろうか? 「……シュウト?」 照り返しの厳しいアスファルト。 聞こえないはずの、ひかりの声が聞こえてくるなんて。 重症だな、俺は。 滲み出る汗を拭って、空を見上げたとき……。 「柊人(しゅうと)ってば、無視するなんて、あんまりじゃない?」 そこには一年前と変わらない、ひかりの笑顔があった。

月を見上げる

今日は中秋の名月だ。 わたしの家では、毎年お月見の日にはベランダに台を用意して、ススキと一緒にお月見団子と果物と自分の好きなお菓子などが入ったお供え物を用意している。 そして、一年見守っていてくれてありがとうございます。また次のお月見までどうか見守っていて下さい。と手を合わせるのだ。 今年は、去年約束したとおり就職の報告をお月さまにした。 今日の夜風は夏の夜の風ではなかった。秋を感じさせるちょっと切なく冷たい空気。 そんな澄んだ空気に真ん丸なお月様が黄金色に輝いていた。 わ

【掌編小説】Fコード

僕はもう二十九歳で大人になってしまったけれど、いまでもときどき学生時代のことを思い出す。 十八歳。すべてのものごとが非生産的な方向に向かっていた時代。 僕は大学に通いながら週に二回、予備校でアルバイトをしていた。 そこでの仕事は、一言で言ってしまえば雑用のようなものだった。授業前の黒板の清掃、塾内便の記録用紙のファイリング、模試の申込受付、その他職員がやるに及ばない細かな仕事は何でもした。 慣れないスーツを着て、先輩から窓口業務の仕方や大教室でのチュートリアルの仕方を教わ

”つめたい”と”あたたかい”

昔の恋人と久しぶりに会った。 別れてからもう3年になるし、今更どうこうなんてことはない。 ただなんとなく、何ヶ月かの間隔を空けて、季節に1回くらい飲みに行く。 前回は梅雨が始まってすぐだった。 いつもの居酒屋、ビールで乾杯。この夏はどうだったかなんて話始める。 でも互いに色っぽい話なんてひとつもなかった。増税前に洗濯機を買い替えたいだとか、あのドラマの黒幕はもう一捻りほしかったとか、これ前も話したっけ?なんて、気の抜けたことばかりを話した。 居酒屋を出たあと

小野カズマ氏についての話。

先日投稿した文章で名前の出てこなかった残り2人の役者の事について書こうと思う。その2人は小野カズマ氏と坂本和という名前で排気口は私を含めて7人いるという事になる。特に彼らは2人は最初っからいるので敬意を込めてそれぞれ別々に書こうと思う。まずは小野カズマ氏から。  小野カズマ(以下、カズマさん)と私が初めて出会ったのは18歳の頃である。同じ大学に入学してカズマさんと私は大学の寮に住んでいた。自治寮という学生だけで運営される寮だ。廃墟になったマンションに勝手に学生が住んでいる。

エッセイ 「I.C.Q」

名前はもう覚えていないけど、コーラを飲んでゲフと盛大にゲップをするたびに思い出す女性がいる。 当時高校3年生だった私は、秋頃には大学合格が決まり、社会勉強の一環として近くのスーパーでレジ打ちのアルバイトをすることにした。 商品のバーコードを読んで、お金を頂きお釣りを返すだけの極々シンプルな動作なのに、レジ打ちを間違えたり、返金処理に手間取ったり、オレンジとデコポンの区別がつかなかったり、それはそれは仕事のできない学生だった。 (今でもお金の計算が苦手なので、できれば一生