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物語のバックストーリーはどう考え、また削ぎ落とすか

 創作第三の月後半。それまで出したアイデアに全体的に肉付けが行われた。その結果最終的には「この物語はなんなのか」の全体像が見えてきた。

創作第三の月後半

アニメ『鋼の錬金術士』を分析

 ストーリーテリングの勉強をしていると、他の作品鑑賞についても視点が変わり、着眼点が増える。私は「作品」ならばどんな媒体でも共感の扉がガバガバになり、感情が動かされすぎること自体が辛くなってしまう、面倒臭いところがある。「物語制作」を体系的に学び始めてから、冷静に分析的に見る能力が育まれて鑑賞できる作品の幅が広がった。これは作り出す以上に吸収もしなくてはいけない創作者にとってありがたいことだ。

 そんな中、作業の合間にアニメ『鋼の錬金術士(原作:荒川弘)』をふと見始めた。私が十代の頃に流行った作品で、当時は姉が友達から借りてきていた漫画を読んでいたはずだが、十代の私にはスチームパンク・ダークファンタジーは早すぎたようで途中で断念している。しかし20才前後では澁澤龍彦だとか錬金術関連の本を嗜好してたので人間はどう変わるかわからない。おそらくある種の「血」「痛み」「鬱」の表現方法に苦手さがある気がする。それは今でもそうである。

鋼の錬金術士はストーリーテリングの教科書

 私は主にロバート・マッキー氏のストーリーテリング手法に則って制作を進めていて、それと照らし合わせながら『鋼の錬金術士』を鑑賞すると、なぜこの作品が名作と言われるのかがよくわかった。なぜそう思うのか、以下に当時のメモ書きを掲載する。

  • 主人公たち(エドとアル)の願いがシンプル、主人公たちの願いが叶う、ハッピーエンドである。悪が滅び、希望で終わる。

  • 善にある主要人物が死なない。もしくは本人が望んだ形で死ぬ(こいつが死んだから物語が動き出すんだ……というあのキャラクター以外は)。

  • 初期の動機(契機事件:ある人の死)が最後まで活用される。

  • ビートとシーンの構成を壊さない(アクションに対して必ずリアクションがおこり、それが繰り返されてシーンが構成されている)

  • 主人公たちが物語世界の中で考えうる限りの極限状態を味わう(読者を極限状態に連れていってくれる)

  • キャラ的にも土地的にも、出したコマを全て使い切って終わる。

  • 展開に納得できないところが見当たらない。

  • 画力と作者が表現したいものが調和している。

  • 「等価交換」「人体錬成は禁忌」などのルールがシンプルで、最後まで貫かれ、活用される。

  • 作中で、敵も味方も「なぜ?」と問うたことへの全ての答えが用意されている。全員の結末が用意されている。聴衆はそれに対して納得できる。

  • 物語の外の「科学」を持ち込まない。

  • 不必要な箇所を無視されてもさほど気にならない。

  • ホラー、スリラー要素はあっても、鬱展開に陥りすぎない(始めにキメラの概念が出てきた時はちょっと鬱になったけど)

  • 物語における「善の中心」が終始攻撃を受けるが、ぶれない。この場合はエドとアルがぶれない、迷わない。迷ったことで取り返しがつかなくなるということがない(ように見える)。

  • 常に選択が用意されている。選択の内容が「善か悪か」ではなく「ましな方の悪」なので終始ハラハラする。

  • 悪に滅びるだけの理由が与えられている。ここまでやったんだから死んでいい、となる。

  • 錬金術、神秘主義についてのキーワードを押さえつつ、エンターテイメント作品である。

  • 漫画27巻、アニメ64話でスッキリ完結する。長すぎる作品はもはや別の何か。

 以上、鋼錬への敬意を込めて。次の項目に移ろう。


バックストーリーや脇役たちの設定を作り込む

登場人物同士の関係をナラティブにする

 主人公とヒロイン、主人公と他の登場人物の関係を相関図として用意していたものを、具体的なエピソードを立ち上げて人間性を作り上げていった。

 図のように、キャラクターに持たせたい要素をいったん書き出し、際立たせたい性質を選び出して、「その性質を表せるようなエピソードを作るとしたらどうなるか」を考えていった。

矢印が伸びているマスの中がそれぞれ一個のキャラクター

 作り出した性質も、全部採用したのではなくて、最終的に邪魔になるものは消したり、考えた時は重要だと思っていなかったものをのちのち拾い上げて人格に味付けを行ったりした。

ヒロインの設定

 物語の冒頭では、主人公である兄とその影の存在となる妹の関係性にフォーカスしていたので、ヒロインの設計に注力した。

  • ヒロインの生い立ち

  • ヒロインの故郷についての描写

  • ヒロインに持たせる小道具

  • ヒロインとその周りの人々の関係性

 ただ、物語の中でのヒロインの役割は決まっていたけれど、「この女はどういうやつで、どんな発言をするのか」というのは、その後に続く執筆と推敲のなかで練り上げて行った。またもマッキー氏の金言を引き合いに出すが、氏によると「物語のテーマ > シーンの役割 > ビートの構成」こそが始めに考慮するべきなのであって、「ダイアローグを書くのは最後」なのだ。

 とは言っても検討を進めるうちにふとキャラクター同士の会話が立ち上がってくるものなので「このシーンはこういう感じの会話の流れにしたい」という素描程度にダイアローグを扱っていた。

キーパーソン「偉い人」の設定

 第三の月前半で経験したように、物語を飛翔させる力を持ったこのキャラクターがなんなのか、もう少し向き合うことにした。

 当初の想定では、このキャラクターはいわばハリーポッターでいうところの「ダンブルドア」だった。主人公の師であり父的な存在ではあってもあくまで背景の一部。最終的にはあのハリーポッターフォーメーション(ハリー・ロン・ハーマイオニーの仲良し3人組)の一角をなす能動的な存在にまでのしあがる。それだけに主人公を食わないようにきちんと居場所を作り、物語の別の軸の中で存分に暴れていただくように調整していった。

 そのため、力にあふれたこの登場人物に関しては「変さ」をある程度強調することにした。初めは思いっきりヤバいやつとして、暴力的、キレキレのエピソードを用意した。物語の中での必然性に合わせて、さらに振り切ったり、振り切る方向を変えたり、トーンダウンしたり、没にしたりした。この考え方は他のバックストーリーを考えだし、そぎ落とし、固めていく際にも参考になった。

 物語を書き始めた頃は予想していなかったが、だんだんと「主人公の物語」から「3人の物語」に作り替えられていく。サブテーマに「幸せな三角関係」を意識したほどだ。

 物語のテーマ、サブテーマは、書き進むうちに見えてくることが多い。テーマが見つかってから書き始める必要はない。近藤康太郎氏の言葉を借りるならば、「初めからわかっているなら書く必要がない」

突如として全話の骨格が組み上がる

 3ヶ月近くも物語の坩堝をかき混ぜてきた。頭の中にははち切れんばかりの世界への期待と大冒険が渦巻いてくる。ここで私はまだまだ確定できないとは思いつつも、整理するために、物語の流れを一旦全て外に出してみることにした。

 作成した構成表が以下である。遠くからズームで撮るという荒技で、当時のノートをご覧に入れつつ、文字はぼかすことに成功した。ドヤァ

見ての通り、アナログ作業である。
  • 左上から開始、上から下に進む。

  • 付箋一枚ごとにその項目で書きたいシーンや舞台になる場所を書いた。

  • 付箋一枚につき4000〜5000文字を書こうと思っていた。

  • 3色に分かれているのは、展開的に3幕構成になるかな、となんとなく思っていたのだった。脚本であれば妥当だろうけど、結局は5章構成になった。

  • 付箋作業では60話が考えられたが、最終的には32話になった。削ったり統合されたシーンがある。

  • この時の作業から、無くなったシーンも新たにできたシーンもある。

  • 書き出してみることで、物語が俯瞰でき、物語が目指している方向が浮かび上がってきていることに気がついた。

  • 大きな流れを意識しながら細かいところの強弱をつけながら物語を作ることができるようになった。

  • 物語の向かう方向性は、80%くらいは確定した。

「5000文字x60シーンで、最終的には30万文字超えたくらいで仕上がるな」と予想をつけて、最終的にそれくらいに仕上がったのだから、自分の勘所も馬鹿にできない。



 何者でもないアラフォー女性が、35万文字の物語を完成させるためにやった全努力をマガジンにまとめています。少しでも面白いと思っていただけたら、スキ&フォローを頂けますと嬉しいです。




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