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伸びしろを伸ばしてもらえるしあわせ

フリーライター&イラストレーターの陽菜ひなひよ子です。

今日のテーマは「赤入れ」(修正依頼)について。

「赤字を入れられる」ことは、商業的なクリエイターの仕事においては避けては通れない。多すぎると絶望するが、まったくなくても拍子抜けする。

今日はその「赤入れ」について考えてみたい。


原稿への赤字をどう捉えるか


赤字の入れ方にも個性がある。本文と同じボリュームで一面真っ赤に入れて、もはやライターの作か編集者の作なのか不明になるほどのこともあれば、メールで箇条書きに「ここをこうして欲しい」と指示だけ書き、こちらに委ねてくださることもある。

わたしはイラストでも文章でも、数えきれないほどの「納品」を繰り返している。そのたびに赤を入れられて対処してきた。

ライターの多くは「赤字を入れられると人格を否定されたような気持ちになる」というが、わたしはそういう気持ちになったことがない。それはわたしがもともとイラストレーターだったからではないか、と考えている。

イラストではどんなに赤を入れられても「人格を否定された」と感じる人はまれである。イラストは文章と比較して、作品と人格を分けて捉えやすいのだろう。それに慣れているせいか、わたしは赤入れは「作品に対してのもの」だと割り切って考えられる。

それでも、赤字を入れられるのはうれしくはない。大量の赤字を前に「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と悩んだこともある。

でも最近、赤字を入れてもらえるのは幸せなことなのだと考えられるようになった。


赤が入らない原稿は本当によい原稿なのか


実はわたしは、文章に関してはあまり赤を入れられたことがない。上の「本文と同じボリュームで一面真っ赤」は人から聞いたものであり、実体験ではないのだ。

ライターになりたての頃にクラウドソーシングで受けた仕事では、割とよく赤字が入った。媒体の細かなレギュレーションに沿っていないからと、なかなか評価されずに落ち込んだ。

しかし、その後出版社や新聞社と仕事をはじめると、ほとんど赤字が入らなくなった。大抵「陽菜さんの文章は直すところがない」と言われるのだ。

拙著の担当編集さんにクラウドソーシング時代の話をすると、「そんなことを気にしなくていいです」と言っていただき、安心して本一冊分の執筆ができた。

連載している媒体の編集さんからもありがたい言葉をいただくことが多い。お仕事を下さるクライアントはみなさん評価下さっているのを感じる。本当にありがたい。

わたしはもともとかなり素直な性格なので、言葉通り受け取った。自分の文章はこれでいい、と思うようになったのだ。


「赤字」の多いライターはコスパが悪い?


レギュラーで文章の仕事をしている媒体で、一件だけ赤字の入る媒体がある。でもそこも、決してわたしを評価してくれていないわけではない。驚くことに、わたしのほうから頼んだわけではないのに原稿料を上げてくださったのだ。

最初の原稿を納品したときに「漫画家なのにおもしろい原稿を書く」と話題になったそうで、実際にわたしの記事はよく読まれたそうだ。

でも赤字は毎回入る。求める記事の基準が高いのだろう。また、ライターの評価は「取材でおもしろい話を聞き出せるかどうか」であり、文章を整えるのは編集者の仕事と割り切っているのかもしれない。

前述の通り、わたしは赤字が入っても人格否定とは思わないが、編集さんに手間をかけさせるのは申し訳ないし、正直しんどい。でも文章がよくなるのはありがたい。

そんなこんなで、自分はそれなりに「できる」ライターだと信じてやってきたわけであるが、そこへ飛び込んできたこの記事。


お金でも赤字は買えない


この記事を読んで思い出したのは、あるWeb媒体での話。赤字が入るライターはコスパが悪いからすぐにクビを切るという。わたしはその媒体でも赤字は入らなかった。

媒体の求める水準に達していないライターを切るのは当然のことではある。それでも、わたしの中にはモヤモヤッとした気持ちが残った。

赤字を入れて「育ててもらえる」のはすごくありがたいことだったんだなと、前述の媒体に改めて感謝の気持ちが生まれた。

(赤字の多い媒体はライターにとってもコスパが良くないので、実は続けるのはしんどいなぁとちょっと思っていたところだったのだ)

昨年あるライター講座に通ったときのこと。さぞかし真っ赤になって原稿が戻るかと思いきや、やっぱり「直すところがない」「6,000文字越の長さを感じない」とほめられて戻った。ほかのメンバーはそれなりに赤字が入っていたので、手を抜かれたわけではない。

お金を払っても赤字は買えない。だとしたら、原稿料をいただきながら赤字をもらえる環境は、大事にしなくてはバチが当たるよね。

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