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物語を体験する時の抵抗感とハードルについて

「劇場に観にいくのはハードルが高い」そんな呟きを目にしました。
確かに劇場は、目の前で繰り広げられる物語を体で受け止める節があるので「逃げられない」感はとても強いです。

また小劇場だけに限って見ると、各劇団特有の空気やネタなど、一見さんは理解できない内容もあると思うのです。これがいわゆる「ハードルが高い」と思い抵抗がある要因なのではないか、と考えます。

この問題は私が知る限り定期的に話題になっていて、なおかつ解決できていない問題の一つと認識しています。
私は「全ての演劇が万人に受け入れられるようにしよう!」とは思っておらず、むしろいわゆる内輪受けに需要があるのなら別に良いのでは?と思っている立場なのですが(これが可視化しにくいのは問題だと思っているけれど)最近様々な方とスペースなどでお話しさせていただいて「現代だからこその劇場や自分自身が動くことの抵抗感ってあるのでは?」と考えました。

これから体験型コンテンツを作っていこうとしている弊社としても考えねばならない部分ですがうまく言語化できていない気がするので「そういうこともあるよね」という感じで読んでいただければ幸いです。

演劇(小劇場)の「内輪」とは誰なのか

小劇場の内輪には通うことでしか入れない

私が主に活動している小劇場と呼ばれる演劇分野。言葉の定義としては曖昧な状態なのですが、ここでは「キャパシティ100以下くらいの劇場で公演を行なっている劇団」と定義します。

演劇の特徴として、オンライン配信などを除き基本的に「自分の体が劇場に行って大勢がいる空間の中で物語を体験する」こととなります。
演劇はお客様と共に創り出す、という言葉は知られていますが、お客様の反応などで役者の芝居が変わるというのは本当のことです。
当然、役者も人間ですので温かく迎え入れてくれる、会場があったまっている状態の方がお芝居はしやすい。その「会場があったまった状態をより創り出す」というのが、内輪受けのネタなのではないかと思っています。

この場合、劇団が想定しているお客様は「自分達の芝居を何度も見てくれていて、なおかつ良いと思ってくださっている方」となるのです。そしてこの方々は内輪の人になります。

となると、その劇団の内輪となるためには何回も舞台に通って内輪ネタを理解しなければならない。内輪に入るためには何度も通わなきゃいけない、だけど一回見て腑に落ちない部分があるとリピート(ここでは劇団単位)は難しい。これが「内輪ネタがあって冷めた」という原因だと思います。
……と、この話は多くの方が「当然だろ何今更語っているねん」という感じですよね。でもちょっと整理にお付き合いください。

もう一つの「内輪に入れない」と感じる原因

上記は、劇団対お客様の構図での内輪でした。もう一つの構図は「お客様対お客様」だと考えています。

内輪に入っているお客様は、ある種劇団と親密な関係で、内輪のお客様同士のつながりもあるかもしれない。受付で制作の方とおしゃべりしていたり、(今はあまりないけれど)面会で役者に認知されていたり……。その空気感にやられちゃうところってあると思うんですよね。
人間の基本的な心理として、所属がないというのは不安になるものです。自分以外の人がこの世界のルールをわかっていて、自分だけがわかっていないとなると私はそれだけで不安になってしまう。

これが、上演中以外での「内輪からの疎外感」の要因じゃないですか??
これが重なると、劇団自体に嫌な印象を持ってしまう、というのは仕方ないのかな、と思います。

私個人としては、劇団と内輪の関係であるお客様がそういうノリを求めていて需要があるならどんどんやればいいじゃんと思っています。テレビに出ないアーティスト的な、知ってるやつだけ知ってればいいっていう。
ただ、知らずに迷い込んでしまうとお互いハッピーになれないから、そこは注意したいねって感じです。

演劇へのハードルは「生身の自分の居心地の悪さ」を知ってしまっているから?

ここまでで、上演中の「内輪ネタ」と、劇場全体にある「内輪」を言語化しました。ちょっとすっきりした。
ここで、現代だからこその抵抗感やハードルについて考えたいと思います。

ほんの数十年前まで、人間にはアバターという概念がほぼなかったと推測しています。存在するのは「自分」で、何をするにも自分が動かなければならない、インターネットがインフラ化していない時代です。

現在のTwitterやYoutubeなどのSNSでは、「ちょっと合わないな」と思ったらすぐに離脱することが可能です。そして私たちはそれに慣れている。
合わないと思ってすぐに離脱して忘れる、というのが多いのではないでしょうか。よっぽど強烈なのはアレだけどね。

対して、基本的に生身の体で赴いて空間に存在する演劇は、これもよく言われていることですが時代の波に逆らっています。
時代の波への逆らいが、日常で感じにくくなった不快感を増幅して行っているのではないか……と私は考えています。

解決策としてすぐ離脱できるにすればいいじゃん!というのは結構難易度高いので、お客様の多くがルールをわかっている状態でも文章や画像にするとか、初見の方でも居心地が悪くならない程度の事前共有が必須なのかな、と思います。

体験型を作るにあたって、どう運営していけばいいのか

ここまで、私が主軸としている演劇を軸に内輪感とハードルの高さについて書いてきました。
ここからは、弊社がこれから体験型コンテンツを作るにあたって考えているハードルや抵抗感を考えていこうと思います。

最初の一歩、めっちゃ勇気いる

演劇と体験型コンテンツは、多くの場合生身の体を使って物語世界に入っていくことです。先述したように、離脱のしにくさや自分が暗黙のルールをわかっていない環境などからめちゃくちゃハードルが上がる。そしてこのハードルは、形は違えど誰もが何かしらのコンテンツで体験していることであり、抵抗感が生まれる……。

高校生の時初めてPerfumeのライブに行った時やリアル脱出ゲーム会場に行った時、知らない劇団の舞台なんかに行った時もう私はどうしてもあわあわしてしまってもう新しい場所に踏み込むのに1週間分くらいのエネルギーが必要なんですよね……コミュ障……。

勇気を出して行ってあわあわオタオタしてそれを上回る、内輪に入りたいと願うほどの「楽しい!!」が提供されるか、それができるのか。

きっと「楽しい!!」と思えるものは何度も行きたくなるし、参加のハードルに満たない満足ならリピートはないと思う。

この一歩目でどれだけ楽しめるのか、やっぱりそこは勝負だなって思うんだな。

内輪に入るために必要なコンテンツ

さあここで問題です!!デデドン!!
どうやったらその「楽しい!!」というのを一般化して様々なコンテンツにできるのか!?結論はこの記事では出ませんのでそのつもりで読んでね!

まず、現代においてのコミュニティの重要性というものがあります。
たくさんの本が出版されていることもあるように、一つの人やコンテンツ、場所の周りにあるコミュニティは現代においてとても大切なことです。

代表的な形としてファンクラブがありますが、SNSのフォロワーなんかもコミュニティに入ってくると考えています。一つのコトに対して何らかの肯定的なアクションを取る集団という感じでしょうか。
これがいわゆる内輪だと仮に定義します。

SNSの場合だと、過去のログが残っていたりファンクラブだと入る前に情報収集ができたりと、意外とすんなりコミュニティに入れます。
先ほども「現代は離脱がしやすい」と言いましたが、SNSなどのコンテンツは「離脱しやすく参入しやすい」というのが大きな特徴だと考えています。

離脱しやすく参入しやすい=ゆるゆるとつながるコミュニティ(顔が見えない場合もある)がマジョリティとなっていると考えると、
演劇や体験型のコンテンツは「離脱しにくく参入しにくい=ガッツリとつながるコミュニティ」ということになるのか??
この「ガッツリ」がどこまでかというのが問題ですが、生身同士で空間を共有したり多くの物品を買ったり、という感じでしょうか。

離脱しにくく参入しにくいコンテンツの内輪になるためには、まず内輪のルールを知らなければなりません。ただ、内輪のルールというのは全てが暗黙の了解ではないのです。

SNS系のゆるゆるとつながるコミュニティは、まずコミュニティに入る前の段階が多くのステップで構成されていると感じます。
というかこれはマーケティング論で既に確立されていて、AIDMAやAISASと呼ばれるものです。

AIDMA・AISASの概要。詳しくはこちらの記事へ!

今回はAISASモデルが適切かと思いますのでAISAS軸に話していきます。

AISASモデルの特徴は、「Search」と「Share」です。
これぞ現代ネット社会!とりあえずグーグル先生に聞いてTwitterやInstagramでシェアハピ!このシェアハピが肝だったりします。

基本的に、グーグル先生が知らない情報を内輪に入っていない人は知ることはできません。(SEOが廃れてきているって言われるけど分野によってはまだ大事だと思っている)グーグル先生はSNSの情報もある程度取ってくれるので、SNSでシェアハピされればグーグル先生から認知をもらえます。

AIDMAモデルだとSearchが先でShareが後になる(後から内輪に入る人の目線)になっていますが、元から内輪にいる人のShareがとても重要になってくるのです。(UGC=User Generated Content=一般のユーザーによって造られたりシェアされたコンテンツ、という概念も入ってきます)

このShareとSearchの部分をどれだけ盛り上げられるか、というのが内輪への入りやすさの肝になってくると思うのです。

ShareとSearchがある程度あれば、おおよそ自分に合うかどうかわかる

ここまで4000字!長かったですねすみません。そろそろまとめに入ります。

整理すると

  • 内輪=一つのコトに対して何らかの肯定的なアクションを取る集団

  • 内輪のノリがわからないと疎外感につながり結果的に「楽しくない」となる

  • ゆるゆるとしたつながりであるSNSに慣れた現代、演劇などのリアルコンテンツは参入と離脱がしにくくハードルや抵抗感を感じる

  • コンテンツごとにコミュニティ(内輪)が多くの場合存在する

  • Google検索で引っかからないと内輪の様子がわからずさらにハードルが上る

となります。

ShareとSearchを強化することによっておおよそ解消できるのでは?
内輪のノリはTwitterで公開すれば、自分が馴染めるかどうかの不安は軽減しますし、なんならSNSでやり取りして内輪に知り合いを作った状態で参入することができて疎外感を感じにくくなると同時に事前の情報収集が可能。
じゃあみんなSNSでUGCが広まるようにすれば新規参入も得やすいね☆

……なーんて言ってるがな!!!それが難しいのが体験型コンテンツと演劇なんだよ!!!

先ほどこの2つの特徴を「生身の体を使って物語世界に入っていくこと」と言いましたがもう一つ共通点があります。
それは「ネタバレが命取り」

SearchとShereで何を知りたいかって、中身がどれだけのものなのかですよ。演劇も、特に体験型(ここではイマーシブシアターなど)は内容を知ってしまうと最悪ネタバレに触れてしまって提供したい体験ができなくなってしまう……。

参入しやすく離脱しやすいインターネット型の時代の波に逆らっているだけではなく、マーケティング理論からも背いてしまっています。
こりゃ大変だよ本当に、一般的に手に入る知識で応用が難しい。

ただ、ShareとSearchがある程度あれば、おおよそ自分に合うかどうかわかるというのは真理だと思っています。
なら、何をSearchで引っ掛けて抵抗感やハードルを低くするか、Shareでどんな面を押し出して欲しいか、それを拡散する仕組みは??
となってくる
と思うのです。

「コンテンツ作れば勝手にツイートしてくれるでしょ!」と思ってしまうのもわかるのですが、どこを重点的に拡散して欲しいかの導線をコンテンツごとにきちんと引いてそれに乗っかりやすくするのが大切だな、と。

特に演劇や体験型は細分化するとキリがないコンテンツです。
一つ一つの作品の良さを知ってもらい参加ハードルを下げシェアハピできるか。

それが今後の課題だと思っています。

超ながくなっちゃった!!
お付き合いいただきありがとうございました!!

いただいたお金は!!!全て舞台裏のためのお金にします!!!!殺人鬼もびっくり☆真っ赤っかな帳簿からの脱却を目指して……!!!