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本と活字と紙の狭間で ~自費出版アドバイザーの独り言~(6)

生きた証たち

 この仕事をしていると、発刊後にお礼をいただくことが多々ある。それは菓子折や著者が趣味としている手芸作品であったり、コンサートチケットだったり、野菜にお米に松茸❢ ❢に、何故かタイツや稀に商品券だったりする。一旦は「いえいえ、お気遣いなく」とお断りするのだが、2度3度お断りするのも失礼なので有難く頂戴することにしている。

 菓子折は担当したスタッフ全員に渡して労わせてもらっているのだが、食べ物以外の品物の場合はそういう訳にもいかず保管しているものも●●●ある。

 前回「思い出深い1本」と締めくくったそれは、自分史の自費出版だった。著者曰く「終活で全て片付けてしまったので遺産分けするものもないし、自分の葬式の香典返しに自分史を会葬者に渡したい」とのことだった。

 現役時代は営林署に勤務されていて、木への愛情、特に木曽の五木ごぼく(ヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキ・ネズコ)への想いが深く感じられる内容だったことから表紙の題字の色を深緑に、同じ色味の「里紙
(すぎ)」を見返しに選び、趣味として絵画を嗜んでいらっしゃるというので中扉にはカンバス地を思わせる様な「TS-1(R-5)」を、本文は手触りを考えて「モンテルキア」を使用することにした。

自分史タイトル

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タントセレクト

 発刊後、嬉しそうな著者から〝掛軸〟と〝(置物の)石〟をいただいたのだが、石は木曽の山林で見つけたという20cmほどのもので、まるで茅葺き屋根の古民家を映したような姿をしていた。石の品評会で賞をもらったそうである。その石に合わせるように掛軸の書は『奥の細道』の一遍だった(名のあるものではなくホッとしたが)。

 ご子息とご令嬢がいらっしゃるので、そちらへお譲りしてはどうかとの提案に、それぞれ独立して居を構えていてどちらの家にも床の間がないから要らないと言われたとのことだった。

 ではいただきますと言うと、「これで加藤さんは僕に囚われたことになるね」と笑っておっしゃったその言葉から、書籍という作品以外の遺したい・伝えたいという思いが伝わってきた。『忘れないで欲しい』と。

 私が生きている限りどちらも処分することはあり得ない。だから決して忘れることはないだろう(仮に認知症になったとしてもしっかり海馬に記憶されている筈)。やがて彼が天に召されたとしても〝忘れられる死〟は私の死が訪れるまでは来ないのだ。


 このようにいただいた思い出深いものが増えていくにつれ、いつか「書籍」と、著者の生きた証のような作品群を一緒に並べた自費出版作品展を開きたいとも考えている。

 

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