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【物語】遠吠え #2~親友シロとの思い出の日々~

私は野良犬
寒空に震えながらも
餌を得て
ねぐらを探し
自分の力で生きている

私には親友がいる
「しろ」という名の
綱につながれ
いつもうなだれている雑種の犬が

私は「しろ」に会いに行く
私を見つけると
「しろ」は悲しそうな顔にぱっと笑顔を
咲かせ
つながれた綱を精一杯ひっぱって
私を迎えてくれる

「しろ 元気かい?」
私の言葉に「しろ」はしっぽをちぎれるほど振ってくれる

私は「しろ」に昨日やっと見つけた餌を
すばしっこい野良猫に
取られそうになったこと

野良猫が咥えてクルっと背を向けた瞬間に
飛びかかっていって餌を奪い返したこと
などを「しろ」に話した

「しろ」は夢中になって聞いていた
「しろ」にとって知らない世界
餌を奪い返した力強さ
その生き生きとした様子に心を踊らせていた

「僕もそんなふうに生きてみたかったな・・・」
羨ましさと諦めの気持ちが入り交じった
気持ちが「しろ」の心に渦巻いた

「こんな綱をひきちぎって一緒に街で住もうよ
 私と一緒に」
キラキラとした言葉に「しろ」は遠くを見つめた

「僕も何度もそう思ってこの綱をひきちぎったさ。これで自由になれる!
その思いが僕を見たことのない景色を走らせた。
森や公園を全速力で駆け抜けて僕の道を走ったんだ」

「でも その度に 飼い主が僕を追いかけてきて、体も心も捕まえていくんだ。そしていつものあの重苦しい愛情を押し付けてきて 束縛というこの綱を首につけて無理矢理ひっぱっていくんだ。
そしていつもこう言うんだ」

「自分を生きるな 
私の言う通りに生きればいい
私の愛情を一心に受け、
私の心から決して離れるな」と

「僕が逃げ出すたびに 
捕らえられるたびに
その言葉を何度も何度も言うんだ
その言葉を聞くたびに
呪文のように僕の心を縛っていくんだ
そうして僕の自由を求める心は色褪せて
腐ってしまったんだ
僕は負けたんだよ・・・」

「しろ」は灰色の空を見上げながら泣いた
私はそれ以上何も言えなかった

「しろ」の自由に生きていきたい気持ちは痛いほどわかる
でも 「しろ」の心を縛りつける
見えない束縛の綱を切ることが
私にはできなかった

「しろ・・・ 
君に何もしてあげられなくてごめん
でも君は一人じゃないから
君の心のそばにずっといるから」

「しろ」は泣きはらした目で悲しく笑った
「君がいてくれるから僕は生きていけるよ
ありがとう」

私は「しろ」にいろんなことを話した
マンホールに落ちそうになって
踏ん張って脱出したこと

縄張り争いで負けそうになって泣きながら
戦ったこと
そして自分の縄張りを守り抜いたこと

きれいな水が飲める場所を
探しだしたことなど
毎日の生活の中で起きた
いろいろな話を「しろ」に聞かせた

「しろ」は目を輝かせながら
時には心配そうな顔で私をみつめながら
はらはらしながら
嬉しそうな顔で私の話を聞いていた

私の話を聞きながら「しろ」は
知らない世界を描きながら
心の中で旅をしているように思えた

そうしていつまでも二人寄り添って
暖めあった

夕暮れになり私は
「しろ そろそろ帰らなきゃ また来るね」
「しろ」は名残惜しそうな少し淋しそうな顔で
「また来てね 待ってるからね」
私は「しろ」をまた一人にしていくことがつらかったけれど 
「また来るからね」と何度も何度も振り返った

この日は「しろ」の顔がいつもよりもなんだか
とても淋しそうに見えた


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